第12話 英雄伝説の幕開け
日本喜望峰専門大学校
現実組キャンパス
駐車場
「この気配……喜多さん!?」
周囲の幻想組の生徒たちが、力を放出する喜多の存在に気がついた。
幻想組が士気を取り戻したかのように、チラホラと声を上がっていく。
「喜多……来ていたのか……!」
西園寺もまた、喜多が来ていたことを察知していた。
だが、それ以上に大きな疑問があった。
(だが、誰と戦ってるんだ!?)
足止めされているのか、一向にこちらに来る気配は無い。
(喜多が足止め?教員の中でもあいつに敵う人はいない……じゃあ誰が!?)
「うわばばばっばばば!!」
遠くで悲鳴と共に、何かが落ちる音がした。
「次から次へと……」
「スキあり!」
西園寺の背後から、火の魔法が飛んでくる。
すると、西園寺の背に本が回り込み、本が独りでに開いた。
書かれている文字が緑色に光り、浮かび上がると、風を起こして火をかき消した。
「はっ?」
「こういうことも、予め読んでいる。」
相手を見ずして、西園寺はいとも容易く幻想組の生徒を倒していく。
はっきり言って、レベルそのものが違う。
「僕は現実組の生徒会長だぞ。」
彼の進撃を止めることが出来るのは、各学年トップか、それに匹敵する者たちだろうが、全員が足止めされている。
西園寺の目の前には、幻想組の数えきれないほど多くの一般生徒が構えている。
しかし、彼にとっては時間の問題であった。
すると突然、背後から叫び声が聞こえてきた。
「戦いをやめろ!」
聞き覚えのない声だった。
「一体、誰が騒いでるんだ……?」
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現実組キャンパス
屋上
「スチーム」
赤い球体と青い球体が混ざり合うと、蒸気が煙幕のように放出された。
「無駄だ。」
視界は閉ざされているはずにも関わらず、寸分たがわず発射していく。
「グランド」
黄色い球体が、土塊に変化し、弾丸を防ぐ壁となるように立ちふさがった。
しかし‐‐
「……だろうな。」
容易く壁は貫通され、喜多はかわすもかすり傷を負った。
「まいったな、生成が間に合わん。金属やダイヤモンドを作り終える前に、
不気味、呆れなど湧き上がる感情はあったが、それ以上に戦闘の楽しさを感じてたまらない。
喜多は冷や汗をかいて、笑っていた。
「能力が現実なのか、同類の幻想なのか、どっちなのか分からねえ。変な能力使うな……初めて見たぜ。」
「それは……
「お前、ほんとに人間か?」
「見ての通りだ。」
「ほんっと、世界は広いなァ!」
ニィイと口元を歪ませた喜多が、黄色の球体と緑の球体を混ぜずに左右の手で別々に触り、回すように球体を操り始めた。
「プレッシャー」
ズズゥン……!
「これは……!」
(重力……)
夕紗の体に、一気に重いものがのしかかるような感覚が襲い掛かる。
「生まれてから死ぬまでずっと付きまとう重いものだ。それを更に倍増させた。」
「驚いたな。重力操作は出来ないだろうに、こういうことは出来るのか。」
「しばらくそこではいつくばってもらいたいんだが、全然余裕ありそうだな。」
「……時間稼ぎか。」
「悪く思うな。」
(俺の能力は便利だが、不便でね。大抵のものはなんでも作れるが、ひとつひとつ工程や段階を踏まなければいいけない分、時間がかかる。)
「こっちの
ダッ
踏み込んで、一瞬で距離をゼロにした夕紗、目に見えなくても分かる。
「冗談だろ」
銃口は、俺を捉えている--!
(このまま撃てば終わりだが……)
未咲希の顔がチラつく。
(あの女には絶対、"殺すな"と言われるな。……どうやって、終わらせるか。)
マガジンを抜き、専用のマガジンを入れ替える仕草を瞬時に行う。
(
だが、喜多がすぐさま緑の球体で風を生成し、逆風を利用して避ける。
(そう動く!)
