第3話 来訪者①
レイネイ皇国は、ニュンペー大陸で一番大きい国である。
この大陸には、太陽神ソルが産み落としたとされる五柱の精霊によって大陸と海、大気が出来、それぞれの精霊が国を興したとされている。
レイネイ皇国は火の精霊、イグニスによって興された国であると伝えられている。
イグニスは一人の少女を選び、王に据えた。少女の名を、フランマという。
イグニスはフランマへ“火”の力を与え、その力はそれ以降の皇帝へ受け継がれることになった。
力は、五つある。
太陽神ソルが生み出した五柱を『原始の精霊』というのだが、それぞれの精霊が違うものを司っている。
火・水・風・土・空である。
この五つは原始の五柱の眷属である精霊に受け継がれ、現在でも精霊は世界の均衡を保っているのだ。
人は精霊に力を借り、力、すなわち魔法を行使する。
レイネイ皇国においては、精霊イグニスの加護を受けていることから、火に準ずる魔法は特別強力である。
──という話は、誰でも知っている。
国の辺境の小さな村に住んでいるギョウコウでも知っているのだ。
そんな話を、医者はギョウコウへ語った。
医者の名はカイロウという。カイロウは四十代後半の男で、変人として有名な男だった。
なぜ変人と呼ばれているのかというと──ギョウコウ達と同じように、山の麓に住んでいたからだ。それに加えて、よくキウソの面倒を見ていたこともあるのだろう。
ギョウコウ達が村の人々から忌み子と言われていることを、ギョウコウは知っている。
親から見放された忌まわしい子供──ということなのだそうだ。
村の人間は一見優しそうに見えるけど、心の中ではそう思ってるのだ。このカイロウという医者だけが、彼らを気にかけてくれていたのだ。
では、なぜカイロウがこんな話をしてくれたか、ということなのだが。
どうやら、ギョウコウが火の魔法を発動させたのでは、と疑ったらしい。それで、改めてこの話をしたのだと思う。
(僕が魔法とか……ないない)
そう思いつつ、どこかワクワクしているギョウコウである。魔法を使えたら、楽しいだろうな──と思ったのだ。
ギョウコウのように、魔法に触れたことがない者にとって、魔法は便利でなんでも出来る、という認識なのだ。
本当に便利な魔法は、求められる技術が半端じゃない。魔法を勉強してないと、知りようがないのである。
ギョウコウは今、カイロウの小さな診療所の外で診察の結果をまっている。
キウソはまだ目覚めないらしく、ギョウコウは常にソワソワしていた。キウソの状態がどうなっているのか、気になって仕方がないのだ。
そういえば、キウソが気を失う前にギョウコウに「新しい髪色、似合っているよ」と言っていた。
ギョウコウは自分の髪を弄る。
(ほんと驚いたよなあ。まさか髪が、白色になっているなんて)
そう、ギョウコウの髪の色は白色になっていたのだ。おまけに、毛先は薄い緑色だ。
キウソを運んだあと、カイロウの家に泊まらせてもらったのだが、寝る時に解いてなびいた自分の髪を見て、「なんだこれ⁉︎」と叫んでしまったのだ。
原因は間違いなく、あの雀だ。
火事が発生する直前、姿を見つけられなかったのにもなにか関係があるのかもしれない。
(じゃあ火事が起きたのは、あの雀のせい……?)
今まで、ギョウコウが魔法を発動させたことなどなかった。そもそも、魔法は一朝一夕で身につくものではない。才能の差はあれど、訓練が必要なことに変わりはないのだ。
ギョウコウが魔法を発動させたのは、雀が現れたすぐあと。髪の色からしても、それ以外に見当はつかなかった。
火事から一晩経ったあとも、結局あの雀は見ていないし。
(なーんか、よくわかんないなぁ……)
半ば、思考を放棄していた。
そんな時、道に人影が見えた。
二人で、見たことない人達だった。笠を被っていて、顔は見えない。
村の中心部を通過してくるということは、山に用があるのか。それとも、カイロウに用があるのか?
そう考えていると、見知らぬ二人はこちらへ向かって来た。
「失礼、カイロウ殿はここにいますか?」
前を歩いていた人物が、ギョウコウに話しかけた。金髪の青年で、この村には不釣り合いな、綺麗な服を着ている。金の長い髪は太陽のように眩しく、青年の優しい笑みは、幻想的で美しい。思わず見惚れてしまうほどに。
こんな綺麗な人は見たことがない──そう、ギョウコウは思った。
「……あの」
「あ、すいません、カイロウさんは中にいます。今、伝えに行くので、少しお待ちください……!」
ギョウコウはそう言い残し、カイロウに伝えに行った。初対面なのに見入ってしまうなんて、失礼にも程があるだろ……!
心の中で自分を殴った。
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