#33 呪いも不幸も幻も

「大丈夫か??」

「おおー、女の子一人キャッチできるくらいの力はあるんだね」

「舐めてんのか?」

「いやいや、あんな子供がこうなるなんてねぇって。思ったってだけさ…んで、敵は?」

「あいつら三人。他に、僕の中学の同級生のやばいやつ、はいなくなったが、柚音がいる。」

「柚音は誰と?」

「渚先輩。先輩ってそんなことできんの??」

「天賦の才は狙われるからねー」

「なるほど」


 そんな話し合いを手早く済ませて、彼女を下ろす。


「多分、先輩は柚音のことなんとも思ってないから、最後までやっちゃうと思う」

「最後まで??」

「そう。あんなふうに」


 そうして、霞が指さした先には、校舎があった。そしてその下には、さっきまで戦っていた奴らが三人。

 その瞬間、建物が崩れ始めた。柚音の炎により支えていた柱が燃えて、天井から瓦礫もろとも落ちてきた。


 無慈悲なことに、建物の瓦礫によって潰れた三人は一切動かなくなった。呪いで死に方を固定しているあいつも、体がぐちゃぐちゃに潰されても、瓦礫を押せるくらいのスペースも力もないだろう。


 だが、僕はそれを見たことより。

 霞がいきなり僕との距離を詰めるように歩いてきたのだ。


「え?」

「…さて、これでやりあえるね、【イオリ】。」


 彼女はいきなり、僕の目を見据えてきた。


「イオリ…って誰のことだよ?」

「…さぁ?でも、私にはわかる。【葵の中に葵じゃない人格がある】」

「……」


 風が吹いて、霞の髪が靡き、目元が見えなくなる。


「だから、私の仮説だけど…」


 彼女の目が現れる。

 その目は明らかに、人を狩る側の目だった。


「あの子の遺言の通りなら、復讐を遂げるべき人間は…君なんだよ、葵の裏にいる【庵】くん」


 彼女は歩みを止めた。その彼女の独白若しくは予想を聞いた僕は、少しの戸惑いを纏った声を絞り上げた。


「……厨二病??」

「…ま、そうね。今はやるべきことがこっちにあるし。」


 彼女の急な発言に困惑を覚えながら、校舎の向こう側を窓から見据えてみる。

 きっと向こうでは……


 *


「柚音!聞いて!こんなことしなくたって…!」

「聞いてるよクソ姉貴!うちが何したかなんて知らないでしょうに!」


 真っ直ぐ飛んでくる火球を奏音は避けようともしない。それを双が必死になって奏音が当たらない場所へと動かしている。


「奏音!離れろ、死ぬぞ!」

「やめて!双!今なら…今なら、助けられると思うの!」

「双、奏音を頼んだ」

「ダメ!柚音を、今なら…!」


 みんながみんな、助けられると思ってない。でも、私が…私が助けなきゃ…、助けないと…!


「そんなに助けたいの?なら、助けてみてよ、こんな醜い私を!どうしたって救えない、哀れなピエロを!」


 ピアスは揺れ、穴が空いた右耳に空気が通り、幻肢痛がひっそりと走る。

 熱した安全ピン、画鋲、ダーツの矢、鋏。

 尖るものはなんでも刺さり、穴が開く。


 右耳は声も音も拾うことに向いていない。


 なのにうちのいじめは止まることを許されなかった。


 痛い、痛い、辛い、辛い…。

 いくら逃げたって、塞いだって、離したって。

 いくらでも追いかけてきたんだ。


 だから……


 【復讐仕返し】されたって、文句は言わないでほしい。


 *


2027/07/28。

「彼女」は、世界の全てを憎んでいた。


 守ってくれる人は、亡くなり。

 どうして、私が、彼女はそう。思っていた。


 そして、ピアスを手に入れた時から。

 死ぬべきだと思った人間は殺してやりたいと思っていた。


 だから…


 【己で己を殺したのだ】


 大瀬中学校。

 そして。

 結子、菊乃、木雨。


2027/8/27。

 奏音お姉ちゃんにバレない様に、中学校に行くふりをして、ふらふらとさまざまなところに行っていた。

 うちの行っていた中学校は全焼したため、少し遠くの中学に通っていたためバレなかった。


 その途中で見つけた…


 MSAのダイヤ支部の二人。

 大関、青柳。


2028/2/11。

 NEAに来た時は…

 数えられないほど。


 八雲はと、紫紅勇人、鈴木楼、薄田水尾、本堂優希、佐藤晃司、東雲蘭、甲斐田優、古歩道権、二房三笠、星海希奈、酒巻桃、佐野春希、冬稀凛、神舵羅雷、金城鳳二、一条優磨、神崎家譜、雪鉈創、甲賀久、佐藤慎司、髙橋迅、霧雨奈央、海貸綱、古川未来、三浦清香、言ノ葉祐二、原口郷、密山光、一彼方、柊木隼、水谷夜宮、大江恋、宮崎波瑠、烏森風、籠原由樹、河内豊南、信楽孟子、赤羽志帆、東雲美優、米山萌芽、山根光輝。


 組織の一員も、作戦も、全て私が言った通りに動く様になった。


2028/3/28。

 新荘駅爆破事件。


 あれの主催は私だ。

 そこでの、事件に巻き込まれた人たちは、


 一橋葉子、大塚巡、小笠原浩、鏑木翔、木下銘、馬場純子、榊原世莉、広川宗二、齋藤佑、佐良実央、坂本龍樹、紺野裕太、五十嵐裕香、東馮斗、篝眞子、新道龍、須藤瞬、三上幸太郎、滝沢桜、冨田淳一、武本勝、永岡泰志、片桐優馬、橘花葵、橘花茜、朝日英二、黒木咲耶、山口綾音、井上瀧、森百舌、藤田硝子、朝倉果穂、阿閉梨香、佐々木天之助、吉田菊、舞坂胡桃、渋山夢、勝俣米子、小岳優希、東海林慶。


 だから、私を助けるには…遅すぎる。

 遅すぎるんだよ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る