4章 駒からプレイヤーへの道
N36D1a ready-4/6: 覚悟 1
この場にあって、数字が関わるもの。わかりやすいのはドローンの数だ。
あれは椎奈が倒れてから急に浮かび始めた。載せている武器はカメラだけの小さな五機のドローンが周囲をのほほんと漂っている。こちらの様子を窺う目と思っていたが、もしくはリティスを監視するためかもしれない。命令に背けば何か、向こうのやり方でケジメをつけさせる。
あの距離で音なんかとても拾えない。地球上のあらゆる場所では常に風が吹いている。無風状態とは建物や木々が風を阻んだ結果だ。当然、ドローンに積める程度のマイクでは役に立たない。別の場所だ。おそらくはリティス自身に持たせている。
エプロンをどけたい。目的と手段が重なった。
左手で胸の中心を掴んだ。捻り上げると服が全身まで掴む助けになる。普段ならば体の中心を揺さぶり脚を浮かせて決着がつくが、そこはエプロンが防ぐ。リティスはわずかな動きで脱ぎ捨てて掴みから逃れた。
「大丈夫? 一度きりの手でしょ」
「ここで終わりよりましっす」
建前を聞かせる。リティスはあやが気づいていると気づいている、と
「そろそろ諦めないと、いくらリティスでも怪我させるよ」
「怪我止まりっすか? 甘すぎますよ」
地形を見る。草むらよし、窪みよし、石ころよし。リティスの目を見て、注目先よし。熱くなった演出よし。
偶然にも隠し持っていた小道具を破壊してしまった。数学者が無視できる程度の低確率と評する結果がある。物理学者が特殊な条件をいくつも重ねてようやく起こりうると補足する結果がある。誰もが無視して捨てるような可能性でも、ゼロでない限りは手品師が成功させる。
手応えあり。姿勢を立て直して再び構える。義眼で見ても熱源の点は消えた。機械を確実に破壊した。
が、それだけで終わるはずがない。数字の正体がまだ見えていない。リティスが伝えたい数字は一や二ではなく、五ではなく、おそらく六以上でもない。何かが三か四だ。
「彩さん、やってくれましたね」
「嫌味?」
「いや、やってくれたんすよ。気づいてないでしょうけど」
リティスは改めてナイフを構えた。今度は見える位置に、逆刃で。
「これでこそ決意を示せるってもんす」
じりじりと
「嘘でしょリティス、本気だったの」
「これが答えっすよ。受け入れられますか、最後まで」
解釈の幅がある言葉だ。言っていない範囲にある聞きたい言葉に変換する。人の数だけ答えがあり、誰もが自分の答えを確信しきれない。
絶望して、震える足で下がる。
「あたしは友達だって、信じてるのに」
「だからこそっすよ。わかりませんか、物事の順番は」
震える理由はお笑いだ。予感した通りの言葉が返ってくる。盗聴機はまだあって、その有無をリティスも知らなくて、ある前提で動いている。敵への信用が一致した。
空からドローンが来た。
「チャフっすか。うっかり吸うと危ないっすね」
リティスはマスクにできそうな生地をかき集めて顔を覆った。空気の勢いを殺すだけでも多少は吸いにくくなるし、粉が引っ掛かる期待もできる。万全にはとても足りないがないよりは余程いい。
その時間を使って
落ち着いて考えるために他の情報を追い出す。リティスの動きに注目していては碌な考えが浮かばない。
カメラも盗聴機もなくなってなおこの行動をした。そう考えるのが間違いの可能性もある。実際にないと判断する根拠もない。見つけられなかっただけだ。と、考えた場合に自然な行動で見つける手段は何があるか。
見えない位置として露骨なのはスカートの中だ。パニエが何重もの層を作っている。熱を覆えば
可能性は検証して初めて価値を持つ。〝ラッセルのティーポット〟だ。地球や火星が太陽を中心にした公転を続けるように、とあるティーポットも公転していると主張するならば、その存在を証明せよ。不存在を否定できないだけでは存在の根拠にはならない。
肉眼で見えず、熱源で見えず、もちろん音もない。すべてを触って確かめるのはまず不可能だ。
使える道具は十手とクボタン、あとは照明弾ひとつ。他は何も持ってきていない。
服は道具に含めなかった。もうひとつ含めなかったものがある。初めてで使いこなせるかはわからないが、試す価値はある。
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