#32 おねがい神様

「ここは…?」


 彼女はそう、呟く。

 私はそれに応えるように、呟く。


「現世と天国の狭間かな」


 金髪の女の子が隣で喋った。


「そんな場所が」

「あるよ、私はここにいるのが証拠だね」

「証拠?」

「そう。私がいるからね。ま、そんなことはどうでもいいや。」

「…どうでもいいことなの…?」

「…さて、比嘉原霞。君は二つの選択肢がある」

「二つの選択肢??」

「うん。一つは、このまま身を委ねて死を待つこと。もう一つは私と同じような存在になること。」

「なにそれ、あんまり変わってなく無い?」

「まぁ、死ぬのは確定みたいなものだし…」

「…僕が死ぬと??」

「そうだよ、死ぬんだよ」

「だめだよ…死んだら…あいつに復讐できない‼︎」

「あいつ…?」

「あっはははははは!!そうだよ、こんなところで死んでられない!ねぇ、あなたその格好ってことは天使なんでしょ、私を地上まで連れてってよ!ねぇ!」

「強情だし、面倒だな…」

「連れてってくれないの??」

「お前が選べるのはさっき話した二つのどっちかだけだ」

「じゃ選ぶのは三つ目だよ。『選ばない』。さて…」

「選ばなかったら、死ぬだけだよ」

「どうせここ天国の真似事してる場所でしょ?脱出すればいい話だし。僕、謎解きは得意だからね〜」

「無駄ですよ」


 彼女は立ち上がり、周りをぐるぐる見始めた。


「おー、地面は結構ふわふわなんだね、食べられるの?これ?」

「…食べてみたらいいじゃ無いですか」

「それじゃ、いただきまーす」


 そう言って、彼女は土下座のポーズで地面を食べ始めた。


「やめた方がいいとだけ言っておきますね。」

「うーん…、わたあめみたいに甘くは無いね…」

「当たり前でしょう。雲はわたあめでできてるわけないじゃ無いですか…」

「え!?、そうなの!?ショック〜」


 彼女の顔は全くショックそうな顔をしていない。


 そして小一時間ほど、彼女とのコントのような会話をした。

 呆れるほど、諦めの悪い少女だった。


「…あなたいつまでここにいるんですか」

「え?あなたに関係ないでしょ」


 本当に…


 その時、私が作った臨界が崩れそうなのがわかった。


「まさか…」

「ん?なんかあった?」

「…あなた、能力は」

「不幸に巻き込まれやすくなる能力だね」

「…”誰の“不幸に巻き込まれやすくなるんですか?」

「知らない、それは解釈次第でしょ。能力は解釈で強くなるもんだし。」

「…あなたに言っておきます。あなたたちは能力がなくとも、臨界を使えて、世界を作れます。人間の本質はその個人的な世界の押し付け合いです。」

「…そう?」

「…そうです。だから、他人の世界に飲み込まれると、洗脳される。自分の世界が強いほど、相手を従えて、相手を手玉に取れる。」


 私は、臨界を保つのが精一杯だった。


「だから、私の臨界を壊せるあなたは…」


 彼女は晴れ晴れした笑顔で。


「ばいばい!神様、楽しかった!」


 *


 目を覚ますとそこは上空であった。


「わお、こりゃみんなびっくりするだろうなぁ」


 状況はあんまりわかんないけど。やることは決まっている。


「柚音をやらなきゃいけないのか…」


 自由落下しながら、そんなことを考える。今まで生きてきた中でこんな落ちたことはないがなんとなく、生きれるだろうという謎の自信がある。


 だって、私は“敵”にとって不幸な存在になるんだ。


 あいつ…いつからそうなっていたんだ?


 私に取っての敵は…


 *


『ろく…』


「ちっ」

 バックスステップで距離を取る。

 無口だった女に攻撃を喰らうと、彼女自体の口からカウントダウンが進んでいる。


 おまけに呪いのせいで容易く動けなくなった。


『被傷は月詠紅河に全て移る』

 という呪いのせいで、攻撃してもダメージが通るとも限らない。


 つまり誰に攻撃しても得がない。


 おいおい、どうすんだよこりゃ…

「…葵、こう言う時はどうするんだよ…?」


 そう呟いた時。


「親方…空から…!」

「あぁ!?」

「…女の子」


 と、三人が空を見上げていた。


「……切り札ってことか」


 俺は落下の寸前で彼女を受け止めた。


「あいつ、まだ…」


 そして、替わった。

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