#34 姉妹はきっと

「だから…遅いんだよ、もう」


 目の前で燃え上がるお姉ちゃん。

 きっと今頃、私の幻覚を見ながら死んでいるんだろう。


 それを見ているお姉ちゃんはどういう気持ちなんだろう。幸せなのかな、不幸せなのかな。それか…私と同じなのかな。


「…凪…うち、どうしたらよかったんだろう」


 もういないはずの凪が見える。

 それはお姉ちゃんの燃えている火中から。

「…う…そ……」


 戦っていた最中なのに、涙が流れてくる。

 目の奥から、見るなと流しているのか、昔の記憶に懐かしく感じ、流しているのか。


 答えは出てこない。


「…それが…柚音の助けてくれてた人?」

 うちの真後ろからお姉ちゃんの声が聞こえる。


「なんで、」

「理解できないでしょ。私もだよ」

「私もって…」

「…私は一人で柚音を育ててきた。」


 ……そうだ。物心ついた時から、両親という存在はいなかった。


「御伽話みたいだよね。私が妹が欲しいと願ったら、柚音は生まれたんだよ。」

「は?」


 全くもってお姉ちゃんの言っていることがわからない。


「つまり…えっーと…」


 お姉ちゃんは今までを思い出すかの様に、空を仰いだ。


「私も、みんなと同じで、柚音もそうなの。みんな、特別な力を持ってる。」

「私……も…?」

「…そう。」

「じゃ、じゃあ、お姉ちゃんは何…」

「【省略】かな、簡単に言えば。」


 そんな、簡単に口ずさむみたいに言う。うちは全く、自分のを理解していないのに。


「あ、…あぁ……」


 体がふっと軽くなったみたいに、力が抜ける。

 両手を地面につけ、地面に視線は釘付けになり。雨が降ったみたいに、その地面は濡れ始めた。


 きっと。あの時、助けてくれたのは。

 私に何もなかったからじゃない。あった物を教えてくれたんだ。

 私は守るべき力を壊すことに使った、哀れな道化だ。


 *


「よかったんですか、火車先輩に全部任せて」

「うん。きっと彼女ならできると思ってね。」

「…渚は最初は自分で殺す気満々だっただろ」

「それは仕方ないんだ。彼女が【自覚】をしているとは思っていなくて。」

「【自覚】?」

「ま、今のご時世、そんなに難しくもないけどさ。」

「…霞、【自覚】って何?」

「あんたに足りない物」

「……そうなの?」


 みんなでグラウンドの火車姉妹のところまで歩いて行く。


「…奏音、もう大丈夫。」

「渚…柚音は…」

「わかってる、大丈夫だから」


 渚は早口でそう伝えて、柚音の高さまで跪く。


「火車柚音。君が今までしてきたことは知っている。だからって、こんなことで許されるわけじゃない。でも、今からでも変われる。どう?変わる気はある?」


 顔を上げた彼女の顔は涙と血でぐしゃぐしゃだ。だけど、渚先輩の質問に。


「……あります。私の力で助かるものが、命があるなら。」


 そう答えた。


 僕は、謎の達成感に包まれていた。

 彼女を救えてよかったと、そう思っている。


 あの時総研にいた時の悪魔の様な顔ではない。総研にいた時はこいつは組織にいたんだろう。七人…で……。


 火車柚音、黒川一錠、一条留流の兄弟…全然足りない…?


「…葵?」

「いや、なんか不吉なことが起きそうな…」

「!?柚音、伏せて!!!」

「えっ」


 飛んできたナイフ一本は彼女の頸動脈を精密に捉えて、首に刺さってその勢いで彼女は倒れた。


「せんぱーい、ひどいじゃないですかー、ずっと無視するなんてー」

「うるっさいな、【凪】。」


 そんな、大きな声をあげる渚先輩。


 学校の屋上にその相手がいた。

 その【凪】という、少女は。


 渚先輩に似た、背格好をしており___


「そんな冷たくしなくたっていいじゃん、【クソ姉貴】!」


 と。言った。既視感のある情景だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る