/// 13.蜃気楼の聖女守護の会
皆さんは最近、このイースト界隈で密かに広がりつつある組織をご存じだろうか?
『
突如降臨した、聖女と呼ぶにふさわしい奥ゆかしさを備えたアンジェリカという冒険者を崇め、見守る組織である。
このイーストギルドのギルド長エルザの親衛隊である
『
そしてそのギルド受付の兎獣人、アイドルラビを愛する者たちの
『
ここ最近のこのイーストでは、その3名の愛しき女性を崇め奉る人々の熱い魂が、けして広くはないこのギルド内にすべて集結されているのである!
三者三様の思惑、それぞれが唯一神として崇めるもの。
そしてさらには、アンジェ×ラビ、エルザ×ラビ、アンジェ×エルザとそれぞれのカプリンに夢膨らませる者達、そしてその三者すべてを愛(め)でようと画策する罰当たりなものさえもいた。その熱き魂の渦が、徐々に血を血で洗う抗争へと発展する・・・かに見えた・・・
ある日の金曜日。時刻は13時。食堂でご飯を食べた後、ある場所に集まった三人。
ミホリン司祭、聖浄守斧(クリーンシュフ)・ザンガス!
エルみる総長、紳士教(ノータッチ)・ロルペード!
ラビア騎士長、愛騎士(ラブナイト)・ゼルシオス!
ザンガス、かつては暴走戦斧(ぼうそうせんぷ)リーダーであったドワーフが、聖浄守斧(クリーンシュフ)として聖女アンジェ様を守護するため、その戦斧を使うと決めた男である。
ロルペード、紳士教(ノータッチ)という幼い少女たちを救うため、慈善活動にいそしむ『NOタッチ』を心に刻みこんだ男である。
セルシオス、主君たる王を守るため、かつては聖騎士の長を務めたが、新たな王、ラビ様を慕い、愛騎士(ラブナイト)となって陰ながらサポートしてきた男である。
そんなこのイーストでは知らぬもののいない三者が、一堂に集うことは・・・たまにしかないのだ!
そう、それぞれ立ち位置が違う者同士、交わうことなどなかったのである・・・天使エルザ様を愛でるためギルド長の自室近くの食堂付近に集まるエルみる、かたや受付の女神ラビ様を陰ながら守るため、反対の入り口付近を活動場所にしているラビア。
その二つは、距離の近さから毎日四六時中と顔は合わせてはいるが・・・けっして交わることはなかったのである!
そこに新興勢力として、いまや飛ぶ鳥どころか飛ぶ女神さえ血しぶきを上げるという、聖女アンジェリカを崇拝するミホリンの面々が、食堂よりの玄関、つまりはラビアの反対側の玄関付近に集結しているため、それはもう・・・血を血で洗う何かになりそうな予感をひしひしと感じてきていた今日この頃だったのである。
その三者が訪れたのはセルシオスの自宅の応接室である。かつては聖騎士長にまで上り詰めたため、金はある。その広い部屋の一番目立つ壁には、功名な画家に大金を積んで書かせた、君主ラビ様の笑顔の巨大絵画が飾られ、愛騎士(ラブナイト)としての威厳を見せつけ、ほかの二人をどや顔でけん制していた。
しかし、ロルペードとて紳士教(ノータッチ)として布教活動をしている結果、一部の貴族から多額の寄付金を受け取り、それを元に幼女たちの庇護に余念がない。それでも余りある金で、布教への活力として、自宅には功名な造型師に作られた等身大の天使エルザ様を模した像が飾られている。特性樹脂性で肌触りも最高な逸品だ!
