サクラ 11
それから数日、古川からは特に何の連絡もなく過ぎた。
変異種の被害はちらほらとあり、段々事態が大きくなっているようだった。
テレビなどでは情報規制されているのか変異種については触れないが、変質者を警戒するような報道が見られた。
真一達も忙しく動き回っているようだが、何やら被害の範囲が拡大して痕跡を追えないのだと言う。
まるで何かを探して暴れ回っているようだと言っていた。
花織はと言えば、普段と変わる所は何もなく、とても変異種だとは思えない。
やはり自分の考え過ぎだったのではないかと思えてきた。
趣味のボトルシップにも精を出し、着々と製作が進んでいる。
今までは大して気にも留めなかったが、宝石をすり替えようとして以来気になり始めた。
もっとも集中力がいるのか、サクラがいる間はあまり触らない。
サクラとしてはどんな風に作っているのか、ちょっと興味がある。
今度詳しく聞いてみようか、とそんな事を考えながら日常を過ごしていたが、古川からのメールで事態は動き始める。
花織や近隣の人の目に触れないよう、離れた地域のファミレスで落ち合う。
店員に覚えられないよう、以前の店とは別だ。
さすがは大人。サクラには考えが及ばないことまで注意を払ってくれている。
と古川に感心しながら話を聞く。
「これから言うことはあくまで調査をした結果であって、叔父さんが変異種であるかどうかを結論付けるものじゃない。それを頭に入れた上で聞いてほしい」
浮気調査として探偵に依頼した所、花織はサクラが学校へ行っている時間ほとんど家にいない。
そして、街で起こっている変異種の事件は必ずその間に起きていた。
「どこで何をしているかまでは追っていない。その……万一推測が当たっていたら、調査員の身が危険になるからね。あくまで万一だよ?」
昼間という時間の範囲は広いから、偶然ということは十分に考えられると付け加える。
そして……、と古川は恐る恐るという様子でバッグから取り出した物をテーブルに置いた。
「君の家の近くのゴミ置き場にこんな物があった」
ただのボロ布のようだが、サクラは見覚えがあった。
花織のシャツだ。
これといって特徴のないYシャツなので、どこにでもあるといってしまえばそうだ。だがこの破れ方は着古したにしては不自然で、まるで内側から大きな力を加えて破いたような……。
「近くといっても普段利用しているごみ置き場からは遠い。可能性としては低いと思うけど……」
古川はそう言うが、サクラには返って信憑性が増したようにしか感じられない。
結局古川は状況的な証拠だけで決めつけないようにと念を押しただけで、結論については触れずに別れた。
その夜、たまには手伝うと洗濯物を集めてみたが、古川の見せたシャツと同じ物は見つからなかった。
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