動きを読んでいた夕紗がすかさず追い、攻撃を仕掛けた。
「アイス」
青の球体掴むと、下の方まで持っていき、氷の柱を連射する。
宙にいる状態でありながら、それを撃ち崩し、喜多の両腕を夕紗の両足で踏みつけ、固定し地面に叩きつけた。
「行け!」
夕紗の声で赤髪が頷き、赤髪が未咲希を連れて屋上を後にした。
「グランド」
上から土の塊が、降ってくる。
察知した夕紗が即座に横に避ける。
「ファイア」
追撃に炎が襲い来るも、曲芸師のようにかわしていく。
「ウィンド」
更には風の刃が襲いかかり、風の向く方向に流されるかのごとく、夕紗が隅に追いやられた。
「ゲイザー」
間欠泉が吹き出し、自身に直撃した。
「溶けろ。」
「Hot……熱い……!」
「!」
夕紗の一瞬の判断で上に飛び出したのが、功を奏した。
間欠泉から飛び出し、高架水槽を利用して距離をとった夕紗は自分の状態を確認した。
(殺す気だったな。)
全身火傷による痺れはなく、やけど自体も大したことがないこと確認し、引き金を引く感触も問題ない。
それが分かってから、夕紗は二丁拳銃を捨てる仕草をした。
「
そして、両手でひとつの銃を持つように--
カチッ
「!」
構えた。
夕紗が構えた瞬間、ゾッと喜多は恐れを感じた。
これが殺気なのか、あるいは死の恐怖なのか。
彼自身には、分かっていない。
ダダダダダダダダダダ……!
「う……ぐ……!」
(さっきよりも比べ物にならないくらい速い!いやそれ以上に、この連射速度と弾数……!)
どこに逃げても、どこに逃げても銃口は追ってくる。
(加えてあのあいつの機動力か……参るぜ。)
「エア」
喜多は緑の球体を触り、自身にバッと振りかけると、そのまま屋上から飛び降りた。
宙を浮遊するも、屋上からスコープを覗き込むように構え、狙いを定めていた。
「もう少しなんだけどな……グランド」
時間稼ぎに土塊を壁にし、宙を駆け回る。
「"ライフ"を作るしか、もうねえのか……」
(だが……こいつ相手に、どう時間を稼ぐ……)
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階段
「ハァ……ハァ……」
「あ、あの……下降りすぎない方がいいんじゃ……だって、このまま下行けば、幻想組と現実組に……」
「……!」
それを聞いて、赤髪は足を止めた。
そして、向こうで戦っているであろう自身の幼なじみを思った。
(白……)
足が止まってしまった赤髪の姿を見た未咲希,
どうしていいのか分からず、再び声をかけていいものか、変な蟠りが邪魔をする。
「ど、どうしたの……」
ドゴォン……!
「きゃあ!」
「今……なにか……」
踊り場の壁が壊れ、突然何かが飛んできた。
何かは下の階に落ち、砂煙に隠れた"何か"が明るみになる。
「白……」
思わずといった様子でその名を呼び、衝動赴くままに彼女のそばに寄った。
「朱莉……」
切り傷やらでボロボロの彼女を見て、思わず声が漏れた。
力ない彼女の姿を見て、色々な気持ちが込み上げた。
もし自分が一緒に戦っていれば、こんな事にはなっていなかったのかもしれないと。
「白……」
しかし、その感情は……現実に戻される。
「うっ……!」
幼なじみの手は、自身の守るべき存在に向かっていた。
粛清対象を見つけた彼女はニィと笑い、氷の妖精が彼女の足を封じた。
「っ……!」
赤髪は目を疑うように、ボロボロの幼なじみの姿に目を向けた。
「癪だけど……ちょうどいいわ。あなたには聞きたいことが、沢山あるの。」
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グラウンド
「ゲホッ……ああ、ここまで……やられる……かよ。」
宙を移動していた彼は、とうとう撃墜され、地面に倒れ伏せていた。
ボロボロで、全身にはいくつも弾丸で撃ち抜かれた状態であり、なんとか急所を避けることでいっぱいいっぱいであった。
だが、彼がなし得たのはそれを行いながら、自身の目的を達成したということだ。
「なんとか……できた……」
最後の力を振り絞り、立ち上がる。
