#47 誰が魔女で/whether witch

5/20。

「はい、もしもし。渚先輩」

「うん。今日、部活のミーティングするから。病室に来てくれる?」

「了解だ。部屋番号は?」

「不思議なことに私の部屋番号と一緒だ。」

「404号室ね。了解です。」

「あぁ、言っておくけど……」

「なんですか?」

「翼を呼んでるから。喧嘩を諌めるのはよろしく頼んだよ。」

「……面倒臭いなぁ」

「じゃね」


と、電話は切られた。


「……僕が最初なのかな。」


ということで、あの病院へ向かう。


 *


「来ましたよ。」

「おー、よく来た。」

「…それで、ミーティングはいつからですか?」

「2時間後だよ」

「は?」

「2時間後だ。」

「なんでそんな時間に……」

「誰かと一緒にいて安心したかったというのがあるが…」


渚先輩は、ドアの方を見た。


「君と話をしたいと言う人がいてね。」

「…誰だよそんな物好きは…」

「苺ちゃん、入ってきていいよー」


と、扉の向こうにいるであろう人に呼びかけた。


「は、初めまして…」


と、小柄で可愛らしい女の子が入ってきた。

その後ろには、見覚えのある人がいる。


「……チッ」

「泉岳寺さん、ですっけ。」

「うるせぇな、今は敵対できないからなんもしねーよ。」

「敵対できない、か」


泉岳寺は入り口の扉の脇の壁に寄っかかった。


「ほら、葵くん、こっちが苺ちゃんだよ。」

「大丈夫ですよ、目は節穴じゃないんで」


別の椅子を出して、その苺ちゃんという人を座らせる。


「……それで、何を聞きたいのでしょうか…」

「四葉おじょ…神崎四葉さんを知っていますよね」

「え、えぇ。知ってはいますが…」

「どこにいるのかってわかりますか?」


どこにいるか??

あ。


『風雲高校では行方不明者一名。当日に学校にいたかもわからず、いつ行方不明になったかは不明。今回の事件と関係性があるのかは不明。』


ってなことを、麗桜さんが言っていたような気がする。

ということは、神崎が…?


「わからない……ですね」

「そう…ですか。ありがとうございます。」

「いえいえ。見つけたら、連絡しますよ。」

「そうしてくれると嬉しいです…」

「あ、ではこちらも…」


と、スマホにある、妹の写真を見せた。


「僕の妹なんですけど、知りませんか?」

「……知らない…ですね」

「そうか……」


知らない、ということでスマホをポケットに戻す。


「神崎くんって、あの時の子か?」

「はい。あの総研に行った時の…」

「あの子とは結構話したぞ。お嬢様らしくてな、色々聞いた。」

「そんな暇あったんですか?渚先輩、グロッキーだったじゃないですか」

「窓を開けて、外の風景を見るか、目を瞑っていれば大丈夫だ。」

「そうなんですか…」

「それはそれでいい。で、彼女は自分のメイドのことをよく話していた。自分が拾った子で、屋敷にいるメイドの中で一番可愛いと豪語していた。」

「へー、そんなメイドさんがいるなら見てみたいなぁ」


「…どうしたの?顔真っ赤だけど…」

「い、いえ……なんでも…ございません……」

「……?」


苺ちゃんは名前の通りに顔を真っ赤にしていた。


 *


「それじゃ、演劇部ミーティング始めます。」

「はい。その前にちょっといいかな?」

「はい、清水くん。どうぞー」

「あのさ、部外者が多すぎるんじゃないか!!!」


清水双の叫び声は、その病室に響き渡った。

ちなみに、渚先輩の許可により、この病室の周りに人はいない。


部外者。そう。演劇部のミーティングだが、明らかに別の人間が多すぎる。


「なんで俺まで…」

「まーまー、文句言わない。苺ちゃんも言ってあげてよ」

「そ、そうですよ、氷雨さんもきてくれたんですし…」

「どうして私が…」


氷雨さんと泉岳寺さんは言ってることも仕草も全く同じで壁に寄りかかっている。なんだあいつら。夫婦みたいじゃないか。…間に苺ちゃんがいることのよってなおさら……。


「あっおい〜!!」

「全く。紗凪、あんまり騒がないでよ」

「そうだぞ、姉の言うことは聞いた方がいいぞ」

「葵くんはそんなこと言わないもん!」

「助けてくれー、霞。こいつを引き剥がしてくれ」

「嫌だ。そこで引っ付いてればいいじゃないか」

「えー」


比嘉原霞は頬を膨らませてそっぽを向いた。……割と嫉妬しやすいのか、霞って。


『一緒に死んでも、文句は聞かないよ?』


そう言った霞は、僕に微笑みかけてくれた。なのに、紗凪がいるせいで、彼女は嫉妬を始めている。……多分そういうことだろう。

僕も面倒臭いことはやりたくない。でも、今は妹を見つけることを第一優先にしたい。


「……それで、なんで私たちをここに呼んだんですか?渚先輩?」


一条留流さんは、どストレートに聞いた。


「ちょ、やめた方がいいよ、一条さん!」

「そうだぜ、ああ見えても先輩なんだぞ」


と、小河原悠と、海藤宮斗は、一条を諌める。


「ほら、葵くん喧嘩が起きたぞ。諌めなさい。」

「いや、あんたが早く答えればいいでしょうが。」


そこで一つの手を叩く音が響いた。


病室にいる全員がその目線の先に向かう。


「…ありがとうございます、皆さん。わざわざ集まって頂いて。」

「翼、敬語はいらないよ」

「そう…ですか?」


四ツ谷翼。

かつて、渚先輩を忌み嫌い、いじめを行っていた。と、そう聞いている。渚先輩本人の口から聞いたし、噂もわかりやすく広まっていた。


「それじゃ、改めて。」


そう、言った時に外野が騒ぎ始めた。


「なんであなたがいるんですか!?」

「害虫の分際で!!なんでここに!!」

「おいっ、てめぇ、よくそんな面してここに来れたなぁ!?」


「葵くん、仕事を全うしてくれ。」

「へいへい」


僕は、座っていた椅子を地面に叩きつけた。


大きな音は全員の目線を向けることに成功した。


「次期部長の命令だ……静かにしろ……」


その場に静寂が流れて、全員が静かになった。


「えぇ……」


と、渚先輩と霞の声が聞こえた気がした。


「……話していいかい?」

「ああ、話してくれ」


僕は椅子を拾いながら、そう言った。


「じゃ、三度目の正直。まずは…」


と、ポケットから出した手紙を広げ始めた。


『演劇財団・劇団四季代表 朝霧四季』


こうして、手紙を出すのは4回目ですね、四ツ谷さん。今回の手紙は、あなただけに宛てたものではありません。


あなたの高校、風雲高校の演劇部に向けてのお手紙でもあるのです。

先日の異能力者の襲撃、不幸であったという言葉で済ませてはいけないと思っています。

学校の修繕費も教育費も無駄にはできません。

そこで、学校の校長や学長、教育委員会の人たちと話し合い、以下のことを決定しました。


『特別授業・課外授業

 劇団四季での演劇の発表』


詳細は電話で伝えます。手紙が届いたら、お電話ください。その後、演劇部員、学校の生徒全員に伝えてください。


受け入れる準備もできています。


「手紙は以上です。」


と、翼は手紙をたたんだ。


「……え、てことは…」


大江先輩は驚愕しながら、渚先輩を見た。


「……劇団四季のあの壇上で、演劇をする。」


演劇部員全員で歓喜の声が上がった。


「…ははっ。うるっさいね、うちの部員は。」

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