32・イップク

 センセイがキツネだったら、カフェインとか大丈夫なのかな、と、コハルは思ったけれど、特に問題はないらしく、アイスコーヒーを飲みながらセンセイは話を続けた。

 見えなるとはいっても存在がなくなるわけではないし、場所や時間を選ぶとお互い相手を知ることができる。

 だから、忘れないでいてください、ぐらいのことは言わせてもらってもいいかな。


     *


 いなりずしもおいしかったです。

 そうかー、それはよかった、いただきものなんだけどね、この年になるとなんでもいただきもので、乙女かよ稲荷ずし、っていうの。

 乙女いなりずし?

 乙女、かよ、稲荷ずし、と、センセイは訂正した。

 中に入っているのはただのすし飯ではなくて、五色の彩りがある炊き込みご飯と具という、手の込んだものだった。

 でも、いろいろ悪いことしちゃったね、こちらへ来る途中、と、センセイは言った。

 本当はねえ、あと2、3年、コハルを含めたみんなが簡単にこちらへ来れるようになったら、きちんとお願いしないといけなかったんだよね。

 えーと、つまり、途中でいろいろあったトラブルは、センセイが意図的に設けておいた、ということなんですか、と、アキラは聞いた。

 私がやったのは天候操作だけだよ、あんなすごいもんがキカイごときにできるか、っての、ライジンくんはいいやつでねえ、時間と場所、豪雨をうまく合わせてくれたんだ。

 なるほど、だからキカイもコントロールできなかったんだな。

 私がきみたちにやってもらいたかったことは、ドラコのところに行って、再起動してもらうことだけだったの。

 それは別に、この夏休みじゃなくてもいいんだけどね、ヒトじゃないとできないのよ、あれの再起動は。

 どうして、って、んー、振動?

 ヒトの固有振動っていうのがあって、それはキカイでもアヤカシでも再現できないものなのね。

 あの、ドラコはどうなっちゃうんですか、と、ミユキは心配そうに聞いた。

 別に普通に、あの子の世界に返す、帰ってもらうのね、ヒトの世界とあの子たちの世界は、もう戦争してないし、おたがいの技術を交換し合っていれば、さらに進歩が早くなるしねえ。

 ところで、ヒトとドラゴン、それにキカイは、どうして戦争をはじめたり、やめたりしたんですか、と、ミユキは聞いた。

 それについては、オマケ的になるけど、おとぎ話ふうに説明してみようかな、と、センセイは言った。

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