/// 17.オーダーメイド・ロングダガー

昨日、初めての強敵に躓(つまづ)き、固くそそり立った角セット5000エルザと黒革2000エルザはゲットすることはできなかったアンジェの落ち込みようはすごかった。狩ることのできなかったホーンバッファローに抱(いだ)いた、どうしようもないくやしさはを胸に帰宅したのだ。


そしてラビの用意した海鮮ラーメン・蔵亜軒(くらあけん)の特選海老ラーメンに半チャーハンセット、1200エルザというがっつりしみる夜食に、それはもう二人でウマウマと舌鼓をうちまくったぐらいにはすっかり忘れ、ほっこりと眠りについたアンジェであった。


そして昨日のバトルでレベルがひとつ上がって4に、力が一つ上がってAとなったアンジェは、ラビと朝からお出かけである。ギルドの中のショップではなく、ラビの知り合いのドワーフがやっている武器工房を尋ねる予定だ。


昨晩、ラビに強い武器の相場を聞き、アンジェの愛用しているロングダガーに代わる武器でいうと、もちろん上を上げたらきりがないが、下層の下、深層のボスぐらいまで使えそうな上位クラスのものであれば、それこそ下層ボスに控えているキングバッファローの角を素材に入れたダガーであれば十分に戦えると提案した。


そのお値段相場、200万エルザ!その値段にやはり驚いたのだが、ラビは「そのぐらいならもうアンジェちゃんの口座にあるのよ?」という言葉にも驚いた。


中層のボアや下層のカウと、短期間ではあるが相当数を狩っていたアンジェ。大半を援助に回しているのだが、それでもどんどん口座は膨れ上がっていた。それほどに上位の冒険者というのは儲かるものなのだ。


しかもアンジェは浪費をせず、装備にもあまりお金をかけていなかった。というよりローブが優秀すぎて不要となっていたのだ。そして今日は奮発して新しい武器をオーダーメイドでという提案に少しドキドキを胸に秘めながら二つ返事でうなずくのであった。


武器工房まで向かう中、道すがら朝食替わりにとクレープ屋台で軽くおなかを満たす。目的の武器工房『頑固な武器屋すたぼんうえぽん』にむかった。


「ルドルフさんいますかー?」


まとまりなく武具が置かれている無人の店の奥に向かって呼びかけるラビ。すると奥からがっちりとしたザ・ドワーフといった風体の男がどすどすと歩いてきた。


「おお、ラビじゃねーか。珍しいな」


「今日はうちの新しい一押し冒険者を紹介したくて・・・アンジェちゃんです!すごいのよこの子!」


そう言ってラビから紹介されるが当然のように背後から顔だけ出して小さくコクリと挨拶をする。


「ほお、見た目からは想像できないぐらいスゲーステータスだわな・・・それに・・・」


そういってジッとこちらを見つめるルドルフという男の目線は徐々にさがり、アンジェの胸元で止まった。


「きゃう!」


変な声を上げたのはもちろんアンジェである。ルドルフの胸への視線を感じて半分だけ出していた体をすべてラビの後ろに隠してしまう。


「おい!今勘違いしてたりしねーだろうな!小娘の体なんぞ見ても何もおもわねーよ!」


その言葉に勘違いなのだと胸をなでおろすアンジェ。


「おめーのそのローブ、女神の加護がえげつなく練り込まれてるじゃねーか・・・ダンジョン産のアーティフェクトだろうが・・・できれば譲ってほしいぐらいだぜ」


「ふふふ。それがね、どうやら気に入られちゃってるらしくて、脱げないみたいよ」


ローブのことを伝えるラビの言葉に唸るルドルフ。


「んんん・・・ますますほしいな・・・アンジェといったか・・・ここで働かんか?・・・ていうのは無理なはなしだわな」


途中でラビの殺気のこもった視線で話を方向転換させたルドルフに、たははとほほを掻くアンジェであった。


「今日はこのアンジェちゃんにね、飛びっきりのダガーを作ってほしくてきたのよ。深層で戦えるほどのね」


そのラビの言葉に、急いで愛用のロングダガーを取り出し前に差し出す。ルドルフはそれを受け取ると、なにやら唸っていたが「ちと借りるぞ」といってそのまま裏へ消えていった。


しばらく不安な思いを抱えながら待っていたアンジェであるが、ラビさんが何も言わないならと今はラビの背中に頬をすりあわせることに夢中であった。後ろ手でポンポンと頭をなでられもう御機嫌であった。



「ほれ・・・手入れぐらいはした方がいいそ」


そう言って戻ってきた早々、ロングダガーを投げ渡してきたので慌てて受け止める。コクコクと首を縦に振ってお礼を言うと、またラビの後ろの定位置に落ち着いた。


「予算はどのぐらいだ?同等のサイズのロングダガーなら上は2億までやれんことはない」


2億って・・・と驚くアンジェであったが、ラビの「どうする?」という言葉に小さく「200万ぐらいなら・・・」と答えていた。


「わかったよ。200だな。一つ聞きたい・・・そのローブ、風呂とかはどうしてる?トイレは、収納に入るのか?そのほか何かないか?こうなんでもいい!可能な限り教えてくぶっ」


徐々に興奮した顔をどんどんアンジェに近づけていく男・・・見る人が見れば事案である。そこにラビが入り込んで手でガードした。なので今のところノータッチセーフであった。良かった良かった。


「もう!興奮しすぎ!アンジェちゃん怯えてるじゃないですか!後で私が書面で資料出しとくので・・・それに見合ったモノをお願いしますね!」


「ほんとかっ!良し!それに負けないアーティフェクト級のを作ってやるわ!ぐはははは!」


そのテンションにラビはため息をはき、アンジェは戸惑うばかりであった。


結局200万エルザを前私して1週間後に受け取りということになったので、その日は昼食を取ってからラビはギルドに戻りアンジェは下層前半に繰り出していた。


まずはここで・・・武器分を取り戻す!拳を前に突き出して全力狩りをするアンジェは、さらに貯蓄を増やしていくのであった。

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