SOS

@zakayu

SOS

最後に会ってから2週間。決まって金曜日の夜。

そろそろ連絡が来るだろうなというタイミングで彼から連絡が来る。

意識的にしているわけじゃないだろうけれど、地球が太陽の周りを周るように、規則正しく連絡が来る。


「Kさん、俺もう限界だよ」


スマホに送られたメッセージを見て、やっぱりこのタイミングで来たかと思う。

さて、今回はどういう方向に話が展開するのだろうか。

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彼と初めて話したのは年末のこと。

時間と暇と買いたてのPCを持て余していた俺は、とあるオンラインゲームを始めていた。なんでもコミュニケーションを重視したゲームなのだそうだ。

そこで人間関係のゴタゴタを経験して「なんで趣味として遊んでるのにこんなにもやもやしないといけないんだよ!」と、思ったことも多々あるがその話を全部すると長くなるので、今回はある話だけ書くことにする。


ちょうど彼とは同じ時期に話した、ある意味同期という存在であった。

ゲームにおいて同期という言葉を使うのが適しているかどうかは定かではないが、ここではあえてそう言わせてもらう。


同じ時期に始めた人があまり多くなく、どう攻略をしていいものか手探りで進める感覚が面白く彼とは会うことが多かった。


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すこし話は変わるが

俺は昔から人の体調や心の変化に敏感なところがある。なんだか今日は沈みがちなトーンだな、目線が下向きになっているな、瞬きが多いな、なんだか眠そうだなでもそれを表に出さないようにしているんだな、など対峙しただけで勝手に相手の状態がある程度伝わってきてしまう。これはゲームにおいてもある程度使用できる。

そうしたことを直接利用しようと思ったことはないが、役に立つことはままある。

もちろん諸刃の剣みたいなもので、気を使いすぎることも多くなってしまうが。

これは家で祖父の顔色を窺うことが多かったからなのか、生来そういう性質を持ち合わせているのかわからないが、きっとどちらも関係あるのだろう。


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とある日いつものように世界を旅していたら彼が参加してきた。

普段から口数の多い人ではなかったけれど今日はいつもに増して静かだ。

なにかあったのだろうか。


不穏な気配を出していてかなり心配なこともあって

「大丈夫か?なんか調子悪い?へんなものでも食った?」と普段ならあえて聞かないことを聞いてみた。

すると、その言葉を待っていたんだとばかりに堰を切ったように彼は語りだした。


「実は俺、学校でいじめをうけてるんだ。それも明確にいじめとわかるようなものじゃなくてさ。奴ら陰湿なんだよ。靴を隠すとか椅子を外に出すとか絶対に痕跡が残るようなことはしない。教師や教育委員会があとになって調査をしたとしてもおそらくわが校ではいじめは見つかりませんでした、と結論づけるのは確実だってくらいにさ。」


そのようないじめを受けるようには見えない優しいやつだと思っていたが、人は裏ではどのような事があるのかわからないものだ。


「そうだったのか、君ならうまくやっていけそうなものだけどな」


「そう思うだろ?ただな、世の中そう簡単じゃないんだよ。いじめと聞くと弱者や変な奴が標的になるイメージがあるだろ?その側面は確かにある。けどなそれだけだと飽き足らないのか、うまくやっていけそうなやつが嫌いだというやつが現れるんだ。ただそんなやっかみを表に出しているのは恥ずかしいことだろ?私あいつに嫉妬してますってことを言うわけだから」


