/// 16.孤児院と下層攻略
ラビの暖かな肌を感じながら、すっきりと起きることができたアンジェは、ラビと一緒に下へ降りギルド長であるエルザの元へ訪れた。
「なるほどねー。アンジェ、あんたホントにお節介焼きなのね。大樹の家の時もそう思ったけど・・・」
ラビから昨日の話を聞いたエルザは呆れた顔をアンジェに向けていた。
「まあ、男爵の件があって、もう邪魔は入らないだろうし、昨日の今日ではあるけど私も他の孤児院の経営が気になってはいたのよ。調査依頼出そうかと思っていたところだわ!」
「そうだったんですね。てっきり何も考えていないかと・・・」
「ラビ!私をなんだと思ってるのよ!まったく・・・まあいいわ!これはアンジェだけが背負うものじゃないの!ホントは大樹の家の事だってそうなんだから!」
ラビの言葉に不貞腐れながらも、エルザはアンジェには背負わせない宣言をする。エルザに指をさされたアンジェはあたふたと慌て、椅子から降りてラビの背中に顔を隠す。
「はあ・・・なんでこんなに恥ずかしがりやなのに色々やりたがりなのかしらね・・・」
「ふふふ。それがアンジェちゃんの魅力じゃないかしら」
ラビからの嬉しい言葉に照れながらラビの背中に顔をうずめてぐりぐりとしている。
「とりあえず、イーストにある孤児院と確認できているのは『大樹の家』を抜かすと残り4つ!多分アンジェが見たところは名前もついてない孤児院ね。まずは各孤児院の状況を確認するよう依頼を出すから、後は場合に応じて支援!アンジェは先走ってスタンドプレーはダメよ!他の冒険者と同じように、後々は手伝ってもらう事になるんだから!・・・まあ・・・頑張りなさい・・・」
その言葉にコクコクと首を縦に振るアンジェを見て納得したのか「まずはこれね」と走り書きしたメモをラビに手渡すエルザ。「わかりました」と受け取るラビと一緒に自室を出る。
「アンジェ、まずはもっと強くなりなさい!強くなればやれることも増えるわ・・・」
アンジェは、部屋を出る際にエルザから投げかけられた言葉に、しっかりと頷いてまた強くなる理由ができたことを再確認していた。
自室のドアは閉じられた後、ひとり残されたエルザは椅子にもたれかかるとため息をはく。
「言いすぎかしら・・・無理しなきゃいいけどねー」
自分の言葉を反省すべきか悩むエルザは、この後の流れを考えながらまだ朝食がまだだったことを思い出し、次元収納からオーク丼と濃厚ミルクを取り出すと急いでかき込むのだった。
◆ギルド長室前
ギルドを出たアンジェとラビの二人。
「アンジェちゃんは今日はどうするの?」
「今日は・・・夜まで狩ります!」
「エルザちゃんも言ってたけど、無理しちゃだめよ」
ラビの言葉にコクリと頷くアンジェは、一度ラビの胸に飛び込むと、ぎゅーーと抱きしめスリスリした後で、顔を上げて「行ってくる」といってギルドから出て行ってしまった。
「あの子は・・・無理しちゃうんだろうな。晩御飯・・・美味しいもの用意しなきゃね・・・」
そんな事を思いながら、自分の仕事に戻っていった。
◆イーストダンジョン・21階層
アンジェは気合を入れて先へ進む。
昨日はここでしばらく力をつけるべく留(とど)まる予定ではあったのだが、少しでも早く力を付けなきゃ!と先を急ぐ決断をした。
(きっとエルザさん、そしてラビさんに任せれば、ほかの冒険者さんたちも巻き込んでドンドン解決していっちゃうよね・・・じゃあ私は!もっと強く!いざという時になんでもできるように!今やれることは全部やろう!)
