サクラ 7
翌日サクラはぼんやりとした頭のまま学校へ行く。
なぜか自分が変異種になる夢を見てしまったため、あまりよく眠れなかった。
やはりあの証が気味悪いのだろう。
放課後、何気ない素振りで真一に聞く。
「ねぇ、証って持ってるだけじゃ変異種になったりしないんだよね?」
真一は、突然脈略の無い問いかけをされて少し困惑したようだが、眼鏡を押さえると無表情に言う。
「マホメドはそう言ってましたけどね。ただ敵の言うことですからどこまで信用していいのか正直分かりません。それにマホメドも成功してなかっただけかもしれません。条件や個人差でも変わるかもしれませんし。絶対とは言えないので、壬生君の証も処分してもらったんですよ」
あれも高価な買い物だったのだ。
ただ宝石の価値からすれば法外だったが。
売っても大してモトは取れないが、それでも宝石として売ることもできた。しかしそれがどこかに歪みをもたらしてはいけないと、知り合いのツテでプレス機で砕いてもらったのだ。
サクラは表情を硬くして目を泳がせる。
内心なんで不安を煽ることばかり言うんだ、とも思わなくもないが、真一は事情を知らないのだから仕方ない。
全て打ち明けて相談しようかとも思ったが、花織が変異種だと疑われて討伐しようと言い出されたらどうやって止めたらいいのか分からない。
まずはサクラ自身の目でことの真相をはっきりさせたかった。
まずは証だ。
リサイクルショップで売られていたというだけで、似た宝石なのかもしれないが、そんな偶然はそうそうないだろう。
あれはおそらく信者が売り払った証。
そんなことを考えながら何とはなしにシノブシの会合に着いて行く形になった。
真一がいつものように集めた情報を開示し、魁は真剣な面持ちで聞く。
優美は部屋の隅で今ハマっているアニメの情報を漁っていた。
それもいつもの光景だ。
サクラは魁達の会話には参加せず、たまに優美の相手をしているだけだが、今日は真一の話をちらちらと聞いてしまう。
真一の話では、例の変異種の被害はここの所劇的に減っていると言う。
それ自体は珍しいことではない。
始めは無差別に暴れていた変異種も、次第に冷静さを持って自分の意思で変異するようになる。
ただ、やはり過去の事件の生き残りらしくない。
マホメドのような新たに変異種を作り出す敵が現れたにしては規模が小さい。
今回の事件は、変異種となっていたもののあまり表だって変異することが無く、本人も気が付いていなかったのではないか。
それが何かのきっかけで変異を自覚した、つまり遅咲きの変異種。
そう考えるのが一番しっくりくると話す。
それを聞いてサクラの脳裏に恐ろしい考えが過ぎった。
新たな変異種の噂が出始めたのはサクラに新しい彼氏――魁のことだが、そう定義していいのかについて疑問はあるがあくまで花織の認識だ――のことがそれとなく知られた頃と一致する。
それに対して嫉妬にも似た心配を募らせた花織が、証の後押しによって変異化が進んだと考えれば辻褄は合う。
そして花織も出かけることはある。
サクラが古川とバッタリ会ったように、花織も古川を見かけた可能性はある。
それによって目的が古川に絞られたために他の被害が減ったのなら?
ただ花織にその時の記憶はなく、本人もそのことを知らないのだろうとは思う。
花織はあまり嘘が上手いタイプでもない。
人を傷付けていながら、平然といつものように振る舞えるとは思えなかった。
花織を知らない者なら「そんなことは分からない」と言うだろうが、サクラには確信がある。
本人が知らないのなら、悟られないまま事態を解決する。
要はもう変異種が現れなくなればいい。
まずは証を遠ざける。
それで効果があるかどうかは分からないが、証によって変異が進んだのなら、証を引き離すことで次第に収まるかもしれない。
確証はないが何もしないよりはいい。
かと言って勝手に持ち出して処分しても花織に何と弁明すればよいのか。
どうしたものか……と思案していると、横にいた優美の携帯に赤く光る物が映った。
「ちょっと! 今の何?」
「ん? 今のって?」
ちょっと戻して……、とさっき見た画面を探す。
「ああ、これ? アイドルマエストロのフィギュアだよ」
優美の見せる人形なのかプラモデルなのか分からないキャラクターの胸には、赤い宝石のはまった首飾りがあった。
拡大して見ても例の証とほとんど見分けがつかない。
もちろんプラスチック製だろうが、花織は組み上げた船の中にチラッと見えるのが良いと言っていた。
取り付けた後にこっそり入れ替えれば分からないだろう。
これだ! とサクラの中に衝撃にも似た感覚が走る。
自分にも何とかできる。
「ねぇ。これ大きさは?」
縮尺が書いてあるよ……やや引き気味に言う優美の指す箇所を凝視し、人形の大きさと首飾りの比率から大体の大きさを想像する。
が正直よく分からない。
数学の授業をもう少し真面目に聞いておくんだったと後悔したが、優美が一応いくつか大きさのバリエーションもあると教えてくれた。
「でも、なんで? 今までわたしの推しバカにしてたくせに」
不満をあらわにする優実に目もくれず、サクラは意気揚々と外へ飛び出していった。
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