左手に、時間をかけて用意した赤以外が混じった球体と赤と緑の球体をよく混ぜていく。
「ライフ」
最後の力を振り絞り、立ち上がる。
右手に、赤色と黄色い球体を混ぜていく。
「ラヴァ」
そしてその2つを、一緒に混ぜ込んだ。
「オレはもう限界だ……」
息が荒れる。
「だから……これが最後だ……」
久しぶりに全力を尽くした。
「行け、ラヴァゴーレム」
心から、笑って見せた。
「グオオオオオオオオオオオ」
喜多の背後から、溶岩がまるで巨人のように形成される。
そして、動き始めたのだ。
溶岩が。
溶岩の塊が、だ。
自律し、動き始めたのだ。
力を使い果たした喜多は、地面に大の字になって倒れた。
「ほんっと、世界は広い……このままじゃ、無駄な時間をこのクソみたいな学校で過ごさなきゃいけなかったところだ。」
世の中にはあんなに強いやつが。
オレよりも、強いやつが--
「もっとオレに、夢を見させてくれ……!」
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屋上
「仕留めたと、思ったんだが。」
これで未咲希たちの元に行けると思っていた夕紗だが、状況が一変した。
「仕方ない。あれに校舎を壊されては、元も子もない。」
ラヴァゴーレムは、夕紗を目掛けて、ズシンズシンとゆっくり迫ってくる。
「流石に、核はあるだろうな。」
時間は無いが、観察をしてそうとしか思えなかった。
何かこれを形成し、動かしているエネルギー源があるはず。
それを撃ち抜けば--
(出し渋る訳にもいかぬか……)
「
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現実組キャンパス
駐車場
「あれは……喜多のラヴァゴーレム……!?」
その近くには、喜多が倒れているのを薄目に見て取れた。
(そこまで追い込まれたのか……あの男が!)
彼と数え切れないほど戦い、何度もあれに負けてきた西園寺だからこそ、あれが何かを理解し、より危険性を理解していた。
そして、喜多があれを出さざるを得ないほど追い込まれたという事実。
尚更、相手が誰かというのを知りたいところではあるが、そんな場合では無い。
「このままじゃ、幻想組のキャンパスまでぶっ壊れるどころじゃ済まないぞ……!」
(だが、止めるべきなのか。喜多の……あの男の全力を。今まで退屈そうにしていたあいつが、倒れてでも相手にぶつけた、全身全霊の攻撃を。)
「だから、お前らどけって!おれはお前らと戦う気ねえ!おれはお前らを止めに来ただけなんだって!」
奥からあの聞き覚えのない声が聞こえてきた。
ようやく、その姿が見えたが、やはり見たことの無い人物であった。
「幻想の奴らも、現実のやつらも、もう戦うのやめろって!なんのために戦ってんのか、分かってんのかよ!……ん?」
彼も気づいた。
「なんだよ……あれ。」
あのラヴァゴーレムに。
グラウンドの設備が、歩く度に溶けていく。
「止めねえと!」
「待て!」
西園寺が、彼を呼び止めた。
「君は、何者だ……?」
そう聞かれた彼は、ニィっと笑った。
「おれの名前は、
ビッと自信を親指で指をさす。
「おれの名前を覚えとけ!そして刮目しろ!今から始まる、おれの英雄伝説の序章を!」
彼の右目がカッと光る。
「ヒーローズ・ドグマ」
全身にパワードスーツを身にまとうその姿、正しくヒーロー。
風にたなびく、マントとスカーフが目立っていた。
「……ッ!」
この人は、善意で動いてくれようとしている。
そんなことは分かっている。
生徒会長として、僕はあれを止めるべきだ。
「待て!」
でもね、そんな無粋な真似するほど--
「どうしても行くというのなら--」
野暮じゃない。
「僕が相手になる。」
腐れ縁として、貸1だ。
でも、そんなこと以上に、君が負けていることに腹が立つ。
「僕が君を倒して、僕がアイツを消してやる。」
あいつを倒すのは、この僕だ。
「だから、邪魔するなよ。」
「はァ!?」
ヒーローは、ただただ驚いていた。
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