第6話 魂の力
ギョウコウ達は、キウソの寝室に来た。
キウソはキチョウさん達とは初対面だったので少し緊張した面持ちだったが、すぐに平静を取り戻す。
「初めまして。私はキチョウといいます」
「我はソウカという」
二人が、簡単な自己紹介をした。
「初めまして、僕はキウソといいます。カイロウさんから話は伺っています。中央からいらしたとか……」
さすが、キウソだ。初対面の相手でも礼儀を欠くことなく接している。
ギョウコウはまだうまく出来ないので、これから頑張っていきたいところだ。
キチョウさんは四神や『朱雀』について、改めてキウソに話し、僕を四星の傘下へ勧誘したことも話した。
「なるほど、そんな事情が……」
「それで君に聞きたいんだけど、君はこれから何をしたい?」
「そうですね……医術には前から興味があったので、勉強してみるのもいいかもしれません。魔法を学ぶのも、悪くないかも。でも、本を買うお金もないし、難しいですね。だからまずは──」
「実はね、それ、叶えられるんだよね」
「──え?」
キウソは驚いた。
そりゃそうだ。この村のように貧しい場所では、勉強する暇などない。畑をたがやし、動物を狩る。それが普通だ。子供も、老人も。
勉強というのは、裕福な金持ちがするもの。貧しい村では、ただただ邪魔な存在なのだ。
そういう点では、キウソは特殊なのかもしれない。
それでこの提案なのだから、驚くのも無理もない。
「えっと、それはどういう──」
「私たち、四星の中に医術に精通している者がいる。アイツは頼まれ事に弱いから、私が頼んであげるよ。魔法も教えてくれると思う」
「いいんですか? 僕なんかが──」
やっぱり、そう思うよな。
「安心していい。ギョウコウちゃんもそうだけど、二人は特別なんだよ」
「特別?」
「え、僕もですか」
「そうさ。二人とも、『魂の力』って知ってる?」
「いや……」
「知らないです」
「うん。『魂の力』っていうのは、誕生した時に魂に結びつく特別な力のことさ。世界を造ってる五つの力、火・水・風・土・空の中から一番適正なものが結びつく。まれに結び付いてない者が現れることがあるらしいけど、普通はみんな持ってるんだ」
「それが、どう関係しているんです?」
「普通は魔法を勉強し、『魂の力』を顕現させる必要があるんだけど、二人はすでに顕現させているんだよ」
「顕現させると、何かいいことがあるんですか?」
「色々なことに応用できるんだ。わかりやすいのが魔法。自分の『魂の力』の系統の魔法は、普通の魔法よりも強力で、特殊な効果が乗ることがある。十人十色で、この技のことを『奥義』という」
「生まれ持った特性が『魂の力』で、それを応用するのが『奥義』ということですか?」
「そういうこと。理解が早くてたすかるよ」
キウソは褒められて嬉しそうだが、ギョウコウはまだよくわかってない。
「『魂の力』をすでに顕現させている二人は伸び代が凄まじいんだよ。そんな二人をこの村に留めるのは勿体ないから、その才能を発揮できる環境を提供したいと考えているんだ」
ふむ。僕はさっきソウカさんと手合わせしたからそんな話は聞いていたけど……キウソも?
