3.
「ねぇ、起きてってば!」
肩を激しく揺すられる衝撃に、アクトはハッと目を開く。
目の前には、桃色ツインテールの少女がいた。
ミシェである。
「あれ、ミシェ? ここは、どこだ?天国か?」
「何を言ってるのよ。」
寝ぼけてるの?とミシェは呆れ顔だ。
目を擦りながらアクトが辺りを見回すと、そこは馬車の中であり、朝日の差し込む殺風景な山の景色が広がっていた。
ただ、馬車から見る景色は動いておらず、荷台に他の乗客の姿も無い。
「ここは竜渓谷。 濃霧のミストロード平原を超えた所よ」
その言葉で、夢うつつであったアクトが状況を理解する。
濃霧の夜、そのまま寝入ってしまって変な夢を見ただけだったのだと。
──夢にしては妙に鮮明で、眼前に広がる景色は夢で見たような気がする、が。
「もう、ひとまず馬車から降りて降りて。 こんなところで寝てたら魔物のエサになるだけよ」
「お、おう」
少女の言う通り、馬車は街道から少し外れた平地にあった。
魔物除けは街道にしか無いので魔物の来る可能性があるという事だ。
何故こんな場所に停まっているのだろうか、とアクトは首を傾げる。
「何かあったのか?」
「トラブルがあったみたい。 何か起こってるのか、あたしもこれから見に行くところよ。」
見に行く、と言ってミシェが指を差したのは、街道の少し先、人だかりができている所だった。
ただ、アクトは何が起こっているかは既にぼんやりと察してはいた。
アクトとミシェが向かった街道の少し先の人だかりには、馬車にいた面々とは別に徒歩で来ただろう旅人の姿もあった。
人だかりの先には、深い渓谷に掛かる吊り橋がある。
いや。吊り橋があった、が正しい表現だろう。
無残に壊され手前と谷を挟んで反対側に橋の端が残っているので、吊り橋があった事が辛うじて分かる。
「どうやら、コレが原因のようね」
街道の途中の吊り橋が無くなっているのでこれ以上は先に進めない。
いたってシンプルな理由である。
吊り橋の前では、御者2人が制服姿の2人組が話している。
漏れ聞こえる話を総合すると、少し前に雷か何かが落ちて橋が崩落してしまった。
そして、復旧には2、3日は掛かるだろうとの事だ。
「これって2、3日で直るもんなのか」
すっかり崩落してしまった橋を見ながらアクトは関心したように言う。
「街道は街と街を繋ぐ生命線だからね。 それに旅人組合に任せておけば、これくらいならすぐ終わるわよ」
「旅人組合?」
「旅人の援助とか街道を整備してくれてる所よ」
ミシェの話によると、旅人をサポートしてくれる団体が旅人組合という事だ。
旅人の仕事の斡旋から、街道の整備、宿屋の手配など旅人に関連する事柄を一気に引き受けていて、馬車の御者もそうだが、吊り橋の前にいる制服姿の2人組も旅人組合の所属だという。
便利な組織があるもんだ、とアクトは関心していた。
しかし、アクトにはそれより気がかりなことがあった。
初めてにも関わらず、既視感のある景色。
吊り橋の崩落。
あの奇妙な夢を、夢で片付けられなくなっていた。
(そういえば…)
アクトは、ふと先程見た夢の最後を思い出す。
山頂で、黒いドラゴンが出てきた事。
ナナが……
「そういえば、ナナは何処だ?」
「ナナって?」
「オレの相棒だよ!くそっ、その辺を散歩してると思ってたのに……。」
アクトが辺りを見回すがそれらしい姿は見つけられなかった。
野営や食事の準備をしていた他の乗客や御者に聞くが、見覚えは無いという。
「心配しすぎじゃない? ここはほとんど一本道だから、待ってればそのうち戻ってくるんじゃないかしら?」
「オレもそう思うけどよ。 さっき、ナナが黒いドラゴンに襲われる夢を見たから、少し胸騒ぎがして……。」
黒いドラゴン。その言葉にミシェがピクリと反応する。
「アクト。その話、詳しく聞かせて。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます