#48 かつての裏切りとその理由/reason of the liar

「それで、なんで四季さんからの直接手紙をやりとりしているの??」

「それは…」


翼は、話し始めた。彼女の過去を。自分の妥協を許さない理由を。


 *


2019/7/27。

その日は、妹の命日だった。


死因は電車の不慮の脱線事故だった。

それに巻き込まれて亡くなった、と。


あの妹が、あの天真爛漫の権化みたいな妹が亡くなった。

俺は妹にいつも助けてもらっていた。

親からも、嫌なことからも。


だから…俺は妹を独占したいと思ったのかもしれない。

妹が友達を連れてきた時に、俺は。

『なんで連れてきたの』って言ったはずだ。


でも、妹は全て無視して、みんな一緒で遊んだ。もちろん俺を含めて。


楽しかった。


でも、もういないのだ。妹は亡くなった。


その後、親の態度は一変した。演劇の才を持っていた。それは今でもわかる。

まるで俺に妹の幻影を見ているかのように、俺を妹の複製体のように育て上げようとした。

小学生の頃はそれで良かったのだ。だって今まで俺を毛嫌い、腫れ物扱いしたあいつらが俺に優しく、丁寧に扱い始めたのだ。


だけど、それも長く続かない。


反抗期を迎え、俺は、俺になった。

女々しい格好をやめ、口調も変え、精神も変えた。


そうして逃げてきた。

この土地へ。


そして、四季さんから居場所を貰った。

この土地へ数ヶ月孤独で生きている間、演劇を見た。金もないのに、隙間から掻い潜って劇場へ潜り込んだ。

その後、観客に紛れて逃げるつもりだったのだが。


「どこに行くんだい?」


と、一人の演者に捕まってしまった。


それが、朝霧四季さんとの出会いであった。

そこから3年、その劇団で演劇をし、その名を世界へ広めたのだ。


15歳を迎え、風雲高校に通い始め、またもや演劇をやった。

自分の演劇は自分の世界でしかできない。

観客も演者も。全て自分の世界に巻き込むことで、初めて自分の【幸運能力】がまともに扱える。


でも、そうはいかなかった。

14名もいた演劇部は、もう、俺しかいないのだ。いや、黒川もいるが……


彼はもう、悪に染まりきったのだ。

俺はもう彼の下につくことはない。


 *


「俺は……また、あの劇団四季で演劇がしたい。それだけだ。」


「そうだねー、翼はそういう奴だったのか」

「……怒らないのか?」

「前も言ったじゃないか。『道を外したら、私たちが、私が戻してあげる。』って。」

「……なんで俺は、お前を虐めていたんだろう」

「……これは、私のただの独り言なのだが……翼の…妹はどんな感じだった?天真爛漫だったと、さっき聞いた。うちの妹も、昔は同じだった。」

「渚に…妹?」

「あぁ、うん。この前の学校襲撃の時、私たちと戦ったんだ。昔はあんな奴じゃなかったんだけどねぇ」

「襲撃……燃やしたのが渚の妹なのか?」

「いや。それは火車の妹だ。」

「あいつの…」

「まぁ、私の妹は急にいなくなった挙句、私を殺そうとしてくる野蛮な奴だからな。」

「ひっどいな。」

「あぁ、全くだ。名前が“凪”なんだから、その名の通り、静かにしていてほしい。」

「……え?」

「……うん?何、急に黙っちゃって」

「お前の妹って、“なぎ”って言うのか?」

「あぁ、そうだが…」

「俺もだ。俺の妹も、“なぎ”と言う名前だった。」

「……ははっ、だから驚いたのか。全く名前が同じなんてことそうそう……」


渚は、この時この前の柚音の発言を思い出していた。

柚音は凪という者に救われたと。

柚音が凪のことを知っていれば、NEAのことがわかるはずでは?

いいや、違う。彼女はまだ何もわかってないと言っていたのだ。今、行ったところで何にもならないだろう。


だが、情報源としては十分だ。NEAについて調べられるならそれでいい。……私の因縁だからな。


いつかきっと殺してやるよ。

私の父親。菅野夕哉。


 *


2028/6/24。

風雲高校演劇部の「オペラ座の怪人」は劇団四季のファンまでも虜にすると瞬く間に有名になり、チケットは千秋楽まで完売となった。


その理由はいくつかあり、数年前まで天才と呼ばれた「四ツ谷翼」、ここ一年で奇才と呼ばれ、天才を凌駕する「舟橋渚」の共演。

また、たった1人、その演劇のレベルについてくることができていた人間がいた。


その名前は、「橘花葵」。その存在も相まって、劇団員の士気もレベルも格段にレベルアップし、演劇のレベルは全体的に数段も上がっていた。


そしてこの日。千秋楽が終わったと同時に、襲撃が起こる。

その首謀者は、【劇団員の一人】だった。

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