#24 二人はどうしたって

 夢を見ていた。あの頃の夢だった。


 妹みたいに、演じてみたかった。

 妹みたいに、溺れるほど。

 妹みたいに、褒められるように。


 俺は、「失敗作」だって。何度も何度も。


 父と母は、いつだって、妹の味方だった。


 …なのに。妹が、亡くなって。

 不慮の脱線事故だって。

 被害者が一人で済んで、幸運だって…!!


「ふざけんなよ!!」


 その時を起点にして、両親は、俺への態度を変え出した。


 まるで、妹の代わりを作るみたいに。

 俺自身も、そうなりたくて、鍛錬を積んだ。


 それで、有名になって、風雲高校まで行ったのはよかった。そこでたった一年で、俺を超える天才が現れるとは思っていなかったんだ。



「…ん」

「お、やっと起きたか、バカ」

「いきなりだな、化け物」

「化け物呼ばわりなのは納得いかないなー」

「ならこっちのバカ呼ばわりも納得いかないな」

「なら何がいい?」

「なんでもいいわ」

「そう、じゃ、翼、さっさと帰るよ」

「…まさか、待ってたのか?」

「当たり前でしょ、翼一人だと帰ってこないでしょ」

「…そうかい。」


 俺らは、海斗にあいさつをして、駅へと向かう。


「…寒いねぇ」

「まぁ、まだ5月だしなぁ」

「ね、翼、手出して」

「はいはい」

「あー…あったかいねぇ」

「去年の冬から変わってねぇなあんた」

「当たり前でしょ、変わる理由がないじゃないか」

「そっか、そうだな」


 こいつは、無意識だったんだろう。俺を超えるとか、そんなことは全く気にしていない。


 俺だけが気にしていた。

 なんだ、俺も両親と一緒か。

 目の前のものしか見ていなくて、嫌いなものを嫌って、好きなものを愛でて。


 そんなバカ正直な生き方しかできないから。


「翼、君がこれから何をするのかは、君次第だけど…。道を外したら、私たちが、私が戻してあげる。だから…」

「……__」

「だから…、って、何泣いてんの」

「え、え?」


 久しぶりに流した涙は、初めて、温かった。


「ふふ、初めて女の子みたいな顔になったね」

「うるさいな、嫌いなんだよ、女々しくするの。身長も高いし」

「ま、それが翼っぽいかもね」


 暗夜、二人は手を繋ぎながら、帰っていった。

 その日は、新月であった。


 *


「もう、深夜だな、暗いし」

「なんで今日に限って新月なのかね…」


 二人は、もともと住んでいた街まで帰ってきていた。

 二人の家はそこまで遠くない。翼は、渚の家に泊まったりはしたことがあるため場所も知っている。


 それだから、なお一層、恐怖が増える。

 暗夜を突き進む渚は、トンネルを掘る掘削機のように、臆することなく進む。

 翼は恐怖の方が大きいため、少しずつ歩幅がずれていくのだ。

 しかも後ろの方に。


「翼?」

「ごめん、足、竦んで…」


『新月なる夜』

 この街には言い伝えがある

『陰に潜むものは光を呑み』

 それは子供騙しでも、伝説でも__

『人の生き血を喰らい』

 彼女らはその時、遭遇する。

『血ヲ吸ウ鬼は…』


『人類を恐怖に陥れる!!』


 渚は翼を庇い、後ろに倒れる。


「首くらいまでの髪、ある程度長いタッパ…真っ黒な目…」

「お前か、【舟橋渚】?」


 【吸血鬼】の二人は、彼女らに語りかける。


「…はは、違うね。通してくれるかい?急いでいるんだ」

「いや、お前が【渚】だろう。知っている。」

「根拠は?」

「……勘?」


 その場は意外にも和み始めていた。

 いや、明らかに、吸血鬼側が、対話を試みているからである。


「勘か……なら違うだろう。通してくれ。」

「だめだ。違うことを証明してみせろ」

「……ないな」


 なら、無理かもな。


「翼、逃げろ」

「え」

「逃げろ」

「……」


 そうして、翼は、逃げた。逃げることを、【強制】された。

 理解もできずに、【強制】的に逃げた。

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