第14話 研ぎ澄まされた一撃


 日本喜望峰専門大学校

 現実組キャンパス

 階段



 どうしよう。


 未咲希は、氷が解けたことによって周囲が温かい水でいっぱいになっており、足も温まり動くようになった。


 だが、この状況。

 近くでは冷泉院 白と坂崎 始が戦っており、このまま下に行っても、戦いに巻き込まれる可能性が高い。


「……!」


 あることを思い出した。

 並木という人物。

 あの時、現実組の生徒会長の傷を治していた。


「でも、行くしか--」


 それしか、助かる道はない。

 仮に保健室に行っても、本来は幻想組に属している自分たちを治してくれるだろうか。

 そもそもどこにあるかも分からない。


 ……彼女なら、あの抗争の中にいるかもしれない。


 事情を知っている彼女の方が--


(あたししか、いない……!)


 ごめんね、アンタ。ちょっと無茶する。


 未咲希は、赤髪を背負うと転ばないよう階段を降り始めた。


「ごめんなさい……」


 唸るように泣きじゃくる声が聞こえてきた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……ううっ……うううう……ごめん、なざい……!」


「もう、いいから。」


 それだけ言って、未咲希は落とさないようにゆっくりと降りていった。



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 日本喜望峰専門大学校

 現実組キャンパス

 駐車場



「くっ……!」

(こいつ……強い!)


 出せる手立てがことごとく封じられ、西園寺は苦戦を強いられていた。


「魔本の軌跡」


 自身の能力を発動させ、怒りの書が自動で現れる。


「化学の書、火の項」


 怒りの書が魔法の書に覆い被さると、Fireの文字から発生していた火が、炎となり猛々しく燃えた。


「武器の書、斧の項」


 怒りの書は武器の書に被さると、武器の書のAxeの文字が斧となり、西園寺の手元に渡った。


 そして、先程出した燃え盛るFireの文字を斧に貼り付ける。

 すると、斧から炎が吹き出し始めた。


「ブレイズアタック!」


 炎を纏った斬撃が、有野へと襲いかかる。


「ヒーローズ・ドグマ」


 カッと有野の身体が光、腕に盾のようなものが形成されていく。


「キャプテンシールド!」


 赤と青の盾が、出現し斬撃を防ぐ。


「効かん!」


 今度は人差し指を前に出し、西園寺に狙いを定める。


「スパイダーロープ!」


 指から白い糸が噴射されると、西園寺の腕に巻きついた。


「っ!」


「せえのお!」


「グラスホッパーシュート!」


 後ろ回し蹴りで、引っ張られた西園寺を蹴りつけた。


「武器の書、盾の項!」


 瞬時に盾を出し、防ぐもその盾が砕けてしまった。


「いい!?き、効いてない?」


 そのため、何もしていないのに無傷であったかのように見えた有野。


「いや、効いたよ。」

(いくら強化されているとはいえ、なんて蹴りしてるんだ……)


 その手がずっと震えているほどに、痺れてしまっていた。


(手なんか使わなくても、僕の能力は使える。)


「物理の書--」


「ちょっと待った!」


 手を前に出して、有野は西園寺に止まるよう手振りで伝えた。


「タンマ!」


 そして、有野も向こうに気づいた。

 ラヴァゴーレムが、学校に向かってた拳を振り下ろそうと、腕をゆっくり上げていた。


「おい!そっちは……!」



「先にあっち止めねえと!」




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 日本喜望峰専門大学校

 現実組キャンパス

 屋上



 目の前から、ズシンズシンと大きな巨体を揺らして、喜多のラヴァゴーレムが近づいてくる。



Checkチェック



 バイポッドは、いらないな。



「フーっ……」



 Distance距離……1.3km


 地球の自転を感じろ。

 銃口を向ける方向、良し。

 風速10km/h、風の影響問題なしClear

 銃口のすぐ先、同じく風速10km/h、風の影響Clear問題なし

 1.3km向こう、風速9km/h、風の影響Clear問題なし


 日射角度Clear問題なし

 Scopeスコープに日光は入っていない。

 標的の映像歪みなし。


 温度、湿度、時間帯、障害All Clear全て問題なし

 標的との間に水たまりや池もない。

 銃弾の形状、銃弾の回転によるスピンドリフト……No Problem絶対に問題なし



 あとはスキを見計らうだけ。


 呼吸を乱すな。


 敵から目を離すな。


 まばたきすら、一瞬の油断になる。


 銃をぶらすな。


 定めた狙いから動かすな。


 ただ相手の急所を、核を、心臓を、死ぬ場所を狙え。



 腕を振り上げた。



(Just Now!)



