/// 14.下層探索はじめました
昨日は色々あったせいで下層には足を運べなかったアンジェ。
しかし空いた時間を使うべく、夜は図書室で下層の情報収集に余念はなかった。
孤児院の件についてはラビから「気にしなくていいよ」「アンジェちゃんのせいではないんだから」と言われてはいたものの、やはり自分が原因の一端となっているのだと感じていた。そんな思いを打ち消すように、下層へ向かうべく20階層へのポータルを踏んだ。
20階層の待機部屋の階段をおりる。
いよいよ21階層だ。と拳に力を入れて降りていったのだが、その階段は降りた先には一面の青空と草原が広がっているテキサスの荒野のような風景であった。
気になってぐるりと振り返り階段の方を見ると、大きな岩山があり、そこには先ほど降りてきたはずの上への階段が続いている・・・
(どうなってるんだろう?)
階段はあるがその岩山は高く空まで続いているわけではない。多分4~5メートルほどしかない岩山だ。それはもうダンジョンの摩訶不思議パワーというしかないのだろう。その空の上だけは少し赤く染まっていた。
いつまでも気にしていてはと思い、再度自分の周りを見渡してみる。
遠くの方で同じように少し赤く染まっている空があった。おそらくあそこが次の階層へと続く階段があるのだろう。そして遠くの方で所々、土煙が渦巻いているところがあった。海外のバッファロー?という、うろ覚えなイメージな牛さん型の魔物がチラホラ見える。ただしその色合いは青かった。最初の階層なのであれがきっとブルーオックスという魔物なのだろう。うん青い。かなりキモイ。
まずは様子見とばかりに近くの群れに近づいてみた。もちろん隠密を発動させている。近くでみるとその真っ青な色合いはやはりキモかった。
残念ながら、4人組のパーティーが戦っていたのでその場を離れる。特に苦戦しているようには見られなかったため、助けに入ったりすることは不要であった。まあ、実際苦戦をしていたとしても、助ける義理はないのだが。できればそんなパーティがいたら少しでも手助けしてあげたいと思っていた。もちろんあまり気づかれないようにであるが・・・
しばらくうろうろと獲物を探していくと、2頭のブルーオックスを見つけた。大人しく草をパクついている様子の2頭に気づかれないように近づくと、一気に距離をつめ、そのうちの一頭の首筋に全力で切り付ける。バシュっという音と共にその首に傷をつけるも、致命傷とはいかなかったようだ。そして危険を感じたそいつは、アンジェの方に顔を向けたかと思ったら、ひょいっとバックステップをして距離を取った。
そして2頭のそいつは後ろ脚を地面にカツカツと交互に打ち付け、体全体から光を放出させていた。図書室で確認していたオーラアタックというスキルであろう。固い塊となって突っ込んでくるらしい。そんなことを思い返しているうちに、2頭のそいつらはこちらへ向かって弾丸のような体当たりを繰り出してきた。想像していたよりもびっくりはしたものの、難なくひらりと躱すアンジェ。
そしてさらに方向を変えて緩やかにカーブを描き、再びアンジェに向けて飛び込んでくる。ワイルドボアは直線的な突進と毛針攻撃であったが、こちらはこういった連続攻撃を仕掛けてくるということで、複数に囲まれてしまうと不規則にこのスキルを繰り出され、一発でも当たれはそのままコンボ攻撃を食らってしまうのである。試しにすれ違いざまにロングダガー充ててみたり、距離が開いた際に、目を狙った投擲をしてみたがまったく効果はないようであった。
とは言え、今回は2頭のみ。しばらく躱し続けるとブルルと鳴いてその場で立ち止まる。視線だけはこちらを向いて威嚇をしているが、今がチャンスとアンジェは素早く飛び込み、また首筋に力いっぱいロングダガーを叩きつけたのだ。
ゴキリと否や音がして、1頭の体が横に倒れ込んだ。この状態の時は筋肉が緩みきっていて、刃が通りやすいようが。まだいけると思ったアンジェは、もう1頭の方も切りつけようと飛び込むが、その一太刀は空を切った。すでに硬直がとけたそいつは再びバックステップを使って躱したのである。
残念と逃げたそいつに目線を配りながら、倒した方を収納にしまいこむ。