強い思いを足に込め、下へと向かうために目の前の赤い空の下を目的地に進んでいく。
途中で見かけたブルーオックスの群れは手早く狩り取った。幸い今まで大けがなんてしていない。魔物に打ちのめされるイメージは全くない。もし仮に痛い目にあったとしても、それを糧にさらに強くなれる気がする!アンジェは一種のランナーズハイのような状態で次々に先へ進んでいった。
22階層からさらに進むと、レッドカウという赤黒い見た目の魔物も少しづつ出現するようになってきた。ブルーオックスより少し大きめでゴツゴツした筋肉質のメス牛らしい。事前情報では短い突進と固い表皮が難点で、なかなか苦労しそうだ。さらにはブルーオックスの群れと一緒に行動するので、連携を組んで攻撃を仕掛けられるというので、かなり厄介になりそうな予感はしていた。
すでに互いが認識している状況ではあるので、とりあえず最初はとじっくり様子見をしながら、その攻撃パターンを確認しようと試みる。
まずは見慣れたブルーオックスを隙を見て攻撃していく。バックステップに入ったそれを、警戒して軌道を先読み、躱していく。そこにレッドカウが光を放ったと思ったら2メートル程度の短距離砲のような突進が飛び込んでくる。これやばい・・・これがレッドカウ版のオーラアタックらしい。とりあえず躱した後に動きを止めたレッドカウに一撃を与えてみる。ロングダガーをなんとか届いた耳後ろ辺りに、それなりの力をこめる突き刺してみる。躱しながらという体勢の悪さもあって表皮を削る程度しか傷はつかなかった。
レッドカウに視線を向けすぎたのか、すぐ横にブルーオックスが飛び込んでくるのを直前まで気づかず、懸命に体をひねって躱すが、かなり直撃に近い状態で当たってしまったため、ローブにその角先がガチっと当たる音がした。少しだけ圧迫感を感じたがあまり痛みを感じなかった。そこで目の前のブルーオックスは動きを止めたので、首筋にロングダガーを突き立て、その命を狩り取り、そのまま横倒しに倒れ込んだそれを収納しておく。
仲間が倒されたことに躊躇したのか、少しだけ攻撃が止まっていた。
その間に少し考える。結構な直撃で当たったがあまりダメージはなかった。もちろんレッドカウについてはもっと大きく筋肉質なので、その衝撃はどの程度か想像できない。でも躊躇してはいられない。少なくともブルーオックスの方は何とかなりそうだ。多少は当たりに行くぐらいでも動きを止めて素早く狩り取ってしまえばいい。
そんなことを考えながら、勇気を出し自分からブルーオックスに向かっていく。すぐにバックステップをしたそいつがカチカチと両足を鳴らして光り出すし、こちらへ向かってくる。本当はバックステップで止まったぐらいに切りつけて見たかったアンジェは覚悟を決め足を止めると両足をしっかりと地面につけ身構えた。
(思ったより怖いかも・・・)
そんな恐怖を乗り越えながら少し斜めに体を捻りながら、まともにぶつからない程度に当たりに行く。先ほどよりは強いドシンという衝撃に思わず「うっ」と唸(うな)るが実際それほど痛みがない事に安堵する。そして光が消えたそいつの首もまたアンジェ渾身の一撃の餌食となった。
勇気を出して実行した作戦通りの展開に安堵したアンジェは、その横からきたレッドカウの直撃をまともにくらってしまい少しパニックになってしまった。
「あぐっ!」
(あーーー!いた・・・くはないけどびっくりしたーーー!)
まったく痛みがなかったわけではないが、驚きの方が先に来たアンジェはその衝撃の方へ視線を向けると、そのまま首を押さえつけ全力で突き刺すと『ぐもぅ』とうめきながら動きをなくした。そして収納が成功すると、どっと冷や汗があふれてきた。
(あぶなーーい。いや良かった!100%直撃だよね。身構えてもいなかったし・・・でもそこまで痛みはこなかった。ほんと、このローブやばっ・・・)
どうやらレッドカウも問題なく狩れるようだ。その体内にため込まれた特濃ミルクは500エルザ、光沢のある落ち着いた赤黒い色合いの革は1000エルザ。個人的にはブルーオックスより高く買い取ってもいいのでは?と思うツヤではあるが・・・狩り取った命を値踏みしていく。
そしてもうこの下層はさくっと通り過ぎてもいいのでは?・・・そんな思いがふつふつと沸くほどの無敵っぷりに足取りも軽い。
鼻息も荒くしてアンジェはどんどん下に降りてゆく。
27階層まで下りると遂にこの下層一番の強敵、ホーンバッファローが出現する。次の階層への階段を目指しつつも、途中で発見した初ホーンバッファローに少しワクワクしながら様子を見ながら近づいた。そして気づかれない内に全力の一太刀を叩きこんでみた。
残念ながらさすがに大した傷を与えることはできなかった。
黒光りするがっちりとした体、長く立派な二本の太く鋭い角がこちらを向いて尖っている。
すでにこちらに気づき怒ったように前足を上げるホーンバッファロー。
そして左右の前足を少し上げてからドシンと地面に打ち付ける。すると衝撃波のような見えない何かが打ち出されたようで、とっさに前に構えたロングダガーにズガンと負荷がかかる。それに合わせて少し横に体を軽くひねりながらその勢いを受け流す。それでもダガーを飛ばされそうになるほどの衝撃を感じた。そして体勢を整え、ホーンバッファローに視線を合わせると、光を放つそれがすでにこちらに向かってきていた。かろうじて躱すが、絶対聖域(サンクチュアリ)を抜け、ダガーにそのままぶつかり、その勢いのままに手をすり抜けて飛んで行ってしまった。
(やばーーい!こわすぎマジ卍!)
