#45 溶けた氷は涙になって/ ice tear
「にげろって、言ったじゃないか…」
ポタポタ垂れてくる、透明な液と、真っ赤な液。
成分はほぼ一緒なのに、何もかも違う。
色も匂いも、味、でさえも。
「渚先輩……帰ってきましたか?」
「あぁ、“ただいま”ってやつだ。」
その瞬間、一人の笑い声が響き渡る。
「やっと、か。渚!俺らはお前を捕まえにきたんだ!」
「させないよ。」
氷雨先輩はそう言った後、泉岳寺を指さした。
「……【
「は?」
泉岳寺が仕掛けた、コインのかけらが、壁に、氷に反射する。
そしてその終着点が…
「お前だよ、泉岳寺。」
氷雨先輩は、中指を立てた。
コインのかけら全てが、泉岳寺に突き刺さっていく。
「はは、いってぇな、クソが」
その痛みを、感じながら、地面に落ちた。
「…ち…」
「え…?」
「…近い…」
「あ…ごめんなさい…てか、離してください……」
「あ、あぁ」
「なーにやってんだ…」
氷雨先輩の声で、僕らは離れた。本当になにやってんだ、僕ら。
「それじゃ、私はこいつを持っていくよ。」
「え?どこにですか?」
「葵、先に言っておくが」
「あー、大丈夫大丈夫」
氷雨命はさっきの界を破壊して、外の光が入ってきて明るくなる。
彼女の顔は、真っ暗で見えなくなり…。
「私、あの高校の生徒なんかじゃないのよね」
と、言った。
「は?なにを言って…」
「氷雨。お前は…NEAの組織の人間なのか?」
「私は神にお仕えする者。行動の意思は全てあのお方が決めるの。あんな外道組織と一緒にしないでくれる?」
「そうか、頑張れよ。氷雨。」
「……あぁ、先に言っておくが…」
彼女は、泉岳寺を右腕で持って、左腕を挙げた。
「お前たちと協力関係ではないからな」
残りの界の外格が全て破壊されて、破片が重力に逆らって、浮いていく。
「だから、もう生きてても死んでてもどっちでもいい。」
手を下げて、指された指先はこちらに向いていた。
「下衆が」
「よく言うよ、生き残るくせに。」
*
「臨界」
泉岳寺を背負いながら、組織に戻ってきた。
さて、傷口は治ってるかな…
氷漬けにした傷口はやんわりと赤くなっているだけで、そこまで酷くはない。
「おーい、起きてるか、
「……起きてはいるぞ。」
「そうか。反抗するなよ。」
「は?」
コツ、コツ、コツ、と暗がりの方から、ゆっくり歩く音がする。歩くだけで圧倒的な存在感。
「なんだ…これ…」
「圧倒されているの?」
「当たり前だ……こんな人外じみた…」
「反抗はできそう?」
泉岳寺が勝手に外した、手枷と足枷に目線を移して、彼の目を見た。
「……無理だ」
そして、その足音の主は、姿を現した。
「え?」
そこにいたのは、俺よりも年下の女の子だった。
*
「渚先輩、大丈夫ですか?」
「…あぁ。ありがとう、葵。水も食べ物も」
「いや。先輩は気にしないでください。このまま運びます。」
「そうだな。……なぁ、葵」
「なんですか?」
「私は、異常者なのだろうか」
「異常だからって、なにも変わりませんよ。渚先輩は渚先輩なんですから」
「そうか。……ありがとう。」
あの時。先輩は破片を全て壊す勢いで、暴れていた。まるで僕を守るかのように。
そして、僕を守り切った彼女は、渇きに飢え、僕があの時のように水や食べ物を持ってきた。
今、彼女を背負いながら、さっきの病院まで向かっている。佐野個人病院。
そこに行けばなんとかなるだろうと、思っている。
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