サクラ 9

 アクリル製の宝石を持ち帰ったサクラは、まだ花織が帰っていないことを確認して机に向かう。

 製作途中のボトルは机の真ん中に大事そうに置かれていた。

 赤い宝石も装着済みだ。

 付けようとして手に取ったらさすがに違いに気が付くかもしれないが、今からすり替わっても分かるものではないだろう。

 我ながらの知恵に感心しながら持ってきた偽物を見る。

 見た目はそっくりだ。

「よし」

 自分に気合を入れ、作業に取り掛かろうとボトルに近づく。

 しばらくボトルとにらめっこを続けた後、がっくしと肩を落とした。

 宝石は瓶の中にある船の模型に接着してある。

 それを取るためには瓶の小さな口に手を突っ込まなくてはならない。

 サクラの細い指でも一本入るのが限度。しかも目的の宝石までは届かない。

 考えが甘かった。

 よくよく考えればボトルシップというのはそういう物だと聞いた気がする。

 だからこそ見た人が感心し、価値が出る。

 しかしどうしたものか。

 机の上を見回して長いピンセットを見つける。

 まさか本当にこれで部品を瓶の中に入れて組み立てていたのだろうか、と気の遠くなるような作業を想像して呆然とする。

 聞いたことがある気はしたが、どちらかと言うと真に受けていなかった。

 呆れると言うかなんというか、花織は日がな一日閉じ籠ってこんなことをしているのか。

 何が楽しいのかサッパリ分からないが、そんなことを考えている場合ではない。

 宝石を取り出す術を考えなくては。

 ピンセットで組み立てるなら、同じように取り出せないだろうか。

 サクラはピンセットを手に取り、瓶に口に入れる。

 宝石に先端が当たり、摘まんで取り出そうとするが手が震えてうまくいかない。

 なに、ネイルと同じだ。

 それなら得意だ、と思うも思いの外強く接着されていて取り外せそうになかった。

 これ以上力を入れると船の模型を壊しかねない。

 サクラは膝をついてうな垂れる。

 苦労して手に入れたと言うのに……。

 いっそうっかり壊してしまったことにして瓶を割ってしまおうか。

 バラバラになった宝石をすり替えれば……。

 いや、これを作る苦労を想像すると、とてもそんなことはできない。

 ましてや宝石が証であると言う証拠も無いし、そうだったとしても危険があるとは限らないのだ。

 不安要素を取り除いておこうという程度のものにしては罪悪感の方が大きすぎる。

 悔しいが、これはこのまま置くことにした。

 証がダメなら直接だ。

 花織が世間を騒がせている変異種なのかどうか確かめるしかない。

 サクラは意を決して立ち上がった。

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