「だから陰湿といったのか」


「ああ、まあそれくらいはなんとかなるさ。正直なところ。もっと大変なのが家族関係さ」


抑えていたものを勢いよく噴出するかのように彼は話を続ける。


「うちの親父がとんでもないやつでさ。暴力を振るうんだ。母に。女に暴力を振るうってことだぜ。そのせいで家庭内はめちゃくちゃだ。」


「その父親は君にも暴力を振るうのか」


「いや、あいつは母にしかしない。どうやら好きすぎるがゆえにそうするらしい」


俺は話がよくわからなかった。好きな人間にそんなことをするのだろうか。


「よくわからなそうだね、まあ自分に自信がないから暴力で支配するんだ。古来から続く古き良き支配体制だよ。と、冗談はさておき、そんなわけだからさ、学校にも家庭にも居場所がなくてどうしたらいいのかわかんないんだよ」


「どうしたらいいかわからない、か」こういうヘビーな話の時には自分の意見は挟まない。求められたらこたえるのがいい。


「しかもさ、、、」


この話は3時間近く続いた。


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その時から気を許したのか、定期的に話をされることになった。

ちょうど2週間。次の日が休みの金曜日の夜に2,3時間。

たいていは上述したような話。俺は彼の人間性を気に入っているのでそんなに苦にはならない。

そんなことが続いている。


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「しにたい」


今回ばかりはどうにもならないかもしれない、そんな導入だった。

どうやらあまりにつらいことがつづいていてまともに睡眠もとれていないらしい。


「なにをやっても楽しめないし、飯もまともに食えないし、将来のことをかんがえろって言われてもなにも思いつかないし、勉強したってまともに頭にはいってこないし生きることは苦であるって言われても当たり前だろしか思えないんだ、終わってるんだこんな人生、初めから終わってるものだったらいつ終わらせても同じだろ?エンドロールなんてとっくに流れ終わってんだ。そのまま席を立たずに鑑賞するやつがどこにいる?いいじゃねえか、終わりくらい好きにさせろよってな。ずっとそんなことばっか考えちまううんだ」


どうやら事態はかなり深刻らしい。

もちろんこの手の話を聞くときには語り手がライトを当てている方ではなくその陰に隠れた事実を想像することも忘れてはならない。

それに本心で言っているわけではないけれど、誇張して話すということを人は往々にして行う。


「そうか、そんなに大変なんだな」


「ああ、もう生きていたくないんだ」


しかし、俺は内心とても焦っていた。このトーンはあまりにまずい。

死にたいって言えるやつはまだまし、なんていう言説がネットにはあるがそんなことはない。なにかの弾みで人は簡単に消え去ってしまうのを俺は知っている。


「どうしたらいいんだ、もう無理だ、八方ふさがりだ、ゲームオーバーだ、この世が早く滅んじまえばいいのに、核かなんかでさ、俺ロシアがウクライナに侵攻したって聞いて内心めっちゃ嬉しかったんだぜそのまま世界を壊してくれるんじゃないかって、このつまらない現実を破壊してくれるんじゃないかって」


「なあ、その気持ちはわかるが」


「だってそうだろう?12の頃からずっとこんな感情を抱き続けてこの先もきっと変わらないことなんてわかってるんだよ、もういいこんな話ばっか聞いてても楽しくないよな、ありがとな、Kさんに会えて楽しかったぜ」


「おい、ちょっ」


ーログアウトしましたー


ちくしょう、そんな急にいなくなるなんてことがあるかよ。


それから連絡はつかなくなった。


俺は、そのゲームにログインするのを一切辞めた。


彼が今生きているのか、もうこの世にはいないのかわからない。


けど、心の中には生きている、なんてことを言うつもりはない。


ただ、生きていてほしいという気持ちだけは確かだ。


どうか、彼に最大限の加護がありますように。





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おわりに

人生で初めて拙いながらも物語を終わらせることができてよかったです。

これはフィクションがほとんどですがこれと近いことが現実に起き、行き場のない感情をどうにか形にしたいと思って、書きだしたものです。

仲のいい人とでもいつまでも一緒にいられることはないんだということが書きたかったのかもしれません。

これからも一瞬一瞬を宝物のように大切にしながら人と関わっていきたいと思います。


やっぱ、急にいなくなられるのってキツイよなあ..

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