#39 個有能力

 なんで、なんで、どうして。

 うちはこんな幻想を写そうとしてなんかない。

 うちの【想焔ミラージュ】は炎に当たったものに幻想を見せるもの。それを使っているうちに理解したものだった。


 そして、その焔は、幻想を載せなくても吐き出せて、それは通常の炎と全く同じもののなる。だから、学校も嫌いだった奴も偉い人も、能力者も燃やした。


 今回、初めて界術に応用したから、こんなことになるとは思わなかった。


 いや、違うのか?


 自分じゃない人間の記憶が流れてきている。

 小さな子供を不幸にも産んでしまい、それを捨てるまで…


 しかも、捨てるまで髪色がかなり薄くなっている。

 街並みもずっと違うような。


 足音がするんだ。ずっと。

 コツ、コツ、コツって。

 歩いてきているのに、歩幅が絶対に合わないのか、遠ざかっているのか。

 音は、絶対に不均一だ。


 もう、どうにかなりそうだ。

 白炎。周りは光を放ち続けて、見ることさえままならなくなった。


「柚音」


「凪っ!?」


「お別れだ」


「なんで…?」


「真相を知りたいんだろ?」


「違う!私は真相なんか…!」


「じゃあ、その目は?」


「目…」


「その傷は、耳は、記憶は?」


「そ…れは」


「俺の名前は、舟橋、凪だ。そして、“女”だったんだよ」


「…え?」


「じゃあね、柚音。私の代わりに、代わりとして、真相を暴いてね」


「ねぇ!ちょっと!勝手に逝かないでよ!凪!まだ、感謝も気持ちも…!」


「ありがとうね、柚音。大好き」


 *


 強風で壁にぶつかり、壁もろとも破壊して、教室に入った。

 床は割れた窓ガラスで覆われて、どこからか炎上が始まっているのか、教室の中が燻っている匂いがする。


「きみ、能力を持っているのにもったいないね」

「あ??」

「応用が全くできてないよね、今回も特にさ」

「お前に言われたくないね」

「…きみ、うちの組織にこない?」

「はぁ?お前馬鹿なの?」

「ちがうよ、君の能力強化も、君の願いも叶えてあげるって言ってるんだ」


 それは…


停止ストップ


『駄目だよ、葵』

「え…?」

『葵が所属する組織はそこじゃないから、わかった?』

「リンセ…」

『わかった??』

「はいっ!」


 いつのまにかいた、リンセという少女。この金髪の少女が、僕に能力をくれたという、神の使いだ。


 そして、彼女は時を止めることができる。


 僕はそれを見て、直感的に能力はそういう関係があると思ったのだ。


『それじゃ、葵、殺して?こいつ』

「え?」

『「え?」じゃないよ、こいつを殺してって言ってるの』

「いや、いやいやいや、何を言って…」

『君は、【こっち側】にきてしまった。だから、【こういう事】もしなきゃいけないんだよ?』


 僕の手元にナイフが出てくる。


 つまり、殺人それをやれという事だ。


 それをするのが…【こっち】にきた証になる。

 だから、そのナイフを…


 そいつに突き立てたのだ。


 いや、突き立てるしかなかったのかもしれない。それが彼女の…


再生リスタート


「葵!葵‼︎」


 彼女の呼ぶ声が聞こえた。霧の中から、一つの通るような声。霞だ。


 未だに手に残る、貫く感触は自分の中で何かを変えたような気がしたのに、


「霞!ここだ!」


【全く変わった気がしなかった】。


「葵、大丈夫!?って、え?」

「…さっき、落ちてきたんだ。」

「そう…」


 僕が突き刺したと思っていたのは、硝子で、彼女の体を無事、貫いていた。


「霞は…」

「私は大丈夫。今、先輩達が応戦してるから」

「…僕も、先輩達も一緒なのか⁇」

「…そうよ。僕も、君も、先輩も。演劇部のみんな、能力者だ。」

「…なんで」

「そこは渚先輩に聞いてよ。僕は知らない。……でもさ、なんとなく分かるんだ。」

「なんとなく、分かる…」

「僕たちを拾った理由ってのが、能力があることだけじゃないってね。」

「……」


 窓から先輩達が戦っている風景が見える。

 左目には燃え盛る焔が、右目には閃光、衝突音が後から来るのが分かる。

 僕から見ても分かる。これは絶対に訓練でも受けている。いや、戦闘経験があるというのか?


 動きが機敏で、慣れている。


 僕は、一人殺しただけで燻っているのに。


「…葵、僕たちはどうすればいいんだろうね」

「え?」

「きっとこのことは、バレるに決まってる。そうしたら、報復や復讐を受ける。それを一人の時に受けたら……」

「……だとしても、もう逃げれないだろ。覚悟を決めるしかない。…僕はもう決めた。」


 僕は立ち上がり、窓辺に立つ。手を霞に差し出す。


「ここでの運命は、逃げなくていいって思ったんだ。だから…「いいよ」」


 次の言葉を遮るように彼女の言葉は刺された。


「一緒に死んでも、文句は聞かないよ?」


 なんてさ。

 手を取ってくれた。


 *


「んで、凪、どうするの?」


 街路樹に力無くもたれかかってる妹に向けて、そう言う。


「何が?」

「今ここで死ぬのか、私と一緒に罪を償うのか」

「あはっ!まだ覚えてるんだ。でも…」


 彼女は街路樹に手をつけて。


「まだ、生ぬるい正義につかる気はないよ。やるならきっちりだ。」


 彼女は、【印】を唱えた。


 それは札だった。

 『帰ろ』と、たった三音の発音で彼女はどこかへと消えていってしまった。


 終わりか。


「…楽しかったのに…」


 と、誰にも理解されないそれを吐露して、海斗さんの元へと向かった。

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