#37 手応えは一番

 カチ、カチ、カチと、秒針は動く。


「海斗さん、こいつらどうするんですか?」

「まぁ、さっさと危険能力者指定したいんだが…」

「危険能力者指定?」

「ある一定の基準を超えたとんでもない能力者たちだよ。その力は、国の軍一つをぶっ壊せるほどだ」

「渚先輩…!大丈夫ですか?」

「あぁ、とりあえず考えるは…凪か…」

「舟橋渚、この凪はお前の妹でいいんだな?」

「はい。【一応】はそうです」

「了解だ、こいつを危険能力者指定していいか?」

「勿論です。更生させてやってください」


 海斗さんは凪の近くに行き、火車先輩から銃を返してもらって、その銃を麗桜に投げる。

 その後、地面に倒れている凪を担いだ。


「麗桜、車出してくれ、こいつと柚音も連れていく。いいか?奏音」

「はい、大丈夫です。…あの」

「ん?」

「柚音は助かりますか?」

「あぁ、助かる」


 海斗さんは奏音の頭を撫でる。


 その瞬間、海斗さんは口から血を吐いた。


「え?」

「は?」


「は、ははっ、あはははははは‼︎」


 その声は確かに凪の声だと思った。

 その場にいた全員がそう、思い込んだ。


「柚音!?」


 なのに、起き上がって、海斗さんの背中にナイフを差し込んだのは、紛れもなく、柚音だった。


「何が、起こってんだ…よ?」

「へー、知らないの?吸血鬼の能力の発動条件は、血を飲むことだよ?」

「…まさかお前!」


 柚音の首元の傷は癒えて、海斗さんが担いでいた凪は霞となって消えていく。


「そして、能力者の血を飲めば、その能力者の能力を一時的に使えるんだよ」

「まさか…」

「そうだよ。あなたが戦っていたのは、ただの幻影だったってわけだ、よ!!」


 屋上から落ちてきた彼女は海斗さんの頭目掛けて踵落とし。

 勿論海斗さんはそれを防ぐことなんてできず、クリーンヒット。


 海斗さんの意識はなくなった。まるで人形のように力無く、重力に従って地面にひれ伏した。


「う…そ…」


 奏音の目線の先に、海斗さんの頭が叩きつけられる。


 1発。


 その銃声は、さっき銃を受け取った麗桜さん。

 その顔は憎悪と、悲観に溢れており、今にも叫び出しそうな顔だった。


 穿っていく銃弾は凪の元へ向かっていくが、凪はそれを瞬間移動で避ける。


 麗桜さんはもう1発、目標を瞬時に変えて、銃弾を放つ。


 凪に着々と向かっていく。

 凪はその軌道の直線上に、さっき掴んでいた海斗さんの体を持ってきていた。


 そのまま銃弾が穿てば、海斗さんの体に穴が開く。

 僕は、その【刹那】、凪を海斗さんもろとも地面に倒した。


「…ちょ!」

「さーて、海斗さんを返してもらおうか?」

「柚音、出番だぞ!」


 そう叫んだ時にはもう、凪の目線では、柚音は見えたのだろう。

 だが。


「俺に刺せると思ってるの?」


 替わった。


 その、霞が名付けた、【庵】という人格が表面化する。


 その人格は、ナイフを軽々しく避け、柚音に反撃をする。


 柚音がそれを受けても、避けたとしても、【庵】は替わる。

 殴った後に、確認もせずに行われる。


「珍しいね、【個有能力】なんて」


 凪は、僕に向かって海斗さんを投げて、距離を取った。


「全員、起きてるでしょ。次期部長命令だ。全員能力の使用を許可する。」


 渚先輩は全員に向けて言う。


 こちら側には、8人。

 葵、霞、渚、双、香夜、命、彩、奏音。


 あちら側は2人。

 凪、柚音。


 8対2なら勝てる。


 渚はそう踏み、彼女が集めた演劇部全員の能力の使用を許可した。


 彼女が集めていたのが、能力者という理由は彼女しか分からないが、葵への興味は、彼の【能力】の元にあり、奏音への助言もあり、彼女は能力に興味を示しているのだ。


 その遂を集めたのが、この演劇部だ。


 そうして、そんな彼達の蹂躙が始まる___



 わけがなかった。


 秒針は着実に、【そこ】へ、向かう。

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