#46 仮面の少女/Masquerade girl

「女の子……?」

「全く。レッド様、またですか?」

「またではない。いつもの歓迎じゃないか。それにしても、氷雨ー、久しぶりじゃないか」

「全くです。これほど潜伏期間が長いと思いませんでした。」

「一年と半分か。偉い!」


そのさっき恐れていた、レッド様とやらは、俺を連れてきた、氷雨と仲良く戯れあっている。レッド様は偉いと言いながら頭を撫でているが、氷雨の方が身長が高いため、氷雨の方が屈んでいる状態になっている。


「…それで本題の方ですが。」

「うむ。舟橋渚と覚醒と、泉岳寺星の回収。ご苦労であった。」

「……なんで俺を回収した?」


その言葉を言った途端、レッド様が、こちらを見て、歩み寄ってきた。さっきほどのオーラはない。体が見えるからか?


「君が、使えるからさ」


レッド様は俺の顎を右手で持ち上げる。


「ちょっと待ってください!男にもするんですか?」

「当たり前だ。」


氷雨がそう叫んだ。“男にもするんですか?”まさか……な…?


「ほら、目を閉じてくれる?」

「えーっと……?」

「レッド様が言ってるんだから、早く目を閉じなさい!!」

「はい!!」


元気よく返事をした俺は、目の前の仮面をつけた少女の顔を見ないように目を閉じた。


目を閉じると、聴覚や嗅覚が率先して働くようになる。万国、どの人間にも共通することだ。


自分の鼓動と、呼吸音も煩わしく感じてくる。


…何秒経っただろうか。緊張は体内時計を狂わせる。もう、五分過ぎたような感覚がある。実際はそこまで経ってない……


瞬時に殺気を感じ取り、体を左側に倒す。


その瞬間、俺の体スレスレに蹴りが繰り出される。


「おうおう、とんでもないなぁ」

「あらら、外しちゃったか。まぁ、これで君のことはわかったかな。冷静さが高く、瞬時の判断も文句なし。洗脳も受けなさそうだし。」

「どういうことだ?」

「レッド様は選定をしているの。あなたが、どれだけ使えないか、それをテストしてるってわけ。」

「お前……年下だよな?」

「ふふっ、仲がよろしくて。」


「そんなわけない!」

「そんなわけないでしょ!」


「息ぴったりじゃないですか」


そんなコントをしている夫婦は置いといて、先程からこちらを見ているあの子の対応をしなくちゃね。


「苺、でてらっしゃい。」

「は、はい!」


物陰に隠れていた加々良苺を呼び出す。きっと、【見つけた】のだろう。


「ここでいいのでしょうか…」

「いいわ。あの夫婦にもやってもらう仕事だし。」

「誰が夫婦だ、誰が!」

「そうです、レッド様。こんなやつと夫婦などと……」

「あー、はいはい。説明してもらうから。苺、お願い。」

「了解です……」



5/17。

今日は、柚音の面会へ行った。通常の犯罪者や罪を犯したものは色々手順を踏むらしいが、危険能力者指定はすぐさま檻に入れられるらしい。

檻の中は能力の使用を禁じる何かがあるらしい。柚音も力尽くで脱出はしないと言っていた。


「……ごめんね、お姉ちゃん。あんな酷いことたくさん言って。」

「いいよ。柚音の過去も、辛かったことも何も知らなかったのは私の方だったし。だから、ごめんなさい。知るべきは私の方だった。」

「……それでね、聞きたいことが幾つかあるの」

「聞きたいこと?」

「うん。まず……私は、人間なの?」

「え?」


彼女は、眼帯を外す。


「オッドアイってのは聞いたことあるよ。でも、吸血鬼?だっけ。その目である銀色の眼。これがあるのがおかしいと、思っているの。」

「それは…」

「だって、お姉ちゃんは普通の真っ黒の目をしているもん。」

「……。」


私は、本当のことを言うべきなのだと、そう思った。


「柚音。あなたはね、拾い子なの。」

「……そう」

「そして、私もそう。」

「え?」


本当のことは、言いたくなんてなかったのに。


「誰に…」

「名前も知らない人。赤髪で、綺麗な銀眼だった。」

「名前を知らないって…」

「そう。気がついたら、いなくなっていたし、私は一人で暮らすことができるようになっていた。」

「じゃ、お金は!?なんで私たちはあんな不自由なく過ごせたのさ!」

「2億9千4百3十万7千5百円。」

「は…?」

「なんだかわかる?」

「なに、まさか……」

「私の家に唯一ある、通帳の最初の金額の欄に刻まれている数字。」

「なんで、どうして…」

「きっと、私を育ててくれたあの人の残したものだと思うんだ。」

「名前もわからないのに?そう断定できるの?」

「断定できるよ。だって彼女は、私に名前もくれた。きっと、『助ける』ために。私の名前だけが鍵になる。」

「うん。ありがとう。それでもう一つ。いい?」

「いいよ。」

「舟橋凪と、会いたい。」

「その子は、柚音を助けてくれたっていう子?」

「そう。助けようとして、命を失ったと思ってた。でも…」

「生きている。でしょ?」

「…うん。」

「……その子を、見つけてきて、会いたいと。」

「…うん!」

「会って何がしたいとかあるの?」

「『ありがとう』って、言いたいの。」

「わかった。探してみるよ。」


-会話ログ28.5.17-3


「って言うのが回収できました。」

「そうか。奏音、妹を作っていたのか。」

「あなたが名前を与えたんですよね?」

「そうだね。あたしがあげたよ。“火車奏音”。」

「……これじゃ、回収すると彼女の精神的苦痛になると思いますが…」

「策はある。両方だ。」

「え?」

「両方を回収する。あの夫婦にも通達しておけ。」

「あなたは…」

「あたしは、他にやることがあるから。頼んだよ、苺。」

「強情だなぁ」

「あ、それと。」


レッド様は苺の目を見て言った。


「神崎四葉は、見つかった?」

「いえ、全く。足取りも一つもないです。」

「だよねぇ。あたしも探してるけど全くなくて困ってたんだ。」

「ですよね…」

「もうこうなったら、神隠しにでもあったんじゃないか?」

「そんな!苺たちは部屋の中にいたんですよ!」

「……じゃ、異世界転生」

「ふざけないでください!!」


苺の叫びが部屋の中に響き渡る。


「……とりあえず、さっきのことは頼んだよ。あたしは捜索に出るから。」


レッド様はそう言って、臨界と唱えて、空間に溶けていった。

もう見慣れた光景だ。

なんで、四葉お嬢様は、あそこで消えたのだろう。


「臨界って、ああなるから、お嬢様も使えたら……」


徐に立ち上がった。きっとそれだ。あそこでいなくなったのは臨界と唱えて、レッド様のように空間に溶けていったから。きっと、何かをしに…!


そこで思考は戻ってくる。

『何をしに行ったのだろう?』

それは私に全くわからない。心を読めるようになってはいないし。


だったら探しに行くしかない…?


「臨界!」


ヤケクソ気味に叫んでも、レッド様のようにいかない。


「なんで、どうして!!」

「……何やってんだよ、お前」

「うるさい!黙ってて!」

「臨界はある程度強い人間じゃないと使えないぞ」

「…は?……強い?」

「そー。臨界って、体を雲みたいにチリみたいにして、意識を保ちながら、見えないように動く技術だからな。」

「何それ…」

「修行、するか?半年もあればできると思うが」

「やる。」


ということで、苺の修行が始まった。私も、裏に来てしまったから。これでいいんだ。

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