Chapter1

 層界

 文字通もじどおり、上にも下にも続く縦長たてながの世界。

 そして地獄じごくのような世界。


 魔物まものと呼ばれる怪物かいぶつたちが世界をうろつき日々食物連鎖しょくもつれんさを繰り返す。共食ともぐいをとした弱肉強食じゃくにくきょうしょく大自然だいしぜん驚異きょういのみが支配しはいしているためである。


 そんな層界の下層かそうと呼ばれる危険地帯きけんちたいに、男は立っていた。

 眼前がんぜんには人がったとはとても思えない広大こうだい地下空間ちかくうかん。どこからともなく空間をらすひかりは、見渡す限りの生きるしかばね動く骸骨スケルトン屍食鬼グール活性死者ゾンビ大群たいぐんおぼろげに照らす。


 男は至極冷静しごくれいせいだった。

 睥睨へいげいするかのような視線しせんをそのままに、旅装束たびしょうぞくにしては軽装けいそうな上着の内側うちがわに左手をもぐり込ませ、一ちょう拳銃けんじゅうき取る。


 現代げんだいにはない、しかし現代のノウハウが使われているだろうタイトでスマートな形状けいじょうをした、くせのないシンプルな黒塗くろぬりの拳銃。

 現代の銃と違うのは、遊底スライド排莢口エジェクションポート撃鉄ハンマーが無く、拳銃特有とくゆう物々ものものしさがうすれ、パーツの一体感いったいかんが高まることで一層としての風体ふうていが感じられないものとなっている。かろうじて弾倉マガジン式であることが浪漫ロマンあふれる銃に対する体裁ていさいすくいにはなるのだろうか。


 男は装填そうてんされた弾倉を取り出して中身を確認かくにんする。中身といっても、薄っぺらい弾倉に弾薬だんやくなど入っているはずがなく。代わりに弾倉の上下にかけて一本線がり込まれ、それに沿うかのように白い光が薄くともっているだけ。パッと見ると簡素かんそな作りになっている。


 男は確認をませたのか、弾倉を再び拳銃に装填しなおし、今度は右手で帯剣たいけんしていた片手剣かたてけんを抜く。

 洗練せんれんされたやいば洞窟どうくつ内でにぶく光る。程々ほどほどあつみを持った剣。ヒルトにはたいしてこだわりが無いのか、無骨ぶこつ実用性じつようせい重点じゅうてんを置いたつくりになっている。


 そう、男はたたかいに向かうつもりなのだ。

 あきらかに千をえているそれらは、人ならざるものとして自我じがもなくなり、魔物になり果てた怪物。だが、見据みすえるひとみ怖気おじけ一切いっさい宿やどってはおらず、わりにつよ覚悟かくごに満ちていた。


 その表明ひょうめいとして、拳銃を一体の動く骸骨スケルトンに向けた男は、躊躇ちゅうちょなく引き金トリガーを引いたのだ。

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