 トリガーを引くと、目に見えない弾が射出された。



 だが--



「うおおおおおお!」


 一陣の風が吹いた。


 全身をパワードスーツに包んだ、たった一人の男が、宙を飛んでいた。


「グラスホッパーシュート!」


 巨体が揺れ、振り下ろされかけた腕が弾かれた。


What'sはァ!?」


 弾かれたことにより、巨体が揺れた。

 そのため、結果的に有野の攻撃によって、狙いが外れてしまった。


「おい、邪魔だ貴様!」


「……?」


「退けと言っている!」


「今ので腕吹っ飛ばないか……いや、」


 攻撃を受けた腕の再生が遅いことを確認した有野が、にやりと笑った。


「もう一発か……上等!」


Damn itクソが!」


 話を聞かない全身パワードスーツの男に向けて、空気銃エア・ガンによる威嚇射撃を半分ヤケクソ、半分八つ当たりで攻撃した。


「おい!」


 弾丸を装填し、夕紗は屋上から飛び降りた。


「危な--」


 おれはその時とんでもないものを見た。

 たった一瞬だった。


 こいつが降り立った時、もう溶岩の化け物はぶっ飛んでた。



「嘘だろ……」



「ふー……最初からこうすれば良かった。」



 たった一瞬の勝負--

 夕紗は、いずれ身体と核が対角線上に来るよう、屋上から飛び降りた。

 そして、1秒にも満たない時間。

 飛び降りた瞬間と同時に銃を構え、そんな中で狙いを定めたまま落ちていき、核の場所まで落ちながら来た瞬間に引き金を引いた。

 だいぶ荒業ではあったが、結果的には成功した。


「おまえ……」


 呟く全身パワードスーツの男を無視し、倒れていた喜多がいる場所まで近寄り、見下ろして空気銃エア・ガンを構えた。


 もう、いつでもトドメをさせる。


Checkmateチェックメイトだ。」

「……笑えてくるな。こうも無傷で、簡単に、オレの切り札を……倒されるなんて……」

「そんな話はどうでもいい。だが、貴様にはこちらの頼みを聞いてもらう。」

「まぁ……勝者の特権だな……答えなかったら、撃つか?」

「貴様の態度次第だな。」


 喜多は諦めたように、空を呆然と眺めていた。


「今すぐにいじめを止めさせろ。貴様の権限で。」

「無理だな……」

「……What's?」

「オレの一声で止まるなら、とっくにやってる。オレも真面目で優秀な人間でいられた。」

「どうだか。」

「はっ……だが、無理だ。安孫子がいる限り、それは不可能。」

「やはり根幹はそこか。」


 解決出来ないこと。

 根元を蝕む害虫を駆除しなければ、この問題が解決しないことに、夕紗は先が思いやられる。


「あの男の能力にかかれば、そいつは奴の思うがままさ。」

「いや、奴の能力は洗脳じゃない。下手をすれば、洗脳より厄介だが。」

「……そうかい。オレが気づけねえのに……いや、お前だから気づいたのか。」


 もう全部やりきって、無気力な喜多。

 彼が引き金を引いたとて、もう抵抗する気も気力もなかった。


「おい誰だ!」


 ズカズカと夕紗の元へ近づいてくる謎のパワードスーツ男。

 先程の攻撃を無効にした邪魔者。


「おれが倒すはずだったのにぃ……!」


 男は、ギリギリと心底悔しそうに歯ぎしりする。


「人にものを聞くのなら、まず自分から名乗るべきじゃないか?」


 考える素振りを見せると、今度はまるで電球が光るエフェクトが付いたような反応をして見せた。

 分かったと言わんばかりのリアクションをし終えると、首元を一定のリズムで叩いた。

 プシューという音とともに、マスクを外し、その素顔が露わとなった。



「ぎゃーっはっはっはっはっっは!よくぞ聞いてくれた!」



 その男は、満面の笑みでこう言うのだ。



「俺の名前は、有野 叡臣ありの あきおみ。いつか幻想と現実の架け橋になり、英雄になる男だ!」


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