あまりの恐怖に前世では一回も使ったことのなかった流行語を脳内に流しながら、急いで飛んで行ったダガーの元へ走った。幸いホーンバッファローを含むその群れは、こちらを追いかけるそぶりは見せなかった。ホッとしながら愛着のあるマイロングダガーを拾い上げ、思わず頬ずりしてしまう。
そして今度はその動きを見逃さないようにしっかりと観察する。レッドカウが2頭ほどこちらに向かってくるので腕をクロスにしてそのまま耐えてみた。少し体は浮いたものの、多少の腕のしびれに顔をゆがめながら、両手で握ったロングダガーを左右の首筋に突いていく。とりあえずは何とか2頭とも致命傷を与えることに成功し、ホーンバッファローから目を離さないようにしながら収納した。
そしてそいつは再度前足を上げ、ドシンと衝撃波を発生さえるとこちらに飛び込んできた。
(なるほど。さっきもこんな感じですぐに飛び込んできたのか・・・これじゃ躱せないはずだよね)
衝撃波を放った瞬間に飛び上がりならが、それなりに冷静にそいつの動きを見ながら分析することができていたアンジェは、突進が空振りに終わって光が消えたその首筋に、体重をのせた一太刀を深く突き刺した!・・・つもりだったが、それは数センチ先を刺さっただけで止まってしまったため、慌てて抜くと、バックステップで距離をとった。
今日一番の傷を負ったはずのそいつは・・・まだ元気いっぱいのようでこちらをまた睨みつけているように見えた。
(これは・・・だめなやつかな?)
なんせ攻撃が通らない。初めての苦戦に仕方なく撤退を余儀なくされたアンジェ。ひとつ上の26階層に戻る。
先ほどのうっぷんを晴らすようにアンジェは時間の許す限り、赤と青のマタドーラと化すのであった。
(ラビさん・・・新しい武器が・・・ほしいです・・・)
◇◆◇ ステータス ◇◆◇
アンジェリカ 14才
レベル4 / 力 A / 体 S / 速 A / 知 B / 魔 F / 運 S
ジョブ 聖女
パッシブスキル 肉体強化 危険察知 絶対聖域(サンクチュアリ)
アクティブスキル 隠密 次元収納 小回復 防御態勢(ガード)
装備 ロングダガー 聖者のローブ(女神の祝福) 罠感知の指輪
加護 女神ウィローズの加護
◆神界
「うっ!はうっ!ああんっ!はああーん!」
まるで欲求不満の団地妻のように腰をくねらせながら恍惚な表情を浮かべるのは、そう、この神界で唯一神、女神 ウィローズという変態駄目神であった。
仕事終わりの夕刻、下層でマタドーラと化しているアンジェの様子を見ていた。オーラアタックを次々受け止め、自慢のローブに攻撃を受ける度に悶えてながら、まるで新たな扉を御開帳しているような様子であった。もちろん御開帳されてはいないのだろうが・・・心配である。
「はあ・・・はあ・・・アンジェを守るためぼろぼろになっていく私・・・泣けるわぶふふふふ・・・」
その後も、涎をまき散らしながらハアハアいっている女神。
アンジェが夜遅くまで狩りを続けることで、先に体力が尽きたその変態は、神のベットに突っ伏すとそのまま幸せそうな顔をして眠りにつくのであった。
「ぐふふふふ・・・アンジェ~~~。私があなたを守るもの~~~だからええやろ~~~ぐふふふふふ・・・」
夢の中でもアンジェを守る。そんな慈悲深い愛溢れる女神に幸あれ!
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