化け物-41:08

#41 病室にて/At hospital room

5/14。

 海斗さんのお見舞い品を渡すと共に、紗凪の病室に来ていた。なんとも数奇なものだが、入院する病院が同じだった。


【佐野個人病院】


 それがここの病院の名前だった。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。


「紗凪…元気だっ…「あおい〜!!!!」」


 紗凪は扉を開けるや否や、突進をかましてきた。


「ぐふっ」


 僕も、酷いわけではないが怪我をしているんだ。もう少し、手加減というか、戯れ合うのをやめてほしい。


 僕だってもう高校生なんだぞ?

 あの狂人と付き合ってる暇はない。


 ……ただ、今は意識を飛ばされた。病人のタックルによって。


 *


「紗凪、何やってんの?」

「……葵を失神させちゃったから…私が寝かせてる…」

「どういうこと…?」


 病室に入ってきた姉、美奈と比嘉原霞。


「…ま、いいや。この前の学校襲撃の話は聞いた?」

「……聞いたと思う?」


 私は、ベッドに横たわっている葵を横目に言った。


「……そうね。」

「本当にどういうことよ…」


 美奈は窓辺に行き、霞はドアの前に佇む。


「ま、これから話してもらうしちょうどいいんじゃない?ね、霞さん。」

「…はい」


2028/5/11-事件file

12:27。風雲学校の放送室が占拠され、NEAの『戦雲の篝火』、『禁忌病』、『未確認03』が高校内部で襲撃を行った。

高校生徒は『戦雲の篝火』により、放火、崩壊し、生徒は最終的に1名行方不明。29名重症、137名軽傷。

他の襲撃者は全く被害を出さなかった。

また、襲撃者たちは【舟橋渚】の回収を目論んでいた。その理由としては、【光速針】の存在が大きいと踏んでいる。

また、こちらは【戦雲の篝火】の回収に成功した。

_以下機密文書のため通常公開禁止。


「……っていうのが、MSA側のまとめ。」

「演劇のあの先輩?渚っていう人」

「そう。演劇部次期部長。」

「そっか、2年生か。今の部長は?」

「四ツ谷翼。」

「……停学中の人じゃん。やばい人?じゃなかったっけ?」

「そう、やばい人だよ。」


 四ツ谷翼。あの人を見たことはない。だが、姉から話は聞いている。

 いじめという名の暴力、窃盗、等々。

 その標的が、渚であった事も。


「……それで?このドキュメントの機密文書って?」


 いきなり耳元で聞こえてきた声。


「うわぁぁぁぁぁ!!葵!?なんで起きてんの!?」

「いや、あいつに言ってくれ。」


 葵は、ドア側にいる霞を指差す。


「おーい、霞サン??何しでかしたんです???」

「別に??ナニモ??」

「なんか吹聴したでしょ」

「イヤ??耳元で話せばびっくりするって言ってないよ??面白いからやってって言ってないよ??」

「言ってるじゃない!!!」

「紗凪、ここはどこだか分かる?」

「ぁすいません静かにします。」


 美奈の叱責により、紗凪が早口で答える。

 きっと大声を出すのは病院ではタブーであることを教育したかったんだろうなと表情で分かる。


「……ま、気になるよね、機密文書。」


 美奈先生はスマホを手慣れた手つきで操作した。


「私の知り合いにはハッカーがいるから、そろそろかな〜…お、」


 病室にピコン!と通知音が響く。


「データ盗めたって。はい、これ」

「犯罪では……?」

「バレなきゃだいじょぶだいじょぶ、ま、バレたらみんなでお縄につきましょうか」

「この人もだいぶやばいわよね…」


__以下機密文書のため通常公開禁止

<<本人確認了承

全文を公開します。。。。


2028/5/11-事件file-p

12:27。風雲学校の放送室が占拠され、NEAの『戦雲の篝火』、『禁忌病』、『未確認03』が高校内部で襲撃を行った。

高校は『戦雲の篝火』により、放火、崩壊し、生徒は最終的に1名行方不明。29名重症、137名軽傷。

他の襲撃者は全く被害を出さなかった。

また、襲撃者たちは【舟橋渚】の回収を目論んでいた。その理由としては、【舟橋凪(以後通常公開では光速針と公開する)】の存在が大きいと踏んでいる。

また、こちらは【戦雲の篝火:火車柚音】の回収に成功した。

襲撃は17:26に終戦。【舟橋凪】は逃走。

『禁忌病』によって召喚されたラッカンという組織の三人。

『未確認04』『未確認06』『次元災害』証言により確認したところ、二人は未確認であることを確定する。また、現在も逃走中か、死亡したかは不明である。

『次元災害』は「2年前のMSA分割組織の半壊滅」*をした凶悪能力者である。

現在は捕獲して、シクロに拘留されている。その後の罪ないし罰はシクロに決定権がある。

*は2026/12/4に発覚。データは神歴2026年タグへ。


「……『次元災害』ってもしかして…」

「多分、葵が刺したあいつのことでしょうね。」

「あの……」


 時限爆弾みたいにカウントダウンした後、その対象を中心に災害を引き起こす。

 僕が受けたのは突風。


 ……だとしても、僕は死んでない。しかも僕が攻撃できたんだ。そんなに強いとは…


『…きみ、うちの組織にこない?』


 あぁ、違うな。あいつの目的が違う。僕を殺すことでも、自分が死ぬわけでもなかったわけだ。


 じゃ、他の奴らは…?


「いや…違うか。」

「何が違うの?」

「敵が一貫して言ってたことを思い出した…みんな口を揃えて、『舟橋渚をよこせ』って言って…」

「……なんも珍しくはない。あいつのような【珍種】は狙われるからな」

「【珍種】??」


 美奈先生は、メガネを取り出した。

 いつもの丸眼鏡だ。

 これを美奈先生がかけると先生っぽく見えるため、この眼鏡で一気に『先生感』が出る。


「さて。ここにいる三人に聞くが。お前らは舟橋渚を護れと言われたらやるか?」

「護れって…」

「お察しの通り、今後来るであろう能力者たちからだ。」

「どうして…」

「……どうしてって、学校は壊滅。授業なんてできたもんじゃないんだ。今はあいつ家で一人だろう。だから……」

「もしかしてもう……」


 いきなり鳴り響く、僕のスマホの着信音。

 緊張感のあった空気がいきなり壊された。少し申し訳なさを感じながら、こんな空気の読めないやつは誰だと思いながら、スマホをポケットから取り出す。

 僕のスマホには通話がかかってきている。

 その液晶には『舟橋渚』と書かれている。

 その瞬間に、僕にさっきよりも数倍重い緊張がのしかかってくる。理由は…さっきの話だろう。

 もしこれが…

 そう、最悪を想定して、僕はその画面の通話のボタンを押す。


「もしも「たすけて」」


 通話は切れた。想定は現実だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る