#35 血を綺麗に吸い取って

「【クソ姉貴】、久しぶり!私が家を出てから7年経ったけど言うことはある?」


 そう言い、当たり前かの様に屋上から飛び降り、地面に無傷で着地した。


「なんだ?一つもないよそんなの」

「あっれれ、家族が帰ってきたら普通言うことあるでしょ」

「……死んでたらよかったのに」

「はは、それお父さんのでしょ」


 確定だ。渚先輩のいなくなったという、妹。

 舟橋凪。それが彼女の名だ。


「いやーこの子はちょっと言っただけですぐ揺らいじゃう。」


 柚音に刺さった首元のナイフを抜いた。


 それを口の中に突っ込み、まるで飲むみたいに…

 舐り、味わい、楽しんでいた。


「おいおい、そんな驚いた顔をするなよ…ただの食事シーンだろう?さて…」


 彼女はいきなり、僕の目の前に現れた。


「見てたよ、冠葉神社であったやつ。すごかったよねー、君。でも、使いこなせてないよね〜」

 無意識下で時を遅行させて攻撃をいなそうとしていたのだが、それをもろともせずに、僕の鳩尾に一撃を喰らう。


「あはは、いったそ~」


 その笑う顔の口から見える八重歯は、奇麗に尖っており、それを理解した。それはそうとして、一撃を喰らった僕は思わず、体を縮こませながら地面に座り込んでしまった。


「ほらほら、立たないと。戦えない、じゃん!」


 女とは思えない蹴りを顎に喰らい、一瞬意識が飛びかける。


 そういえば、他の奴らは…

 と、周りに意識を向けた時。


 もう、【全員が地に伏して】いた。


「は?」


 困惑と不思議が入り混じった素っ頓狂な声。

 今はそれしか出るものがなかった。


 今、よくわかった。

 目の前にいるこいつは人間じゃない。そもそも吸血鬼だし、その中でも群を抜いている。


 足に力を入れて、立ちあがろうとする。

 頭はふらふらで、体に力がしっかり入るわけじゃない。

 でも、なぜ立てたのかわからない。


「お、よく立てるね、他のみんなはみーんな瀕死でピンチなのに」

「よく喋るなぁ、女のくせに」

「お?」

「テメーみたいな頭のネジが何本も抜けてるやつは、まともなこと言ってらんねーからよ」

「そうか、今のでよくわかったけど、君は人をイラつかせるのが好きらしいね?」

「あたりめぇだろ、【僕】がお前を断罪するんだわ、屑野郎が」

「はは、いいね、その反骨精神、嫌いじゃないよ」

「僕はお前のこと大っ嫌いだけどな!?」


 てきとーなことを巻いて回復を待てたのはいいけど、攻撃しても返り討ちになりそうだ。

 どうするべきだ?


 わかるだろ。一対一で勝てない相手に勝つ方法は…


 複数人体一にするべきだ。

「海斗さーん!!ここだー!!!」


 僕はそう、叫んだ。これは賭けでもなんでもない。彼は、NEAが関わると絶対に来るんだ。


 *


「なんか、今日は変なことでも起きそうですか?平山さん」

「あぁ、そうだなぁ。ひとつ大きなことでも起きそうだな。」


2028/5/11。

 この前括りつけていた、吸血鬼は、燃えることはなく、誰かに異臓、内臓を貪り食われた状態で、物陰にあったのだ。それを一昨日やっと見つけて、今日しっかり燃やすため、俺らの目があるところで、燃やしている。


 そんな燃えた吸血鬼の煙を見ながら、二人で空を仰いでいると。


「人が飛んでいる…?」


 麗桜が何かに気づいたらしい。


「なにが?」

「あれ。女の子が飛んでいるというか…落ちている???」

「…落ちてるな。早速大きなことが起きそうじゃないか」

「うれしいんですか?」

「……すべてが解決すれば、うれしくもなるんだがな」


 *


 葵の勘はもちろん当たっており、しかも。時間がぴったりであった。


「了解だ」


 飛んできたのは、必要以上に尖った、真っ白なサーフボード。それが、凪に突撃する。


「危ないなぁ、サーフボードってもっと楽しいことに扱うもんでしょ」

「すまんなぁ、うちの運転担当は制御が効かなくて」


 彼は、そう軽い口を叩きながら、僕の横に着地した。


「状況は?」

「柚音をやっつけた後に、こいつがナイフを柚音に投げて出てきました。」

「全く。どれだけのピラミッド型の組織を作り上げたのか。聞きたいくらいだ。」


 海斗さんは空間から剣を取り出した。

「葵、武器は何がいい?」

「ナイフで」

「了解、手出せ」


 手を出すと、ちょっと上の方からナイフが落ちてきた。


「…君、MSAのダイヤ支部?の人?」

「そうだが?」

「じゃあ、やるしかないね。私の部署でダイヤ支部を壊すから、君を先に殺さないと」

「なんだと?」

「君たちの中の二人を殺したよ。たしか…大関正人、青柳慶吾。」

「そうか、君たちは人を殺す癖に殺した奴の名前を覚えてるのが気色悪い。」

「そうか…私たちの組織の教訓なんだけどな…」


 凪は手でナイフを弄びながらそんなことをいっている。


「でも、そろそろ覚えないといけない名前が増えちゃうからね!名前をお聞かせ願える?!」


 そう言って、彼女は僕たちの間に現れた。

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