晴美 3

 日が落ち始め、やや暗くなり始めたというような時間。

 人気のない河川敷に数人の男達が集合する。

「おう。集まったか」

 集団を取り仕切るリーダーのような男は首に大きな絆創膏、テーピングが施されていた。

「しかしまっつぁん、首大丈夫なのかよ。結構深かったみたいだぜ」

「まあな、まだあんまり動いちゃいけねぇ」

 医者の話ではまるでカミソリで斬ったような鋭利な切り口で、鋭い分治るのも早いだろうとは言われていた。

「でもあんま激しく動くとまた開いちまうっつーからよ。今日はオレは撮影だけでいい。お前らで好きにやっていいぜ」

 それを聞いて男達は色めき立ち、ポケットから目出し帽――目と口の開いたマスクを取り出して具合を確認する。

「オレはあの女が泣き叫ぶ所が拝めりゃそれでいい」

 とハンディサイズのビデオカメラを取り出した。赤外線で暗い場所でも録画ができるタイプの物だ。

「拉致組から連絡あったか? 遅ぇな」

 手下の一人が確認してみます、と携帯を取り出す。

 療養中に手下を使って楓の通う大学や家も調べてある。

 家はかなり大きく金がありそうだった。録画した物をネタに揺すれば金にもなりそうだと皆舌なめずりをした。

 大学を出て一人になった所で一気に攫う。

 友達といたとしても、車で乗り付けて蹴散らせばいい。

 車は盗難車で足もつかない。予行練習もバッチリだった。

 拉致組は中でも腕っぷしの選りすぐり。男友達が数人いても問題ない。

「おいどうした、まだか?」

 電波が悪いのか、連絡を取っている手下はしきりに内容を確認するように聞き返している。

「いや……、それが。なんか」

「なんだ?」

 手下の煮え切らない様子に声を荒らげる。

「それが……。えらく強い奴がいるらしくて……」

「かかりそうなのか?」

 拉致に向かった連中は、一人で五人を相手に立ち回ったとか、日本刀を持った相手とやり合ったとかの武勇伝を持つようなやつらだ。

 相手が護身用の武器を持っていた所で心配するようなタマではない。

「いや……、失敗」

 そこまで言った所で手下の顔から赤い物が飛び、悲鳴を上げてのた打ち回る。

 なんだ? とその場にいる者が理解するよりも早くもう一人の悲鳴が上がった。

 何やって……、と駆け寄ろうとした手下は、目の前の景色が陽炎のように揺らめくのを感じた。

 そしてピッ、と顔に赤い線を走らせる。

 ぼたぼたと滴り落ちる赤い物を見ていた手下の腰のベルトがぶつんと切れた。

 そしてズボンが下までずり落ちる。

 そのまま何かに腹を殴られたようにくの字に折れ曲がり、地面を転げ回った。

 リーダー格の男は何が起きたのかも分からずに呆然としていたが、その体が衝撃と共に吹っ飛ぶ。

「何だ!? 何かいるのか?」

 男は新しく用意したナイフを取り出して振り回す。

 だが刃は虚しく空を斬るだけだ。

 少し離れた所で先程男が取り落としたカメラがひとりでに持ち上がり、男達を視界に捉えるような位置で止まると、赤いランプを灯らせた。

 しばらく意味もなくナイフを振り回していた男だが、ふいに手首から鮮血が迸るとナイフを取り落とす。

 唖然と手首を見る男のベルトが引き抜かれ、男の体はコマのように回った。

 ズボンがずり落ちて転倒するが、ズボンはそのまま何かに釣り上げられるように持ち上がる。

 男は暴れたが、それは衣服をはぎ取ることを手伝っただけだった。

 上着も脱げ、シャツが破れ、引っ張られ、とうとう全裸になる。

 それでも空中に向かって拳を振り回し続ける男だが、突然股間を押さえて悲鳴を上げる。

「おおう!?」

 その後も「ひゃっ!」「ぐわっ!」と小刻みに悲鳴を上げながら道化師のように踊る。

 日が落ち、周囲は既に暗くなったが、それでも暗視装置を備えたビデオカメラが見守る中、男はヘタな操り人形のように悲鳴を上げながら踊り続けた。

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