#21 貴方の為なら

 5/2。

 僕らはあの時の後、事情聴取をされて今日解放された。

「やっっっと!解放された!」


 なんでこんなに長くなってしまったのか。それは、の所為だろう。


「……なんで待ってたのさ」

「は?待つのが筋ってもんだろ」


 そう。霞の所為だ。


「……んで?四ツ谷先輩は?」


 僕は横に歩いている霞に問いかけた。今は昼時なので、人はこの近くにはあまりいない。

「……まだ事情聴取されてた。多分、色々聞き出せないか頑張ってるんでしょ、あっちがさ」

「……んまぁ、そうなのかもしれないけど…」

 僕はさっきいた場所を見た。

「あれじゃ、先輩が可哀想でしょ」

「まあね。どうするの?一緒に待ったりする?」

「いや。やめておこう。……僕はちなみにあの人が嫌いだけど、霞は?」

「はは、ボクも嫌いだよ」

「……そう。」


 僕ら二人はその日、電車に乗り込み、街に帰った。ついでに、行きたかった場所と報告したいこともあるし、【そこ】に寄ることにした。

 家とは全く別の方向へ歩いている僕を見かねて、彼女は文句を言い出す。


「……そんで、ここはどこなのさ」

「紗凪が入院してる病院」

「は?あのメンヘラ女の病院にわざわざ行ってるってわけ?」

「…?そうだけど?」

「……信じられない」

「…そうか?」

「そうだよ!なんであいつのとこなんか……」

「…俺の所為なんだ。俺が巻き込___」


 瞬間。左手の手首と首根っこを掴まれて、壁に叩きつけられた。


「ねぇ、お前は【今】誰?」

「おい!なにすんだ…」

「誰!?」

「僕は…葵だ…!」


 彼女の顔は、不安に包まれた顔をしている。


「…あ……ごめん」


 僕についていた、手枷と首輪はなくなった。


「あのさ?葵、一人称、僕で固定してくれる?」

「あぁ…いいけど…てか、そうしたいのはやまやまなんだけど…」


『一人称、僕なの??きもっ』


 この前のこんなことが少し揺らいでいる。

 ……でも、なんで一人称が僕なんだっけ??


「そういえば、なんで一人称が僕なの?」


 と、霞からも当然の疑問が飛んできた。


「そうなんだよね。…なんでだっけ」

「わかんないんだ。自分のことなのに。」

「ま、仕方ないよ。自分じゃわかんないことなんてたくさんあるしさ」


 と、話していると、沙凪がいる部屋まで来ていた。


 その時、後ろから声が。

「あ、やば」

 霞の声。


「なんかあった?」

「あ、いや、特に…」

「…そう」


 部屋に入ると、沙凪は寝てい…


「葵〜!!」


 寝ていなかった。むしろかなり元気だ。


「…治ったの???」

「うん?当たり前でしょ、こんなとこで死んでられないし!」


 と、僕がかなり悩んだことは特に関係なく、沙凪は無事、復活をした。


「あれあれ…葵くん、来てたんだね」


 と、窓辺にいた八咫蔵美奈が外に向けていた視線をこちらに向ける。


「久しぶりですね、美奈先生」

「……あぁ、結局、行ったんでしょう?総研に」

「はい。行ってきました」

「……なぜ?」


 そう、窓辺に両手を置いたまま、先生は僕に問う。


「君は、紗凪と一緒にいて、謎の組織に襲われたよね?そして、紗凪が重症を負った。なのに、君はまた襲われる心配もせずに…」


 その長く続きそうな説教に一矢投げたのは、霞の声だった。


「襲いましたよ。葵をね」


「「え?」」


 そこに、同じような声が反響した。いや、言うとは思わなかったんだ。

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