31・キツネウドン

 お待ちしてましたー、と、鳥居の下でコギツネは、とはいってもコハルたちと大きさはたいしてかわらないのだけど、あいさつをした。

 この階段登らなきゃいけないの、と、コハルは聞いたら、裏に自転車や自動車が通れる道があるのです、と答えた。

 センセイは神社の本殿ではなく、その横にある普通の、ヒトだったら誰でも住んでいるような一戸建ての、ほんのすこし立派な家に住んでいた。

 センセイは、コハルたちに、ほら例のやつ言って、とせかしたので、アキラは納得した。

 待たせたな。

 待ちわびたー、と、センセイは言った。


     *


 今からきつねうどん作るから、ちょっと待っててね、その間にテーブルの上のいなりずし食べてていいよ、と、センセイは言った。

 いなりずしは山盛りで、それだけでも4人はお腹いっぱいになりそうな気分になった。

 あ、そうそう、と、センセイは、もうずいぶん前から、くてっ、と寝ていたドラコが、大切に抱えていた玉を手にとって、電子機器に接続した。

 これで数時間スレば更新終わるから、この子はソファででも休んでもらいましょう。

 コハルたちにはすごく大きく見えたどんぶりに入ったきつねうどんも、いなりずしもとてもおいしかった

 あの本殿のほうはねえ、うちらの仲間の保育園として使ってて、別に住んでるわけじゃないのよ。

 旧神、かあ、ドラコがそう言ってんの、データセンターができる前は、ここらへんは野っぱらが広がっていて、キツネやタヌキなんかもたくさんいて、それが信仰されてたりしたのは本当。

 センセイにもしっぽがある、って、それは気のせい、ただのおしゃれグッズだから、欲しかったらあげるよ、はい。

 そう言ってセンセイは、みんなに1本ずつしっぽのようなものをくれた。

 つまり、そのしっぽのようなものは4本以上あった。

 センセイってヒトなんですか、と、アキラは聞いた。

 ヒトっていうか、まあその、運営キカイではないことは確かなのね。

 つまり、アヤカシ? と先生は疑問形で語った。

 アヤカシというのは、ヒトとは異なった世界に住む知性体、なんです、と、ドラコはうつらうつらしながら説明した。

 つまりヒトがヒトとして進化する世界ではないところで、知性を持つようになったもの、と考えるといい、のです。

 なるほど、たとえば恐竜とか、なんだろう、トカゲみたいなものが進化したのがドラコの仲間なのか、と、コハルは思った。

 そのような世界、そのような知性体と接している、あるいは接するような相互理解があって、かつてはヒトがアヤカシという名の知性体と共存する、というかお互いの存在を認めていた時代があったと、いう判断ができるかな。

 ナツミとミユキは、そんなことあまり考えないで、センセイのあとをついて尻尾をさわりりまくっていた。

 センセイはさらに、そんなに時間がかからないうちにハンバーグも出してくれた。

 それはコハルたちの家事手伝いキカイが作った料理と比べると、微妙に色むらがあって美味しかったし、お腹がいっぱいになった。

 君たちが、というか君たちの世界が完全復活してしまうと、私たちの世界はまた曖昧になってしまうんだよねー、と、先生は言った。

 まぁでもそれも仕方ないことだよねー。

 もう会えなくなってしまうんですか、と、コハルは聞いた。

 そうね、たぶん今のいきおいだと、君たちが中学生くらいになると私たちのようなアヤカシは見えなくなると思うし、そういうのが人の成長だと思うのよね。

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