空虚事変
小説狸
一典 呪縛[cursed]
この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。
一部、歴史上の言葉を使用している箇所もありますが、それ以外の物は全て架空のものです。
世の中には不可視な物が多く潜んでいる。
それが現実に影響を持したのは、
ここ数百年の事だ。
第二次世界大戦後、飢餓で溢れ返った日本。
そこから一年も経たないうちに、
悪魔という罪悪が生まれた。
それは飢餓から生まれた悪魔
とでも言うべきだろうか。
飢餓の所為で食せる物がついに無くなり、
同じ人間を喰い始めた人間。
それが突然変異し、
並みの人間の数倍の力を持ち、
目が青くなった。
吸血鬼の様に太陽が苦手でもなく、
吸血鬼の様に種を増やすのではなく、
結婚という概念が存在する。
だが、奴等は吸血鬼の様でしか無い。
ほぼ人間と同じだがそいつらは、
栄養を突然変異の所為で、
人間の血を吸う事でしか摂れない。
普通の人間の食事は食べられない程では無いが、
栄養を一切摂取出来ない。
その所為で人間を襲う。
人間の敵。
それを僕達人間は、
血怪《イーター》
と呼称した。
「善。何をしているんだ。
このグズめ。
お前なんか俺の息子じゃねえ。」
その言葉が今も僕の頭に焼き付いている。
毎朝、目が覚める時は必ず恐怖を感じているんだ。
苦しい。
その言葉を吐く事も出来ずに二十年間生きてきた。
だけど、僕には親が居ない。
悲壮感を感じながら僕はカーテンを開ける。
朝日が美しい。
そしてすぐ様冷蔵庫にあるコンビニ食を食べ始める。
そして大学に行く為、いつも通りの紺色のジーンズ
とTシャツ、そして上着を着てリュックを背負う。
そして、大学に着いたら授業を受ける。
休み時間は何もする事なく本を読む。
何一つ感情移入が出来ない本だ。
だけど、何故かその話は中毒の様に呼んでしまう魅力がある。
そんな人間関係の浅い僕だけど一人女子の親友がいた。
「
気ままに僕に話しかけてくる。
名前は
一軍陽キャの様な存在では無いが、コミュニケーション能力が高い。
「澁谷相州って言うんだ。
何か、面白そうだなって思って買ったんだけど、」
「へぇー、今度私にも貸してよ」
そういう他愛もない話をしていると、大学のサイレンが教室中に響いた。
[
直ちに避難して下さい。]
「やばいじゃん、逃げよ!」
咲がそう言って僕に手を差し伸べる。
僕はそれに対して了承の手を出した。
二人で走っていく。
この大学は約一千の学生がいる為、校内がとても広い。
歩道橋を渡ろうとした時、後ろから悲鳴が上がった。
僕と咲は後ろを向く。
僕達の視界には百程度の
その内の黒髪の青年が恐るべき速さで走ってくる、
爪の巨大版の様な物だ。
それで青年が咲の胴体に向かった刺しに掛かった。
僕は咄嗟に咲を押して身代わりになった。
体の奥まで羅刹が刺さった様だ。
そして、咲が歩道橋を渡った瞬間に歩道橋は爆発した。
黒髪の青年は僕を抱えて何処かに行った。
そこまで、覚えている。
目が覚めると、薄暗い部屋に僕は四肢を拘束された状態でいた。
周りを見回すと机の様な物の上に拷問具が多くあった。
手術に使うメス、パンチの様な物、そしてノコギリ。
足の感覚が異常だなと感じた僕は、足があった筈の所を見た。
足が無かった。
関節から血がポタポタと垂れていた。
感覚が麻痺していたのだ。
怖い。
苦しい。
助けて。
その三つが最初に思い浮かぶ。
何故自分はいつもこうなんだ。
そう思った。
そんな風にしていると、ガタイの良い大男が現れた。
蛙の様な目。
垂れ曲がってる鼻。
不気味に笑っているかの様な口。
気持ち悪い。
「弥勒善かぁー」
僕の無くなった足が着ていたズボンのポケットから学生証を見て僕の名前を読んだ。
汗が僕の首筋を下って服に付く。
「怖いのかい?」
あまりの怖さの為に僕は声を出すこともできず、
唾液を呑み込む事しかできなかった。
「血。美味しそうだなぁ。」
そう言って無くなった足から垂れている血液を吸う大男。
「ゔあああぁぁぁあ」
僕がそうやって悲鳴を上げると、
「五月蝿いなぁ」
そう言って僕の口にその大きな手を入れ込んだ。
「こうすれば静かになるだろぅ」
ぎょろっとした目がもっと大きく気持ち悪くなっている。
「いぃぃ」
「まだ喋るの?分かったよ」
その言葉と同時に羅刹が口の中で生まれた。
口内から大きな痛みを感じた。
そして大男はその大きな手を僕の口から引き裂く様に抜いた。
「今日はこれくらいにしてやるよぉ」
そう言って拘束された僕から離れて行った。
これが一週間続いた。
何故、僕はいつもこうなんだろう。
誰かに必要とされたくて、でも邪魔になる。
その結果がこれだ。
僕に存在意義はあるのだろうか?
咲。
咲が親の亡くなった僕に優しく接してくれた。
だけど、結局は同情でこうなったのだ。
僕が強ければ、誰かを守れる力があれば、良いのに、
「もう、君は終わりかな」
大男が汚された僕を見て終わりを感じたのだろう。
[誰かに必要とされたい。]
身体が腕も足もない。
耳も聞こえない。
何も見えない。
喉が潰れて喋れない。
感覚が麻痺して正常じゃいられない。
[結局、誰かを守るには何かを捨てなくてはならない]
「善くぅん?どう?」
そうやって僕の肩にメスを刺す男。
[いくら人を殺しても何かを守れればそれでいい。]
「もう、君は使えないか!」
そう興奮と失望が混ざった笑みを浮かべる大男。
羅刹が現れる。
[人という概念から外れればいいんだ。]
「さよならぁ!」
羅刹が胴体に刺さる。
[人を殺しても、
「痛い?」
[どの位恨まれても、孤立しても]
「苦しい?」
[僕の大切が無くならなければもういいんだ]
僕の使えなくなった身体を見て大男は背を向けて僕から離れる。
僕は咄嗟に、落ちていた大男の羅刹を食べる。
気持ち悪い。
這いつくばりながらも喰う。
血怪の様だがまあいいんだ。
でも羅刹を食べていくと美味しく感じていく。
僕は血怪になっているんだ。
身体が再生していく。
まずは足、そこから完全復活まで行った。
「名前なんだっけ?」
僕がそういうと、大男がこっちを向く。
空虚事変 小説狸 @Bokeo
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