4.

「黒いドラゴンと山頂で戦う夢……ね」


アクトの夢の話を聞いた後、ミシェが話をまとめるように呟く。


夢の内容としては、今と同じように橋が崩落して足止めされ、ナナの姿が見当たらない。

それを探しに山頂へ向かうアクトとミシェ。

だが、黒いドラゴンに襲われ夢はそこで途切れる、というものだ。


今のところ夢の通り、橋は崩落しナナは見当たらない。

ほぼ夢の通りにの現実が広がっているため、アクトは次第に不安感を増していく。


「アンタ、実は予知とかできる魔術師なの?」

「んな訳無いだろ。初めて旅に出たごくフツーの一般市民だよ。」


今までそんな夢見たことも無い、とアクトは断言する。


「っていうか、ドラゴンなんてそう簡単に出ないよな?夢は夢だよな??」


不安を拭うため、そんな言葉が出てくる。


そもそも、街から出ない人間からすれば、ドラゴンなど存在すら眉唾物ですらあり話の中だけの存在なのだ。

それが、目の前に現れて一方的に襲われるなどあるのだろうか。


ただ、ドラゴン討伐の専門家であるだろう竜殺しドラゴンスレイヤーと名乗っていたミシェに半信半疑気味にアクトは目を向けた。


「……ドラゴンという種族は知能が高くて、本来は人を襲ったりはしないの」


ミシェがドラゴンの説明を始める。


ドラゴン1体で村1つを1晩で更地とするほどの力を持つドラゴンだが、温厚な性格であることと高い知能のため、人の言葉も理解できる。

人間の言葉を理解し、村の守護を担っている個体もいるという。


そのため、ドラゴンが現れた場合、討伐するだけの他の魔物とは異なり、討伐前にドラゴンに交渉を行うのが常である。


「でも、あたしたち竜殺しが相手にしてるドラゴンは違うわ。 黒帝竜<コクテイリュウ>と呼ばれる、理性の無いドラゴンよ」


曰く、凶暴であり、魔物であろうと人であろうと目の前のものを全てなぎ倒す。

曰く、知能は低く、人の言葉など解さない。

本来のドラゴンとはかけ離れた変異種のドラゴン。それが黒帝竜である。


本来ドラゴンには無い黒い色の鱗に覆われ、禍々しい暗雲と共に現れるという黒帝竜。

知能は無く、その場のものを破壊し尽くす暴竜でしかないという。


「黒帝竜の名前は知ってる人は知ってるけど、黒帝竜が黒いドラゴンっていうのは旅人の間ですらあまり有名でない話よ」

「じゃあ、その黒帝竜ってヤツがオレが夢で見た黒いドラゴンって事か?」

「確証は無いけど、黒いドラゴンっていうなら恐らくそうでしょうね。」


話しているミシェ本人も、半信半疑な顔をしながら頷く。

夢を見たアクト自身が半信半疑なのだから当然だろう。


しかし、橋の崩落、ナナの不在、知識に無い黒いドラゴン。

夢と断じるには、酷く現実的に沿った内容だ。


「夢では旧街道って道を通って山頂に行ったけど、その道もあるのか?」


辺りを見回しても、街道以外には崖があるだけで、逸れ道のようなものは見当たらない。


「えぇ。街道を少し戻った場所に、旧街道って呼ばれてる山頂を通る迂回路があるわ。」



吊り橋からミストロード平原の方向に少し街道を戻ると、目立たない位置に上に登る石段があった。

階段の形状をしているとはいえ、山肌を削ってできた細く足場も不安定なものであるが。


「ん?」


アクトが何気なく階段と反対側、崖の方を見ると、獣道のようなものがあった。


「あっちは?」

「あぁ、あそこは大昔の下山道なのかしらね。 山の下の樹海に出るって噂だけど、どこにも通じてない筈よ」

「へぇ…」


目指は山頂。

アクトは、そう意気込んで石段に足を掛ける。


「あ、ちょっと待って」


ミシェが思い出したように、小走りでその場から離れる。

向かった先は、アクトも荷台で話をした大小の男2人組の所だ。

出鼻をくじかれたアクトは、遠くからミシェの様子を見ていた。


「ニーニ、トート。ちょっとお願いがあるんだけど……。」


ミシェが2言3言話す。


「うむ、お安い御用だ。」

「そういえば、さっきも1人登って行った人がいたっスよ。 山頂になんかあるんスか?」

「そうなの? こっちは何も無ければそれでいいとは思ってるんだけどね。」


ミシェがアクトの元に小走りで戻ってきた。

2人組はミシェに言われたからか、荷物から大砲のようなものを出していた。


「お待たせアクト。それじゃ行きましょうか」

「何話してたんだ?」

「ちょっと、念のためって感じかしら? 流石に夢で見たから一緒に来てくれとは言えないし…」

「そりゃそうだ。」


アクトが苦笑いする。

その辺でナナを見つけて、やっぱり夢だったかと笑って戻ってくるのが一番である。

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