「あの、その『魂の力』というのは、見てわかるのですか? 僕はそんなものを顕現した覚えはないのですが……」
キウソが言う。
その疑問は当然のもので、ギョウコウもだが、『魂の力』とやらを顕現された覚えはない。
「いや、わからないよ。でもね、二人の場合は確定なのさ」
「確定?」
「うん。魔法を勉強してない段階で力を出現させたからね」
「僕は、火ですか?」
ギョウコウは聞く。カイロウから魔法の発現を指摘されたし。
「そう。自分以外を燃焼させる炎を作り出すとか、上位の狩人でも簡単には使えないからね。ギョウコウちゃんの『魂の力』は火で間違いないよ」
「では、僕は?」
「キウソくんはね、水だよ」
「水?」
「カイロウの話では、全身でギョウコウちゃんが纏っていた火を消したんでしょう?」
「はい、そうです」
「普通なら火なんて消えないし、よくて重症、最悪死だ。火傷もそんな少しで済むはずがないからね。それが可能なのは、火に強い水だ」
「なるほど……」
「水を出現させなくても、火への耐性、すなわち防御として機能していたってわけ」
「はあ……」
キウソは困惑しながら聞いている。キチョウさんの言っていることは、少し難しいし……火とか水とか魂とか、複雑で……。
「では、『魂の力』が、僕の場合は水の力が顕現したから、僕たちを誘ったってことですね?」
「そういうこと。実を言えば、カイロウから報告を受けたのはギョウコウちゃんのことだけだったから、君も誘うことが出来てとても嬉しいよ」
「そうだったんですね。そんなに歓迎されているのなら、お世話になってもいいかもしれません」
「お、傘下に入ることに決めたってこと?」
「そうですね」
「ギョウコウちゃんも?」
「キウソが行くっていうので、僕もそうします」
「わかった。じゃあカイロウ、報告を頼む」
「はっ」
そう言うと、カイロウはそそくさと部屋を出ていった。
「キチョウさん、誰に報告を?」
「四星の一人にね。キウソくんを受け入れてくれるであろう人さ」
「あの、どんな人なんですか?」
キウソが聞く。キチョウさんは顎に手を添えて答える。
「そうだねー、部下思いのいいヤツだったと思うよ? 優しいし、きっと君を迎え入れてくれると思う。アイツは子供を放っておけないからね」
「そう、ですか」
キウソはホッと息を吐いた。優しい人だと聞いて、安心したんだろう。
「じゃあ、僕を引き取ってくれる人は、どんな人なんですか?」
ギョウコウは聞く。別の人物だろうから、気になって聞いてみた。
「いい子だよ。最近会ってないからわからないけど、話に聞く限り、部下や弟子たちと楽しくやっているみたい。そんなに心配しなくて大丈夫だよ」
キチョウさんが言う。ひとまず、怖い人ではなさそうで安心だ。余計な心配は不要だったようだ。
そう思っていると、カイロウが戻ってきた。
「連絡がつきました。こちらにはキウソ殿へ護衛を何名か派遣すると仰っていました」
「お、それはいいね。いつ頃に来る?」
「三日後くらい、と」
「わかった。と、いうことだよ、キウソくん」
「えっ、もう連絡したんですか⁉︎」
目をかっぴらいて、驚きを隠せていない。
わかる、わかるぞ、その気持ち。
「うん、いろんな技術を用いてね。こういうのの仕組みとかも教わるかもしれないね」
「ええ、ぜひ学んでみたいです」
目をキラキラさせてキウソが言う。
「ふふ、いい意気だ。三日後に迎えが来るらしいから、その者たちに従うように」
「わかりました。ですが、キチョウさんたちはもう行ってしまうんですか?」
「うん。実はね、四星はみんな違う場所に拠点を構えていて、ギョウコウちゃんとキウソちゃんは行き先が違うんだよ。ギョウコウちゃんは中央の西よりに、キウソくんは東よりだ。中央は広いから、かなり距離があるんだよ」
「なるほど、そうですか。じゃあ、ギョウコウも、もう……?」
「そうなるね。ギョウコウちゃん、明日には出発しようと思ってるんだけど、大丈夫?」
キチョウさんが僕に聞く。気にかけてくれているのだろう。
「……定期的に、会えますか?」
「もちろん」
「じゃあ、僕は明日で構いません。キウソには護衛が付くみたいで安心だし。あんまり居座っても、カイロウに悪いですから」
「そう。キウソくんも、大丈夫?」
「はい。定期的に会えるのなら問題ないし、早く出発した方がいいですしね。僕は大丈夫です」
キウソは笑顔で言う。
「わかった。じゃあ、明日の朝に出発しようか。ソウカもそのつもりでね」
「わかってます」
「あ、その前に、兄弟たちの遺体を埋葬したいのですが」
キウソが言う。
「ああ、そうだね。私たちも手伝うよ」
「ありがとうございます」
「うん。じゃあそうと決まったことだし、今日はさっさと休もう。カイロウ、今日はここに泊まるけど、問題ないよね?」
「もちろんです」
「ん。じゃあ、私とソウカは寝室へ行くよ。どうせ同じ部屋なんでしょう」
「そうですね、人が多いので」
「ま、そうだよね。さ、ソウカ、行くよ」
「はい、キチョウ様」
そう言って、キチョウさんとソウカさんは出ていってしまった。
相当慣れてるな、と思ったが、何度も来ているんだろう。キチョウさんとカイロウは、かなり古い関係なのかもしれない。
そう思いながら、ギョウコウも部屋を後にしたのだった。
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