#28 帰途にて

「…よかったんですか、本当のこと言わなくて。」

「……かわいそうだろ、妹が放火魔と知ったら。しかもなんなら、そいつ、【持っている】んだろ?」

「えぇ。おそらくあんなことは持っていないとできない芸当でした。」

「そうか…」


 数分後、違和感で車を止めた。


「だから、いきなり止めるのはどうかと…」

「麗桜、懐中電灯あるか?」

「えぇ、ありますが。」

「左前方の方を照らしてみてくれ。」

「え、」


 そこに、吸血鬼が二体。片方は首を刎ねられており、もう片方は、首にナイフが刺さっている。


「……これ、明らかに…」

「あぁ、知識があるな。吸血鬼の【生き方】を知っている。」

「じゃあ……」

「昔ながらの、吸血鬼狩りか…?いや、そんなことないな。だったら一般人?一般人がそんな知識持っているとしても…」

「……始まった。報告書でも書いておくか」


 そうして、数十分。


 目を凝らして観察してみると色々おかしい点が出てくる。


「…体を、食べられている?」


 *


 逃げてから、30分くらい。

 土手に逃げてから、元いた場所に戻っている。渚は多分、生きている。


 そう本能が言っている。


 渚、頼む。生きててくれよ!


 そう思って行って。

 いたのはすでに死んだ吸血鬼と、二人の警官だけだった。


 遠目に見ただけだが、そうとしか見えなかった。


 じゃあ、渚は??


 生きているはずなんだ。きっと。

 俺を逃がしてくれて、吸血鬼を二体殺してくれた。


 だから…


「翼??」


 その声は。今、聞きたくない声だった。


「黒川…」

「どうしたんですか、こんな場所でさ」

「いや、ちょっと…」

「なんですか?まさか…」

「いや、違う。大丈夫だ」

「そうですか、なら大丈夫です。…あらかた家に帰れないから、帰れる場所を探していたんでしょう?」

「あ、あぁ、そうなんだ」

「なら、帰りますよ、俺たちの拠点にね」


 そう言って、彼は歩き出した。


「そういえば、仲間を増やしました。霞さんが【溶けて】しまったので。新しく二人ほど。」

「そ、そう。」

「頼みますよ、【女王クイーン】」

「あぁ。」


 *


「さて、久しぶりですよね。こっちがリビングですよ。仲間もいます」

「あぁ、新しく入ったやつもか?」

「えぇ。こちらが新しく入った、火車柚音と、一条崩です。コードは?」

「【ポーン】。」

「【ビショップ】。」

「よろしい。」


 ここでは、『コード』という、名前をつけられてバレないようにしている。


 ちなみに霞は…


「ちなみに【ルーク】はどこかに行ってしまった。敵の調査に行ったのか、はたまた裏切ったのか。それはわからん。だがまぁ、大丈夫だ。【ナイト】も、そろそろ終わった頃だろうし。」

「そうだな、これから、に向けて作戦会議をしよう。」


 霞は、【裏切者ルーク】と呼ばれていた。


「そういうわけだ。最初の襲撃を決めよう。いつがいい?」

「梅雨中に。一回で殺すと決めるより、何度も襲った方が色々都合がいいんじゃないか?」

「それもそうか。いいかい?【クイーン】。」

「了解だ、【キング】。」


 そうして、準備を整えていき。


 5/11。

 準備は整った。


「【ポーン】、一人でいけそうかい?」

「いけますよ、舐めないでもらえますか?」

「あらら、この前の失敗で凹んでるのかと思ってましたけど、意外にピンピンしてる」

「当たり前でしょ。あんな失敗二度としない。」

「…その意気だ、行ってこい。お前なら【昇格プロモーション】できる。」

「はいはい。そんなん簡単にやってやるんだから!」

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