/// 15.孤児院でどっきり

アンジェは今・・・ある少年をストーキングしている。


いや、決して悪い意味ではないのだ。ダンジョン帰りに偶然泣きそうな少年を見つけ、どうしたのだろうと町はずれに向かったその子を追いかけ、様子を窺っていたのである。その少年は、ちょっと薄汚れたシャツとズボンを着ており、もしかしたら大樹の家と同じように食うに困った孤児か何かなのではと思っていた。


そしてその少年はかなりの距離を歩き続けた。塀の外には出ていないものの、かなり街のはずれにある古ぼけた倉庫のような家?へと入っていったのであった。試しに窓から中を覗いてみると、先ほどの少年とその他、3人ほどの子供がなにやらおもちゃで遊んでおり、年配の女性が台所で食事の準備をしていたようだ。そしてその女性が振り返り・・・窓の外で覗くアンジェと目線が合う。くっきりバッチリ合ってしまったのだ・・・


女性はびっくりして手に持っていた鍋を落としそうになって慌てていた。それを見ていたアンジェもアワワワしていたのだが、女性が鍋を落とすことなく耐えきったのを見て、ほっと一息をついていた。そしてまだこちらを見ている女性と、ついでに子供たちの目線に気づき、慌てて窓から見えないように座り込み、そして赤面していた。


少し時間がたってから、先ほどの女性が玄関のドアを少しだけ開けてこちらをこっそりと見ていた。そしてまた目線があってしまう。


今度は女性から「あの・・・何か用ですか?」と聞いてきたので、ここだ!と思い恥ずかしさをこらえて収納から備蓄していたワイルドボア肉を3切ほど出すと、縦に重ねて女性の近くまでもっていき顔を背けながら震える手で差し出した。


「これは・・・頂けるので?」


かなりの不信感がこもっているであろうその女性の言葉であるが、この状況では仕方のないことであろう。


「も、もらってください!私・・・冒険者で・・・また、来るので!」


そう答えるのが精一杯のアンジェからお肉をいただくと「ありがとう、ございます」とお礼を言う女性。そしてその後ろから顔を出した子供たちも、口々に「ありがとう」とお礼を言われ、アンジェの心は少しだけ軽くなった気がした。そしてペコリと頭をさげると、いつものように常人には捉えられないスピードでギルドへと走り出していたのだった。


突然消えてしまったお肉の女の子にあっけにとられていた面々ではあったが、せっかく頂いたお肉だ。と喜びがじわりと湧き出て「やったね!」と口々に言いながらそのお肉を冷蔵ロッカーにしまい込んだ。



◆イーストギルド内


ちり~~ん♪


ギルドのベルがなり、カウンターのラビはいつもの柱を見る。そこには少し頬を染めた笑顔のアンジェの姿があった。


対応していた冒険者を手早くあしらうと、足早にアンジェの元にやってきてそのまま抱きしめた。石鹸のにおいが鼻をくすぐる。きっとまた、一旦部屋に戻ってお風呂に入ってきたのかな?そう思いながら「おかえりアンジェちゃん」と声をかける。そしていつものように一緒に解体所に行くと、狩り集めたブルーオックスをどかりと吐き出し。


待っている間に「後で話したいことがあるの」と言ってきたアンジェに「わかったわ。じゃあ仕事終わったら何か買ってくわね」そういって頭をなで、甘やかしていた。


一通り撫でまわされた後、報酬を口座へ入れてもらったアンジェは部屋に戻ってベッドに寝ころんだ。あの子たちもどうにかしたいな。そう考えていた。これからもっと深く潜れるようになればもっともっと稼ぐことができる。すべてを救うなんてそんな前世で読んだ異世界の英雄のようなことはできないけれど、私はあの子たちを見てしまった。関わってしまったのだ。せめて目に見える範囲だけでも救いた。そして自分でも、多少なりともそういったことができてしまうのではないか・・・そう思っていた。


そんな考えをぐるぐるぐるぐと巡らせていると、すぐにラビの仕事が終わる時間になっていた。


コンコンというノックの後で、ラビが「ただいま」と顔を出す。手に持っっていた袋をテーブルに置くと、中から良いにおいをさせた紙パックが出てきた。


「今日はオーク亭の直火焼きオーク弁当を買ってみました!」


もうニコニコな笑顔である。オーク亭はこのギルドのすぐそばにある人気のがっつり肉系メインの弁当屋である。ボア汁付きでなんと700エルザ!


