30・オニハソト

 センセイの家は、地図で見る限りではほんの数百メートル、1キロ以内にあることは間違いない。

 しかしこのままだと、コハルたちはキカイとイヌの警備員につかまってしまうだろう。

 キカイはヒトにひどい目に会わせることはないどころか、センセイの家まで案内してくれるかもしれない。

 でもそれじゃ、自由研究、冒険にはならない。

 そして、キカイはドラゴンになにをするかははっきりしない。

 確保、研究所で解剖、拷問とか、いやなことばかりをコハルは考えてしまう。

 そんなとき、ミユキがみんなにマイクで連絡した。

 伏線、ふくせん、フクセンだよ。

 あっそーか、とナツミは言って自転車を止め、背中のバッグを降ろしてごそごそと、なにかが入っている袋を探し出した。


 おにはそとぉぉぉ。


 あいかわらずナツミの言動は変だったけど、その声に合わせてばらまかれた、銀色のあかりの下でさまざまな色に輝く、小さなものにコハルは気がついた。

 追跡しているキカイにいちばん近くなってしまったナツミは、みんなに目で合図をした。

 イヌ型のキカイは、霧の中に頭をうずめ、探していたもの、つまりみんなが旅の途中で集めていた結晶を口でくわえて顔をあげ、首をかしげると引き返していった。

 思ったとおりです、と、ミユキは言った。

 つまり、伏線、ってことなの、と、コハルは聞いた。

 そうじゃなくって、キカイたちの行動を見ましたよね、つまり、キカイは私たちより、あの結晶の回収を優先して動いてるんです、なぜならたぶん、あれはヒトと同じタマシイを持っているから。


     *


 ナツミは結晶をどんどんばらまいて、キカイは立ち止まってそれを集めて警備の車に持っていってる。

 ナツミがいちばん熱心に結晶を集めたんだけれど、それはみんなにもけっこうな数配られたので、キカイがどんどん増えても気にすることはなかった。

 コハルが結晶を手に取り、キカイに見せると相手の動きが止まる。

 その手前に置いてみると、キカイは結晶を大切に両手で持ち向きを変えて行った。

 どこかにこのような結晶の保管場? 買い取り屋? があって、機械はそこに持っていくのだろうか。

 あの結晶がヒトだとしても、この世界はすべてのヒトのタマシイをヒトに戻すわけにはいかないんだろう。なにしろ世界はまだ未完成で、復活、いや、再起動の途中なんだから。

 全部一緒にばらまいちゃダメだよ、ちゃんと先のことも考えて、と、自分のものはほとんどばらまいてしまったナツミはいい、近づいてくるキカイにひとつ、結晶を置けばいいということがわかれば、そんなにむずかしいことはなかった。


     *


 センセイの家は、地図で確認した限りでも、実物を見た限りでも、普通のヒトの家とは異なっていた。

 まず、丘の上の家に続く道の出入り口には鳥居。

 そこからまっすぐに、長い階段。

 階段の奥には神社の本殿があった。

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