#40 処分

「平山さん!平山さん!大丈夫ですか!?」


 刺された傷を直接圧迫し、彼の呼吸を確認する。


 浅く、呼吸が聞こえる。

 まだ生きていることを確認できて、安堵する。

 彼は死なないはずだ。死なない。絶対だ。


 絶対…


「麗桜、気は確かか?」

「え、あ、はい!大丈夫で…」

「深呼吸しろ。お前の対処で運命が左右する。」

「…了解です」


 吸って、吐いて。

 学校のグラウンドとは思えない匂いが精神を蝕んでいく。すぐさま吐いて、記憶から無くすように、肺の空気を無くしていく。


 目を瞑っているから、音の情報がよく入ってくる。銃弾の音。魔法陣の展開音。風雲高校の燃え盛る音、崩れる音。風切音。


 私はできることをやるんだ。


「大丈夫です。」

「よし。俺の対処は大丈夫だ。病院に行けば大丈夫になる。あいつらが終わった後に、治療を受けさせろ」

「了解です。」


 そして、目の前の戦いが終わりそうだと感じたのは、焔が消え、木が勢いよく揺れたのが見えた時だった。


 *


「凪は、逃しました…」

「そうか…。そんな気に病むな。」

「いや……」


 渚は不機嫌な顔を下に向けた。


「持ってきました。名前もわかんないですけど。」

「あぁ、顔見れば分かる……麗桜、こいつもしかして……」

「はい…!2年前の…!」

「2年前?」


 僕がそれを聞こうとしたら、とある姉妹の声が。


「柚音!」

「奏音お姉ちゃん……ごめん、ごめんなさい…」


 彼女の界に巻き込まれた者は、必ず涙を流していて、後で聞いたら、「彼女の人生の全てが詰まっていた」と。そんな感想が返ってきた。


 きっと激動の人生だったんだろう。


「火車奏音。少々感動しているところ悪いが…。柚音は、危険能力者指定させてもらう。」

「…そんな、どうにかできないんですか?」

「管理側が許可を出せば、一般社会に出られるかもしれん。だが……」

「だが?だがってなんですか?」

「……一般社会に戻ってきたって、一般人からの風当たりは良くない。現に、能力者が一般社会に戻ってきたところを殺した一般人もいるんだ。」


 火車姉妹の顔は曇る。


「そんなっ!うちの……うちの事も、凪の事もまだ何も…‼︎これも…!!」


 柚音は自分の眼球を撫でる。


 彼女の本当の眼球が見える。

 その彼女の目は、まさに。


『目は口ほどに物を言う。』


【銀眼】だった。


 だけど、それは右目であり、左目は紅く染まっていた。


 彼女はオッドアイだった。


「放火魔も、戦雲の篝火もお前だったんだな、柚音。」

「……あぁ」


 彼女の笑顔は、涙でびしゃびしゃだった。


 篝火は、銀眼からの涙で凍結したのだった。


2028/5/12。


 前日(2028/5/11)での、風雲高校襲撃から1日経ち、情報整理が進んでいた。


 まず、敵組織の情報。

 大まかの括りとしては【NEA】という組織。

 その中で、千秋楽を襲撃する、ダイヤモンドを襲撃するという目的を持った敵。


【MasQuerade】


 そこには、霞や、柚音、四ツ谷が以前所属していたんだろう。その三人が情報を持っていた。


 敵は、どのくらいいるのかわからない。

 今、分かるのは。


 黒川一錠、一条崩が敵組織にいる。

 また、新荘駅爆破事件に関与した組織もある。ラッカン、シュビュト、アゾート。


 ダイヤモンドの大元。MSAに調査を依頼。敵組織の情報収集をお願いした。


 結果から言うと。推定、50人規模。

 これは、MSA側から救助が来ない規模だ。もう少し、規模が大きくなるか、被害か拡大するか…。


 まぁ、なんにせよ、まだ…


「俺らで解決するしかないってことか…」

「そう、ですね。私たちは今二人なので、二人くらい補充員が来てもいいんじゃないか、と言ったんですが…」

「聞く耳持たず、だろう?」

「はい…」

「全く…あの糞織くそしきのお偉いは頭が固くてやってらんないね。…ま、でも…」


 平山さんはカゴに入った果物を見て。


「戦力はこっちにもちゃんとあるしな。」

「……そうですね」


 *


 燃え盛る瓦礫、蔓延する鉄血の匂い、意識が飛んだり止んだりする感覚。


 呪いをかけているのに、その呪いを解除したいと思うくらいに苦痛な時間が続く。


 どうして、こんなことになっているのかわからない。


 瓦礫が急に落ちてきて、下敷きになった。


 あれ?わかっているじゃないか?


 その瞬間、腕がないことに気づき、痛みに悶絶する。しかも体を動かすごとに痛みは増幅し、ない部分が増えるのが分かる。


 呪いに失った部位のことを入れてなかった。それを悔いていると、誰かの声が聞こえる。


「大丈夫ですか?」

「…ど、どなた?」

「菅野と申しますが…助けてあげましょうか?」

「えぇ、助けてください、体がちぎれて痛いんです…」

「では、取引です。私があなたを助けますから、あなたは私を手伝ってくれませんか?」

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