#20 発端と顛末

「君の能力は『不幸に巻き込まれやすくなる』だ。」

「は?」

 そんなことをフィラーオネ言われて、困惑していると、いきなり、目の前は緋色に染まりきった。


 いや、燃え上がった。


「地獄行きだ」


 その声が隣から聞こえた。


「え」


 葵は、いきなり吹っ飛んだ。

「ちょ!」


 そうして……

 7人も突撃をしてきた。


「ちょ、多い多い!!!」


 その対処をする前に、一瞬で僕の前に移動してきたやつにランプを奪われた。


「フィラーオネ!」


 速攻、僕は殴られて、意識を失った。


「ダメだよ君じゃ」


 なんて。


 *


「大丈夫かよ…」


 そんな声で起きた。


 眼を開けると、まだ世界は真っ赤だった。

「あおいぃ?」

「なんか言ってるけど聞こえねぇ」

「あ、そうか、まだ…」

「とりあえず運ぶから……動かして大丈夫か?」


 僕は首だけを上下に振った。

 ……この、目の前の男は、【まだ】【仇】じゃない。

 いつか、隙を見せた時に。


「あー……こいつも助けたほうがいいのか?」


 そう言った、彼は微妙な顔をしていた。

 今日の研究所のやりとりを見て、よく思ってないんだろう。


 四ツ谷 翼。

 彼女は、舟橋渚が演劇の世界に出るまで、随一だと言われていた。異様に深い役の没入感。演劇の世界での主張の強さ。

 そして【能力】の使い方。


 彼女が、彼女に嫌味を言い、いじめていた理由は。

 彼女が積み上げてきたものを、たった一回の演劇で飛び越えてきたからだ。


 彼女が積み上げてきたものは。

 彼女なぎさが土台から崩したからだ。


 そんな彼女をボクは、救ってあげたいと、思ったんだ。”ボク”も、そうだったから。


「助けてあげて。そろそろ声も聞こえるでしょ」

「…ほんとだ、なんでだろうか」

「わかんない」

「…教えろよ、この後、諸々」

「わかったよ。……ありがとうね」


 そう言い、ボクは彼に身を委ねた。

 ……いつかなる、【仇の花】に向けて。


 *


 てことで…


「霞、そして、三年生の四ツ谷先輩。あなたたちがランプを使って何を狙っていたんですか?」


 僕は、その二人に詰問している。


 その時、彼は知らない。

 霞が引いた、【不幸】という能力で。


「俺は……俺は、お前に、復讐をしたかっただけなんだ」

「……えーっと……私に?」

「お前のそういうことが嫌いなんだ」


 渚先輩はポカンとした顔で、四ツ谷先輩を見ている。


「……ってことは、先輩の勘違い……ってこと?」


 霞は言った。

 そう。なぜ、復讐をしようと思ったのか。


 彼女は、渚先輩が、蹴落とすために同じ場所に来たのだと思っていた。

 なぜ、この高校でこの二人が出会ったのか。

 演劇で名を馳せる二人は、随分と上の人間から眼をつけられているのだ。


 そのため、この二人を一緒に演劇すればいいのではないかという、上の人間の目論みなのだ。

 では上の人間とは誰なのか。


「……四季さん?」

「この演劇界の有名人。こんな荒廃した世界での初めの娯楽は“演劇”。それを広めたのが、四季さんなの。」


 それが四ツ谷の口から話された。

 四季さん。そんな人間がいるのか。


「私も確かに、四季さんの関係者に催促されたと思うけど…」

「じゃ、俺のマジの勘違いだって?」


 そう。これで和解できた。


 …はずだ。


 *


 何か、すごく違和感がある。

 なんだろう。すごく、嫌な予感がある。


 でも、ボクには関係…ないか。


 *


 4/29

 能力総合研究所、展示ブース一階にて、三つの組織が交戦。一般人は約30名ほどその場にいたが、隔離界により、ほぼ無傷。

 交戦した組織三つは、一つは高校の私的組織だったが、もう二つは、片方記録なし。もう片方は、NEAにいる、“放火魔”と同じような能力を扱うものがいたと証言があった。つまり、NEAである可能性が高い。


「…はい、報告書」

「あぁ、ありがとう」

「本当に海斗はこういう雑務は私にまかせますよねー」

「仕方ない。俺はまともな文が書けないからな。」

「ま、戦闘面では海斗さんがいればなんとかなりますけどー」

「麗桜は戦闘向きじゃないしな」

「……ま、そうねー。で、うちらの残りメンバー二人はどこ行ったの?」

「…知らない、ここ一ヶ月は会ってないしな」

「ふーん…。」


 全く、どこに行ったのだろう。ま、海斗さんと二人きりなのはいい心地だから、ちょっとはこんな風でいいのだが。私がこの四人の中で一番弱いんだから、早く返ってきて欲しい。

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