そしてまた、そいつがオーラアタックを繰り出していく。怒りからか先ほどより少し早く感じるが、もはや1頭となったその攻撃は、何度向かってきても当たりようがないのだ。そして立ち止まったそいつにたいして、再度ロングダガーの攻撃がその命を刈り取ったのである。
ほっと溜息をついてからその1頭も収納にしまうと、ふたたび次の獲物を探しはじめるのだ。
なんとかここで狩りを続けれそうな手ごたえを感じていたが、途中5頭の群れと遭遇した時は何度か当たりそうになり、絶対聖域(サンクチュアリ)が発動して事なきを得ていた。しかし、もしも直撃してしまった場合は絶対聖域(サンクチュアリ)があってもはじくことができず、さらには聖者のローブ(女神の祝福)の防御力でも耐えきれない攻撃であった場合には、もしかしたらそのまま死んでしまうかもしれない!という恐怖感があった。
もちろん「全然平気!ノーダメージでした!」という結果に終わればよいのではあるが、さすがに命をかけて試すわけにはいかないので、無理には先に進まず、しばらくここで様子をみつつ狩りを続けることにしたアンジェだった。
30頭ほど狩ったであろうか、徐々にその動きに慣れていき手ごたえを感じるアンジェではあったが、新しい狩場での戦いということもあってか、少し疲れがでてきたため、4時ごろと少し早めに帰ることにした。ここは21階層。すぐに20階層に戻ると、帰りのポータルにのり、そのままギルドまで向かった。
ブルーオックスはそのやわらかなお肉は2000エルザ、角はセットで1000エルザ、ブルーの美しい牛革が1000エルザと一頭につき4000エルザになる。もちろん素材の状況によっては前後するのだが、30頭なら金貨12枚、12万エルザ程度になるのだからもうウハウハである。とは言え、冒険者として活動するのであれば、ケガや病気にそなえての貯えであったり、武器や防具、魔道具などに出費も大きい。
アンジェは不本意ながらも防具については聖者のローブ(女神の祝福)があるので十分ではあるが、狩りの報酬の大部分を孤児院の援助に回していることもあり、もっと頑張って稼ぎまくるぞと拳に力をこめていた。
実際には、特に浪費をしない彼女のギルド口座は、連日の探索でそれなりの勢いで桁を増やしていっている。アンジェ自身はあまり関心がないようで、いずれラビから口座に残る金額を伝えられ、あたふたしてしまう未来もあるかもしれない。それをみてまたラビはほっこりするのであろう。どこかの変態駄女神もきっと何かを噴き出すに違いない。
◇◆◇ ステータス ◇◆◇
アンジェリカ 14才
レベル3 / 力 B / 体 S / 速 A / 知 B / 魔 F / 運 S
ジョブ 聖女
パッシブスキル 肉体強化 危険察知 絶対聖域(サンクチュアリ)
アクティブスキル 隠密 次元収納 小回復
装備 ロングダガー 聖者のローブ(女神の祝福) 罠感知の指輪
加護 女神ウィローズの加護
帰りがけ、ステータスを確認すると、知力がBにアップしていた。特に攻撃魔法などを使わないアンジェにはあまり関係のない数値ではあるが、ひとまず成長しているのだと感じて少しうれしくなってしまう。
そして明日も頑張ると気合を見せた帰り道、アンジェは路地の片隅でコンテナのような箱の上に座り、泣き出しそうな顔をしているひとりの少年を見つけてしまった。本当は関わらずにスルーしても良いのかもしれない。でもアンジェは人が嫌いなわけではないのだ。人目で恥ずかしくなってしまうだけで、特に子供は大好きなのだ。遠くで眺める分にはという注意事項が入るのだが。
そんなアンジェが、子供の泣きそうな顔をみて放っておくことなどできるだろうか?いやできるはずがなかった。
・・・が、その少年とは反対側の路地裏に隠れ(どう声をかけてたらいいの?ううう、ラビお姉ちゃんたすけてーー!)と戸惑っているアンジェは、10分ほどその少年を見続けていた。考えるほどにアンジェの顔は赤く染まっていく。どうしよう?どうしたら良い?とただただ時間が経過しているうちに、その少年は座っていた箱から降りると、とぼとぼと町はずれに向かって歩き出したのだ。
声をかけようかまだ迷っているアンジェは、その少年の後を黙ってついていくしかできなかった。
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