#38 秒針は戻らない

『ご…』


 まえが見えない。排除対象におちてきたおんなのせいで、学校がくずれたのは知っている…


『よん…』


 ほかの人たちは死んだのかな、命宮は、月詠は…


『さん…』


 でもいいや、穂花が勝てばなんでもいい。


『に…』


 かろうじて、能力はまだ【繋がっている】。


『いち…』


 だから、【交換】だ。


 あの排除対象の近くにいた女みたいに、今度は穂花がイレギュラーになる番だ。


 *


 校庭のサッカーゴール二つそれぞれの前に、8人と2人。


 周りにはほとんど崩れている学校と、街路樹が何本も植えてある。


 そんな木が揺れる。風が吹き始めた。


 いや。


『ぜろ』


 対象を起点として災害を起こす。


【震源】


 それが、小夜曲穂花の能力だった。


「…突風!」


 そしてその起点は、さっき穂花が触れた…


「う!?」


 橘花葵だった。


 葵は、急な風速25mの風により、学校の校舎にぶつけられる。


「葵!?」

「ははっ!元気がいいね!?」


 凪は、そう叫ぶ。瞬間移動で、香夜の元へ移動し、攻撃をしようとする。


電撃デルタ


 彼女の指先から電撃が走る。


「お、いいねいいね、少しは楽しめそうじゃないか」

 凪は逃げずに彼女だけを標的に当てる。


「おや、忘れてるのか?」


 双は握り拳をその凪目掛けて放つ。


 その波動が凪へ向かっていく。


暴炎アルファ


 それと同時に香夜の【魔法】が同時に放たれ、ぶつかる。


「おお〜、こりゃ数負けだな」

「だろうね!」


 渚の打撃が当たる。


 そう。渚の打撃は絶対に当たる。

 そうなってる。


 それを食らった凪は、一本の木に当たる。


「…いったいなぁ、それが妹にすること?」

「当たり前でしょ、間違った道を正すのが姉ってもんだろ」


 *


「麗桜さん!銃と弾倉全部貸して!」

「あ、え、はい!これと、これ!」

「海斗さんを頼みますよ、守ってあげてね」

「了解、了解です!」


 奏音は、ありったけの銃をもらう。


「命、彩、いくよ」

「「了解!」」


「…うちは何の為に戦っているんだろうな」


 柚音は、地面に焔をつける。

 そして、空間そのものを焔で包み込む。


炎魔輪界インフェルノ


 三人は柚音の創り上げた世界に包まれる。

 どうして、なのだろうか。


 うちはこれらを見てもらいと思っていたんだ。

 誰に?


 うちがどうしてこうなったのか、見て欲しかったのだ。


 だからこれはうちの、独白だ。


2028/1/17。

 舟橋凪と出会った。

 最初、名前を聞いた時に「嘘だろ」と思った。

 どうしてうちを守ろうとしてくれていた名を知っているのかと。

 でも、理由はすぐにわかる。

 【お互いがお互いを知らなかったから】である。

 うちが信頼を寄せていた、【舟橋凪】とは全くの別人であることをその後に知ったのだ。


2028/2/11。

 NEAに歓迎された。

 私は、NEA第27番隊に所属されて、千秋楽を襲撃するように命令されていた。

 そして、うちもそれを望んでいた。


2028/3/28。

 そして、作戦を立てたんだ。

 NEAは「Ability does Not Exist」。

 能力者を淘汰する組織だ。


 だから、新学期に千秋楽に引っ越してくるであろう人々を一網打尽にするために。


 新荘駅爆破を企んだんだ。


 そこで、収穫もあったしうち達の手は汚さなかったし、証拠もなかったはずだったのだ。


 だって、その後の行動は特にしていない。

 今日まで闇にひっそりといて、なぜか色々バレたんだ。


 ……そういえば、なんでこんなことに必死なんだろう。

 うちはもう…


「お前が生きてる価値なんてないんだからさっさと渡せよ」「愚図、鈍間」「ゴミより価値ないよね」「さっさと死ねよ、一緒の空気を吸いたくもない」「落ちろよ、楽なのがいいんだろ」「んなとこで果ててんじゃねーよ」「さっさと死んでくれよ」「お前を処理するのにどれだけかかったと思ってんだよ?」「自分で刺せよ」


「じゃあな、“ゆの”」


 ……え?

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