#44 極氷/Icecel Zero

「いっただきまーす♪」


 突如として現れた、渚は泉岳寺に噛みついた。

「いってぇな馬鹿!!」


コインを飛ばしていたやつが、渚向かってコインを打とうとした瞬間。

私と泉岳寺のそばを何かが急に移動した。


「氷雨先輩、死んだら呪いますよ!」

「ははっ、やってみろ!」


葵が【加速】して、渚を救出したのだ。


冰晶玉界アイシクルゼロ


敵味方全員巻き込んで、界術を使う。

こうやって戦った方がいい。


5月中旬とは思えないほどの冷たさの空気が周りを漂っていく。

急に冷凍庫に入ったような空気。

でも、それが心地良い。


「おい、こりゃどんな手品だよ」

「大丈夫だよ!すぐ死ぬんだから!!」


球型に形取られたその天井は、鍾乳洞のような氷柱で装飾され、地面にいる人も反射して映る。


「泉岳寺…とりま、君に習おう。【落下falling】」

「いいぜ、第二ラウンドだ!【再開restart】!」


泉岳寺に向かって氷柱は落ちるが、泉岳寺はコインを飛ばしてそれを破壊するか、軌道を逸らしている。

ちなみに敵は二人いる。

そのうちもう一人は…


「ねぇ、君は食べてもいいの?」

「いいわけねぇだろ!?あたいを食べたってどうにもならん!」

「そっかぁ♪」


あんな感じになった。多分勝てるだろう。渚は…やっと【次の段階】に来た。

これで……【使えるようになる】。


よって……今考えることが泉岳寺だ。

【従来通り】ならここで死ぬ。が、今回は死なないようにしよう。


こいつは使えるらしいからな。


「よくやるね!これならどう?!」


地面から氷を生やす。まるで樹氷みたいに。

泉岳寺はうまく避けるが、足がもつれるようになり、派手にすっ転ぶ。


私はその地面から氷を隆起させ、氷柱を落とす。

泉岳寺はコインを飛ばして氷柱で反射させて、壁で反射させて、地面の氷を根本から破壊して、そこから脱出する。


「…やるねぇ」

「……【爆撃explosion】」

「やばっ」


反射してきたコインに気が付かず、爆発をモロに喰らう…!

かと思ったが、何かが私を抱えて、距離を取ってくれる。


「危ないでしょーがよ!」

「ナイスだ葵!」


葵の【加速】での救出によって直接は当たらずに済む。葵はここぞという時に役に立ってくれる。


「それで、葵、渚は??」

「あー…それは…」


葵に下ろしてもらいながら、指さされた方を見ると。


「ぎゃー、やめて!痛い痛いっ!!噛まないで!!助けて!!お願いっ!!だから!!!!助けて!!」


あー…。


「まるで猛獣に喰われてるかのような、悲鳴が、ですね」

「何故あんなことになっている?」

「『喉が渇いた』と言っていて、噛まれたくなくて逃げたら、自分の複製体を丸々一つ平らげまして…」

「……そんな、やばいぞ。今あいつがあれを食べ終われば…次は私らだ」

「は?そんなわけ…」

「あいつが今正気だと思えるのか?!?」


「ベラベラ喋ってんじゃねえぞ!!」


泉岳寺はコインを飛ばす。


「【破裂burst】」

コインはケーキを切ったかのように八つに分割される。


「おお、応用力が高いねぇ」


私はそれを避けるため、天井へ飛び上がる。


界の壁や氷柱に当たって反射して常に刃物が舞っている界になる。

これが奴の対策か?


「お?なんだぁこれはぁ」


渚の右頬を貫いたコインを渚は食んだ。バリバリボリボリと、金属の咀嚼音が聞こえてくる。


「いったいなぁ、血が出てきたじゃないか…」


彼女は、また血を飲み込んだ。その瞬間、視線が先ほどとは別の方向へ向く。

そして、急な突進を始める。


「葵っ!!危ないっ!!」


葵は、渚先輩の突進を受け止める。

受け止めた瞬間、渚先輩は葵を押し倒した。

渚先輩は葵の上に馬乗りになる。

「……渚先輩?」

とんでもない力で右腕、左腕を押さえつけられ、身動きができなくなっている。

「血が、ほしいぃなぁ」

「葵っ!!逃げてっ!」

「…なんで」


葵は、渚先輩に体を押さえつけられて、動けないのにも関わらず、冷静な顔で声を漏らした。



あの、渚先輩に体の自由を奪われている。両腕の自由は、痛いくらいに抑えられて、『襲われる』というのはこういうのなんだなと、“理解わからされた”。


もうすでに抵抗を諦めている。自分より力が強い存在から押さえつけられるということがここまで抵抗する意識をなくすことを初めてわかったのだ。


目の前の渚先輩は、大口を開けて、首元に噛みつこうとしてくる。この前の首元に噛んだことを思い出す。

あの時の力は、これの前兆だったのだ。

血も肉も喰らう気満々で。


なのに、なんで…


「泣いているの…?」

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