三つ巴-13:10

#13 都合の良いチケット

「じゃーん!!能力総合研究所の見学チケットでーす!!」


 これを聞くのは今日2回目だ。


 今日は、4月28日。明日から、一週間の休みに入るということで、こんなふうに遠出するイベントはあると思っていたが。

 クラスのF研究班と演劇部二つのグループで聞くとは思わなかった。


 最後の2年生の演劇部の先輩、火車ひぐるま 奏音かのんは、見学ためのチケットを、10枚持っていた。


「え…10枚ってことは…」


 清水先輩は顔を顰めた。


「あ、違う違う。八枚はみんなので、一枚は美奈せんせーの。もう一枚はうちの妹のチケットだから!」


 2年生の人たちは顔をほっとさせた。

 …たった一人を除いて。


「なんだみんなそんな深刻そうな顔してー」


 渚先輩だけは、あの三年を変に思っていないんだろう。

 あっちがライバル視してるだけで、こっちは特に何も思っていないんだろうな。


「あの先輩は来なくていいと…私も思います」


 大江先輩もそう。


「でも演劇部だろー、一応誘うのが筋ってものじゃ…」

「あーあー、連絡はボクがしとくから…」


 霞がチケットを【2枚】取り、火車先輩は他の人にもチケットを配り始めた。


「あ、葵、顧問の美奈せんせーに渡しといてくれない?」

「…なんで僕が?」

「顧問の妹と葵が付き合ってるって噂が…」


 あぁ。あれか…


「…行かないと思いますけど…聞いときますね」


 僕はチケットを取って、演劇部の部室を出た。

 電話をかけて、彼女と繋ぐ。


「もしもし、美奈さん。」


 *


 僕は急いで、病院に向かっている。


『さっき意識を回復したの。でも…たった二分程度で…また意識がなくなってしまって』


 ……ふざけんな。

 人がお礼を言おうとしてたのに。

 絶対に死ぬなよ。


「紗凪!?」


 病室の扉を勢いよく開ける。

 紗凪はこの前と同じように、かなり浅い呼吸をして、意識を失っている。


「葵くん…心配なのはわかるけど、もう少しゆっくり扉を開けてくれる?そして、静かにして。」

「あ、すみません……」


 数分。無の空間が作られて、言葉が投げられず、固まったままだった。

 僕らも、紗凪みたいに……


「……似たもの同士ね、本当」

「え?」


 突然の美奈先生の発言は意味不明…というか、意味のない独り言のように聞こえた。


「……さっき、紗凪が起きた時、なんて言ったと思う?」

「え、」

「『葵は大丈夫だった?』って聞いたのよあの子。」

「え」


 【似たもの同士】だ。本当に。どんな状態になっても他人の心配をするなんて。

 本当にバカになったのか?僕は。


「そうだ。美奈先生、今度行く…」


 と、説明をして、チケットを渡そうとしたが。


「いや。私はやめておくわ。…この子のこともあるし。あなたたちはもう高校生。自分の身くらい、自分で守れるでしょ」

「あんなことがあったのにですか」

「…あれは原因があったからでしょ。」


 原因。十中八九、僕のせいだろう。


…僕は行かない方がいいかもな。


 *


「あーあ。」


 目的があるのに、それに対してのリスクが高すぎる。


 じゃ、この三枚のチケットはどうしようか。

 霞に言ったら、『妹行く用に残しておけば?』と言われたが。

 僕が行ったら、命が危ない。


 あんな奴らが僕に恨みを持って殺しに来てるなら。


「…あ、ぁの…!」


 と、後ろから声をかけられた。

「はい?」


 振り返ると、同じような年代の女の子がいた。


「…どうしました?」

「…チ…ケット…ゆずってくれま…せんか?」

「チケット?あぁ、これ??」

「…は、はい!」

「うん。いいよ」


 と、軽々しく、チケットを渡してあげた。


「…あああああ、ありがと…ございま、す」

「…君、名前は?ここら辺じゃ見たことないけど。」

「…【しぐれ】…です」


 彼女はそれだけ言って、病室に消えていった。


 不思議な人だったな。



「…はい。師匠。チケットは盗みました」

「うむ。ランプは【兄弟子】と二人で回収しにいけ」

「了解です。」

「期待しているぞ。【しぐれ】。」


 ……どうしようかな。本当に。

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