ザンガスはまだまだ駆け出しの冒険者であるため、まだそこまではできていないが、あの待合室でこっそりと拾った聖女アンジェ様の水色に光輝く聖なる髪を神として崇め、母親に貰った安全祈願のお守りに入れて肌身離さず持ち歩いている。そのことが自分の密かなアイデンティティであるといってもおかしくないと自負していた。
ちなみにその聖なる髪は拾い上げてそのお守りに入れた際に、どこかの変態駄女神に人知れず没収され今はそこにはないのだが、一生中身を確認することなく終えるザンガスには知る由もないのである。
エルみる総長、紳士教(ノータッチ)・ロルペードにはザンガスから「聖女アンジェリカ様が解決したと噂がある孤児院・大樹の家の件だが、本来はあんたがやるべきことだと思ったが?」と尋ねれば「あれはたしかに私もノーマークだったこともあり、アンジェリカさんには感謝に絶えない。そもそもアンジェリカさんも私の守備範囲であるし」その言葉にザンガスは「何が守備範囲だ!」と怒るがすぐさま「庇護対象ってことだ!」と言い直したため「紛らわしい言い方すんな!」とザンガスに吐き捨てられたがどうやら誤解は解けたようだ。
そしてバツが悪くなったエルみる総長、紳士教(ノータッチ)・ロルペードの怒りの矛先はラビア騎士長、愛騎士(ラブナイト)・ゼルシオスに向けられる。
「セルシオス殿こそ、たまに天使エルザ様やアンジェリカさんに、慈しみの目が向けられていることは隠せていないのだ!いっそ3人に仕えてはどうだ?」
「何を言うか!己の君主はラビ様ただ一人!」
ロルペードのその言葉にセルシオスは反論する。
さすが愛騎士(ラブナイト)!重みのある言葉だ!つい最近、知り合いの冒険者に付き合ってたまたまギルドに来た際に見かけたラビに心を打ち抜かれ、10年仕えていた王から、あっさりと鞍替えしただけはある!まさに騎士道精神ここに極まれりである!
そしてラビア騎士長、愛騎士(ラブナイト)・ゼルシオスからはミホリン司祭、聖浄守斧(クリーンシュフ)・ザンガスへと苦言が飛ぶ。
「ザンガスさんはまだ駆け出しの冒険者ではないか。見守るだけで何ができるというんだ!そなたこそアンジェリカさんがやっている活動に身を粉にして手伝うことも必要なのではないか?金がないのだからな!」
金がないを強調されては言い返せないザンガスは「ぐっ」と歯噛みするが、聖女アンジェリカ様と思えばその屈辱は耐えられた。
「たしかに金はないが・・・聖女アンジェリカ様もそうだが、エルザさんやラビさんも含め、自分たちのことで争うことを喜ぶと思うか?黙って見守るのが俺らの務め!なのではないか?特に聖女アンジェリカ様は目立つことを嫌う。黙って見守るのが俺の道だ・・・」
そこはいや手伝いぐらいしろよ!と思ったふたりだが、どうやらザンガスのその直向(ひたむ)きな心に打ち抜かれたのか、二人は黙ってしまった。
こうして、3人の至高の御身をお守りするため、野良な趣向者を駆逐、もしくは勧誘して規律を守らせる、イーストトライアングルカルテル協定というなんとも重厚な協定が結ばれたことは、今後のイーストの平和を守るため、多大な貢献をするであろうことは想像に容易い!に違いないハズ!
そこからはロルペード&ゼルシオスの財力と、意外と器用なザンガスの匠により、それぞれに三角形にリデュース・リユース・リサイクルーな矢印の入った意匠をベースに、『
これにより、それなりに秩序は保たれるのである。
◆神界
「はあ・・・今日も会議は中々終わらないわねー。そーいう時わー!これよ!じゃーん!アンジェちゃんの煌めく一本!そーいえばこれどこで手に入ったんだったかしら?まあいいわ!早速!すーーーーはーーーーすーーーはーーーぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
仕事の合間、自室に戻ってはどこかのドワーフから奪いとった水色の煌めく髪を、鼻に突っ込みそうな勢いで嗅いではハードな仕事の疲れ癒していく。
変態駄女神は今日も平常運転である。
そして世界に秩序は守られる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます