第3話 邂逅 2

「起きた……んですか」


「えぇ、おはようございます」


「お、おはよう」


「ふふ、動揺していますね。それもそうでしょう……日本語を完璧にマスターした金髪碧眼の美少女が目の前にいれば誰であれそんな反応になってしまいます」


 ……なんて返せばいいのだろうか。

 もう既に色々とツッコミどころが満載ではある。

 

「……そうだね、物凄く動揺してる。それで? どうしてここにがいるのか聞いてもいいかな」


 結局、全てを受け流した。

 もう相手が生まれたままの姿であることすらもどうでもいい。

 なんて言えばいいだろうか……そう、日本語を話す彼女は何だか残念な感じなのだ。話さなければ美人という存在は世界中にいる。彼女はその部類に当てはまる、これが英語であったのなら話は変わるのかもしれないが少なくとも日本語で話している間は敬語などは必要ないだろう。


「えぇ勿論。これからルームメイトになる友達ですから」


「は?」


 いや、全然受け流せない言葉が発せられた。


「どうしたんですか?学園長から聞いていませんか?私はアメリカからの留学生で、貴方とこれからを共にするルームメイト友達です」


「そっか……」


 理由など全く検討もつかなかった。

 だからこそ混乱していたというのに、彼女からの言葉は更に悠太の頭を悩ませる。


「僕に連絡の一つもないんだけど、」


 言葉を区切り、風呂場から部屋の方へと歩いて行く悠太。


「〝イリーガル・アルバドフの着替え〟」


 悠太が言葉に反応する様に、ベットに散乱している下着とキャリーケースに入った新品の制服が悠太の手元に引き寄せられる。


「まずは服着てくれない?」


「あら大変。ここに来て脱いだことを忘れていたわ」


 一切慌てるような様子はなく、悠太からそのまま着替えを渡されると眼の前で着替え始めた。一瞬、本当に女の子なのだろうかと思った悠太は悪くないはずだ。

 声音や姿は綺麗と表現できるのに、それ以外の至るところに問題がありすぎる。


「…………僕はシャワー浴びた後、朝一で学園長のとこに行く予定だったんだ。僕も着替えるから、着替えたら一緒に行こう」


「分かりました、でも私……ふぁ、あ、まだ眠いです」


「…………分かった。それならまだ寝てていいよ」


「それなら着替えなくていいですね」


 だらしなく服を着た彼女が向かうベッドはもちろん悠太が寝ているベッド。まるでそこは自分のベットであったかのように自然と眠りにつこうとしている。


「制服シワになるから着て寝ない方がいいよ」


「どうせ寝ている間に脱ぎますから大丈夫です」


 一体、何が大丈夫だと言うのだろうか。何かしたというわけではないのにため息をつきたくなる。ただこれから話を伺いに行く場所では普通にため息をつくことになるだろう……そんなことを考えると自然とため息が溢れた。


「行きますか……学園長のとこ」





「失礼します」


 本校舎と呼ばれる場所は毎年のように新設されていく校舎の総称。

 訓練場、資料館、武具屋、食堂……その他の建物が増えていく度に、この建物の存在が目立っていく。この本校者の中心に位置する建物は空中に浮かんでおり、その場所に存在するのがこの学園の長――――国光優華である。

 一代にして《天神学園》というを作り、それらを管理している世界的に名を馳せる存在である。

 メディア、《天神学園》、ここスカウトされた学生ですら姿を見ることがあまりない存在。中には国光優華を信仰している者までいるらしい。


「おぉ、侵入者だ」


「空中にあるのに侵入される方が悪いんですよ」


 そんな、人では計り知れないカリスマ性を持った人物の軽口を見事に受け流し、呆れた表情すら浮かべた。


「いやいや、普通は入ってこれないから。あ、悠太くんは普通じゃないもんね」


「中身は大人なのに体は子供の学園長に普通じゃないなんて言われる筋合いはないですけどね」


「うわっ、それ最低な発言だよ? 私以外に言ったらダメなんだからね?」


「…………」


「ごめんて」


 大人が座わっても隙間があまるような巨大な椅子に座り、一台のPCと大量の書類に囲まれ姿があまり確認できなかったが、その〝見えない〟ということを嫌がったのか国光優華は眼の前の書類をに仕舞い込んだことで姿を現した。

 白くシワ一つないシルクのワイシャツに袖を通し藍色のスカートを履く。白髪一つないストレートショートの黒い髪、その両目は世界的に見ても珍しい黒と白のオッドアイの

 それが、国光優華という人物の姿であった。


「僕が言いたいこと分かりますよね?」


「あちゃぁ……」


 わざとらしく額に手を当てる。

 だが表情は楽しそうである。


「忙しいのは知ってます。でもちゃんと報連相ほうれんそうしてください。びっくりしたんですから」


「いやぁー、ごめんねぇ。報告してなかったよね、いつも暇そうな悠太くんに……面倒事押し付けちゃった。テヘッ……って!」


 可愛く舌を出しポーズを決める学園長。

 その姿を見て悠太は大きな溜息を吐かずにはいられなかった。


「それで? 何が目的なんですか」


 こうして、学園長から直接頼まれ事をするのは。寧ろ、ここに直接スカウトされた時からかなり巻き込まれており何度か死に際を彷徨っている。だからこそ多少強くなれたと感謝はしているが、こういった面倒事を押し付けられる時に限って必ず……範疇を超えてくる。


「キレーにスルーしてくれるね……悲しいよ」


 よよよ、と悲しそうに見えなくもない表情をしつつもに腕を伸ばし、何かを取り出した。


「これ、彼女の情報。この紙はここで読んでしっかりと頭に詰め込んで行ってね。まぁ、完結にまろやかに例えると……世界最強の子守? かな」


 世界最強の子守……なんというパワーワードだろうか。

 そんなことを思い浮かべていると、紙を渡される。

 

「何を言い出すのかと思えば……」


 一体、どういうことなのか?

 どれもこれも整理がついていないまま渡された用紙に書かれていることに目を通していくと、呼吸をすることも忘れるほど重大な報告が記載されていた。


「そこに書いてあることは全て真実だよ。だから私が連れて来たってのもあるけど、逃がすのに精一杯でさ。悠太くんの力を借りてようやくって感じだと思う」


「……これが、本当に?」


「そう。びっくりした?」


「びっくりというか、あんまり真偽がつかない内容なんで」


「そりゃそうだよ。でもちゃんと見てあげてね? 助けられるのは私を除けば悠太くんだけだから」


たった一枚の紙。

それにはイリーガル・アルバドフの個人情報が少し記載されていた。だが目を見張るべきはそこではない。


「アメリカからの?」


「そう。理由はおいおい話すけどさ、まぁ面倒見て上げてよ。ってことで、悠太くんは出来る限りイリーちゃんと一緒にいて上げてね! 日本語は話せるけど右も左も分からない子だからさ。じゃ、私は会議があるからいなくなるよー、ばいびー」


 右も左も分からないのは、僕も同じなのでは?

 そう返答しようとしていた頃には学園長の姿はなかった。


「――――取り敢えず、寮に戻るか」


 書かれていることがあまりにも衝撃的で忘れることができそうにない。

 まだ数分しか見ていない用紙を片付けられた学園長の机に伏せ置き、悠太も学園長室から退場した。

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