「ラビお姉ちゃんありがとう」


満面の笑顔を見せるアンジェであったが、その後、クゥと小さくお腹の虫が鳴くので真っ赤になってお腹を押さえた。それを見ていたラビはまたまたメロメロである。


とりあえずと見つめ合いながら楽しい夕食を過ごす二人。直火焼きで厚めのオーク肉に秘伝のスパイスがきいたタレが絶品!ここイーストで採れた『こしくだけ』という品種の甘みのあるふっくらとしたご飯がまた良い!そしてボア汁は大き目お肉にみそ風味、しょうがも利かせた一品で、どんぶりが進む味わいであった。二人で何もかも忘れ、お腹を満たして楽しいひと時を過ごすのであった。


・・・と、このようにすべてを忘れてしまいそうになっていたアンジェだが、忘れていた事をやっと思い出したのはお風呂上がりでほっと一息をつき、そろそろいつものように仲良く抱き合って眠りに付こうかな?というところであった。


「あ・・・お姉ちゃん・・・」


「なあに?アンジェちゃん」


「すっかり忘れてたんだけど・・・」


そういって夕方あったことを話し始めたアンジェ。


「そんなことがあったんだね・・・でも初めての人達にもちゃんとお話もできたようだし、アンジェちゃんは頑張ってるんだね」


そういって甘々に甘やかし頭を撫でていくラビに、アンジェは目を細めて胸にうずくまる。喉がゴロゴロとなっていても不思議ではない。そしてアンジェは大樹の家と同じように何かできることはないか?そして自分だけでは何もできないことを伝え、今後のことを相談するのであった。


結局、大樹の家の時と同じようにギルド長エルザに相談して、なんらかの形で援助できないかを確認することになった。実は大樹の家の件も、エルザと相談したうえで、食料や金銭、備品の受け渡しをギルドの依頼という形で円滑に進めるよう手配していたのであった。もちろん依頼主はアンジェだったりするし、たまに自分で届にもいっていた。


最初はエルザもラビも、冒険者全体で援助していく形を作ろうと思っていたのだが、アンジェが鼻息荒く私が!と強く願い出たため、無理のない範囲でラビが調整することを条件に行われていたのであった。そういった事情も一部の冒険者、主に胸に三角のバッチをつけている面々たちが率先して格安で依頼をこなしていたりしたのだ。


まずは明日の朝、一緒に相談にいうということにして、その日は仲良く眠りにつく二人であった。



◆神界


「アンジェは今日から牛野郎とバトるのね。ここで狩れるぐらいになれば一人前!もう心配はいらないんだけどね・・・やっぱりまだ心配だわ・・・」


いつになく真剣に見守る女神。しかしながらその顔はゆるみきっており、その口元もまたゆるっゆるのようで、涎(よだれ)の雫(しずく)を嗜(たしな)むことも忘れない。やはり変態駄目神は変態駄目神である。


「あっ!あぶないっ!おっ!ふぅ・・・」


アンジェの激しいバトルに一喜一憂する女神。一応は絶対聖域(サンクチュアリ)もしっかりと発動しており、万が一にも直撃したところで、あのレベルのであれば一切ケガなんて無用!というほどに聖者のローブ(女神の祝福)の防御は高かったのである。それはもう枯渇気味の神力を全振りしたのであるから当然と言えよう。


「ふふふ。絶対聖域(サンクチュアリ)も効いてる効いてる。そう!アンジェは今私に包まれているのよ!私の神力によって作り出されたあれはもはや私!私と抱き合いながらの共同作業!そしてさらにアンジェの大切な内側を守るのも私!あのローブは私そのもの!もうこれは・・・やったわね・・・やったといっても過言ではないわ!」


ふんす!と鼻息を荒く「やった」と宣(のたま)う女神・・・何をやったのかは定かではないが、きっと彼女の脳内ではやったのであろう。その証拠に口元の涎の濁流ばかりか鼻からも鮮血がほとばしっており、腰がぐりんぐりんと動いていた。


その後、アンジェが帰り支度をしているのを眺め、息切れを起こしベッドに横になり、体をヒクヒクさせている女神は、その後のショタっ子ストーキングや、ラビとの愛(ラブ)Loveランチトークに至るまでを見逃したまま、深い寝りにつくのであった。でも大丈夫!きっと彼女はもっとすごい、何がすごいってそりゃぁーもう!って感じの夢模様がきっと創造されているに違いないのだがら・・・


そんなこんなで今日も世界の平和は守られたのである。

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