#14 コマとして

 手元に残ったチケットは二枚。誰に渡そうか…


 知り合いはもうほぼ行くし…

 昔からの…知り合い…はあんまり遠くだし。


 そう考えていると、電話がかかってきた。

 演劇部の火車先輩だった。


『あ、もしもし?どう?八咫蔵先生行けそー?』

「いいえ、行けないそうで」

『そっか、了解………葵はどうするの』

「僕は…」


 彼女は何かを知ってるふうに話す。

 何も知らないはずなのに。


「行きたくない…と思ってるんですけど、どう、思います?」

『……そうかー……』


 彼女の方の電話からベッドに倒れ込むかのような音が聞こえる。

 そして、ベッドで少し体を伸ばしているのか、「んー」という声が聞こえる。

 沈黙が流れ、どちらも相手側の音がないのかと集中している……時。


『橘花、茜』


 その名は、発言された。


「っ!?どこでそれを」

『渚が見つけたら教えてって言ってた。だからね、私も探してた』

「探してた…?」

『うん。探してたら、情報が意外と集まったよ』

「教えてもらえませんか?!」

『明日、きて。』

「え」

『渡さなきゃいけないものもあるし、聞きたいこともある』

「…はい。了解です」


 と、通話を終了した。隣室にあった誰も寝ていないベッドを見て。


「やっと…!」


 と妹のキャリーケースを縦向きから横向きに変えた。荷物の整理をしようかと思ったが、流石にやめといた。

 彼女のキャリーケースから唯一とった、中学校卒業式の写真。これが今、僕にとっての希望になっている。この写真を、フレームに飾っておこう。


 *


柚音ゆのん〜、明日行くでいいんだよね?」

「…いいけど」

「茜ちゃんのことも話してくれる?」

「相手次第でしょ。情報戦は信頼と価値」

「…なんで」

「え」

「なんで私には話してくれるのに、他の人に話してくれないの?」

「嫌いな人には話したくない。力にならないし、そいつの自己満足で救われるほど軽くないし。」

「そういう話じゃ…」

「大体。その人、私を救ってくれる人?助けてくれる人?」

「それは…」

「ほら。クソ姉貴じゃそんな善悪の把握なんてできないんだから、先輩使って【裏切り者】として、コマとして使われてきてよ」

「……」

「いい?私が明日クソ姉貴についていく理由は、総研のランプを盗みに行くの。それを使って、私を救ってもらうの」

「はい…」

「わかったら、さっさと自分の部屋に帰って。クソ姉貴の顔はできるだけ見たくない」

「……」


 柚音は、【あの時】から変わってしまったなとずっと思う。

 私はただ昔と同じように……

 これであの子が変わるなら、私は何も言うことはない。



「それで、【裏切り者】。私のチケットは?」

「…あなたの分は後で確保します。」

「あっそ」

「お前らはずっと仲悪いよなほんと」

「それじゃ私は【演劇部あっち】と合流します。あなたたちはそのまま乗ってもらって。」

「うん。じゃ」



 4月29日。


 能力総合研究所見学のため、電車に乗り、ちょっとの遠出になる。


 僕は、演劇部としてと、F班としてと、個人的目的として。


 今この場に15人。

 こんな人数いるんだと今更ながら。


 そして僕たちは、実質一つの電車をほぼ貸切にして、約一時間の電車旅を約束された。

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