冷えた篝火-29:11

#29 訓練

 5/11。

 今日も、休んだ人間がたくさんだ。

 神崎、小河原、海藤…そして、紗凪だ。


 紗凪は知っている。まだ入院が続いているのだ。まぁ生きていたことが奇跡なんだ。少しのリハビリくらいは許容範囲であろう。

 他三人は、全く知らない。ま、この連休で色々あったのは知っている。最初の方で、あんなことに巻き込んでしまったのだから。

 …本当に申し訳ないと思っている。


「あーおいっ!」


 三限が終わってから、霞が僕を呼びにきた。

 連休前は僕は紗凪とばかり昼食をとっていたが、今は霞と食べるのが習慣になってしまっている。


 食堂に行き、昼食を注文して食べる。

 いつも通りの日常だ。


【ここまで】が。


 突如、火災報知器のサイレンが鳴った。


「今日って、防災訓練の日だっけ??」

「いいや、そんなものない…」


 すぐさま、校内放送が流れ始める。


『あー、現在、火災報知器が鳴り響いていますが、誤作動です。誤作動です。なので皆さんは……』


 と、放送は続く。

「誤作動かい…全く。学校もボロくなってんのかな?」


 と、霞の方に視線を移すと、彼女の顔は今まで見たことないほど青くなっていた。

 まるで、何かに怯えているように…


「逃げよう、葵。」

「は?」


 いきなり、そんなことを言う霞。


「逃げるって、何からだよ」

「…きっと、何かが起こる」

「何かって、なに?ってか、大丈夫って今放送で…」

「…こんな人、この学校にいた?」

「…は?」

「ボクは…こんな声した人、放送委員の中にいた覚えなんかない。」


 彼女は、放送委員だ。

 でも言われてわかる、違和感。


 こんな男の声知らないし、先生というのはおかしい、若すぎる声だった。


「……そうかもしれない…」

「でしょ。だから……」

「逃げるのか?」

「え?」

「放送室にいるんだろ、何かをしでかす奴が」

「……」


 霞は、口を閉じる。


 なんとなく、【あの時】を思い出してしまう。あの時は…あれ?どうなったんだっけ?


「……行こう。葵。」


 そう言われて、腕を掴まれて、放送室へ向けて駆ける。


「言っとくけど、これはボクの判断だから!葵は特に考えないで!」

「…了解!」


 そう言いながら、必死に階段を駆け上がる。

 2階、3階と登り、放送室までたどり着く。


「開けるぞ?」

「いいよ!」


 二人で、そこの部屋のドアノブをつかんだ。


「何してるの?」


 という声も同時に聞こえて。


 *


「双ちゃんー??」

「ちゃんづけすんな、なんだよこんな時に」

「台本できたからー、確認」

「もうできたのか?」

「うん。連休潰したからね」


 そこに香夜もやってきた。

「えー、大丈夫なの?」

「だいじょぶだいじょぶ。こっからの仕事は双の仕事だし。」

「んまー、そうだな。あとこれができたら、衣装を命と彩に頼むとするとして、小道具は、あったんだっけ?」

「この前調べてたんじゃないのか双が」

「あぁ、そういえば、調べたっけか…」


 三人の目が合う。言いたいことはみんな一緒らしい。


「…物好きに聞けばわかるでしょ」

「それもそうか。」


 三人で、部室へ向かう。


「火車ー、いるー??」

「いますけどー」


 と、部室の天井裏から聞こえる。


 いつも通りだ。


「やっぱり、狭いところが好きだね、君は」

「まぁね。そんで?何か用があったんじゃ…」



「……香夜さん、またやったんですか??」

「え、違うよ。今回は違う」

「今回は、らしいね。で、用ってのは小道具全部あるかってことだね。台本を渚が休みを使って書いてくれてね」

「…んまぁ、よくは見てないけど、全部あると思うよ。使えないものを新しくする程度かな。古いのはいくつかあるし。」

「その程度か。ま、次までは二ヶ月ほどあるし大丈夫か。」


 一瞬、間ができた。その間にサイレンが鳴き止む。


「先輩、計算間違えてませんか?次までは、一ヶ月ぐらいじゃないですか」

「そうですよー、相変わらず、計算できませんね、双ちゃん」

「うるさいな、あと双ちゃんって呼ぶな」


 そんなやりとりをしていた時。

 私はうっすら気がついていたが、あえて気づかないふりをする。


「まぁまぁ、計算ができないのは私と同じじゃないか」

「はい?割り勘の計算ができない人に言われたくないね」

「む。なんだとー、お前この前電車の切符買うの間違ってたくせに」

「なんか話の方向性がおかしくなってきた…」

「この二人の言い合いは飽きないっすよねー。いいぞー先輩、やれやれー」


 私たちが生き残る道は、『ただ演る』しかない。


「……なんか色々言い合ってたらお腹空いてきた」

「……そうね、もう昼休みは終わりそうだし」

「……これでよかったのかよ?」

「……はっきりしない…っていうのが正直な意見。」

「あの子の為になるならって言いそうだけどな奏音なら」

「私、そんなこと言いそうですか??」

「あぁ。シスコンに見えていた。」

「あ、それならもっといいシスコン知ってるんで教えてあげますよ」

「うわー、超絶笑顔。こりゃとんでもないらしいね」

「……とりあえず逃げないか?君たちといると本当に時間感覚がなくなりそうだ。」

「全員、ハンカチで口を覆いながら、すすめー」


 だって、侵入者がいるんだから。こいつはヤバいのがわかるんだ。しかも、今ここに、あの時と同じく。いま、私の横には侵入者がいる。会話が明らかに人数に合わない。何かしらの【能力】だ。

 ___楽しくなりそうだ。

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