#11 呪は溶けずに

 そいつは、列車で僕を生贄として使った…


「お前…死んだはずじゃ…」

「はは、死んだ??笑わすなよ、お前らを殺すまで死なねえよ」


 こいつは死んだはずだ。列車の中で海斗さんが溺死させた、はず。


 なのに、生きている?


「わかんねぇ、って顔してるな?教えてやるよ。」

「なんだと?」

「俺の能力は【課呪】。何かに呪いをかけれるんだ。呪いをかけれるのは、生物、物体、事象…あとは知らない」

「クソ強いじゃねぇか」

「当たり前だ。グラップ様から頂戴した能力だ。強いに決まってんだろ。」


 いきなりそいつは距離を詰めて、俺の胸に向かって正拳突きを繰り出す。

 それを俺は腕をクロスして、受け止める。


「そうだろ?だから、俺は能力で威力をあげたりできんだ」


『衝撃を受けるとその衝撃がもう一度あたる』


 受け止めた拳から同じような威力の打撃がもう一度【無】から作られ、僕は後ろの方まで体を飛ばされた。


「葵!?」


 紗凪の悲鳴まじりの声が叫ばれる。


「さーて、知りたかったことを教えてやるよ。俺は、俺の【死に方】に呪いをかけてる。だからその限定した【死に方】でしか、死なないんだよ!!」


『指を鳴らすと剣が出てくる』


 パチン、と音が鳴り響いた。その瞬間、彼の右手には剣が握られていた。


「さて。まずは一人目かな??」


 僕の目の前に現れた男は背後の女に気づかない。


「残念でした」


 僕に斬りかかろうとした瞬間、彼の後ろには自分より明らかに一回りも二回りも大きなハンマーを振るった、八咫蔵紗凪がいた。


 彼は、その威力により、僕の後ろの方に思いっきり吹き飛んでいった。


「逃げるよ!!」


『逃げたら臨界内に入れる』


「待て!やめた方が!」


 といった瞬間、紗凪はどこかに消えてしまった。


 そう。敵であったあいつもどこかへと消えてしまった。


 ……なら僕も逃げれば!


 僕は歩いてきた方向へ走った。走ったのに。

 八咫蔵家まで戻れてしまった。


「葵…くん??」

「美奈先生…!」


 玄関には演劇部の顧問である、八咫蔵美奈先生がいた。


「先生!紗凪が!」

「ちょっと!何?どういうこと?」


 僕は、さっき起こったことを伝えた。


「…私だけじゃ何もできないわ」

「え」

「でも」


 先生は玄関の扉を開けると、目の前には八咫蔵三波さんが。


「葵くん、これを。美奈にはこれをやる」


 と、この状況を打破できるものをもらった。本当にできるのかは。


「君たち次第だ」


 *


 あいつの言っていた、呪いの言葉。呪いは口に出さなきゃ発動しない。だから、【言霊】じゃなきゃ発動しない。


 そして、【臨界】。

 これは見えない境界線の内側に二人がいるということ。

 解除の方法は?

 内側から破壊するか。境界線を外から破壊するか。


 でも今は【臨界】が見えない。


 なら。内側に入ればいいんだ。


 美奈先生が、紗凪の携帯に電話をする。


 1コール。2コール。3コール目で。

 電話を繋ぐことに成功した。


 ということは。呪いにかかったんだ。

 その瞬間、僕らは逃げた。

 そして臨界に入ることに成功した。


「あー?なんだ、わざわざ入ってきてくれたのかよ?」


 目の前の呪いの能力者は、剣を持ち、紗凪に剣を突き立てていた。


 彼女はもう、赤に染まっ…て……


「紗凪?」


 彼女の顔がクルッと僕たちの方へ向く。その顔はもう生気を失い、光がなくなった目をしていた。


【停止】


 それは条件反射。

 助けれなかった非力さと、今なら何ができるのかと【微小】な希望から見出した答え。


 時を遅行できるなら。

 対象の物体の一つくらい止めてやるよ。


「な!?止まった?」

「お前は殺すべき人間だ。僕が判断した。だったらさっさと死ね!」

「さっきの話覚えてねぇのかよ?全然わかってねぇ〜じゃ…」

「わかってるよ」


 【微力な力】を作用させて、臨界の中を駆ける。

 俺は、そいつの持っていた剣をそいつの心臓に刺してやった。


「は?」

「これで刺殺は違うな」

「まさか…お前」

「次は失血死でもしてみるか?」


 そいつの心臓から血は溢れんばかりに噴き出してくる。

 その状態でも、そいつは殴りかかってくる。剣を離して右手で殴りかかってくるので、剣の時を止めて、進めば剣が深く刺さるようにした。

 打撃は、掠っただけなので二度目も同じくらい。


『剣を引き抜いたら傷が全て治る』


 そいつは剣を引き抜いた。


「はは、めんどくさ」

「こっちの台詞だ」

「一対一なんだからさっさと終わらせたいのに」

「あぁ〜。違うな。二対一だ。」


 そいつの後ろには、美奈さんが突然として現れた。


『これを被ると、透明化するの。臨界の中に入ったら、私が被って作戦を遂行するから、あなたは敵を惹きつけて。』


 その作戦を今からやる。

 その作戦とは、条件付けだ。


 *


「これは?」

「SMの機械だ。」

「は?」

「…いや。説明が下手だった。与能力だ。一応名前はある。SMパッチ。Sをつけた者は“攻め手”、Mをつけた者は“受け手”になる。そして、逆転はしない」

「逆転しない…??」

「そう。受け手が攻め手を攻撃することは叶わなくなるの」


 *


 つまり。


「お前はもうゲームオーバーだってことだ」

「はぁはぁ…」


 折れた剣。流れる血。折れた左膝と右手首。


「さて。臨界を解除してもらおうか」

「…はは。いいぜ、クソ坊主」


 奴は息を整えながら、言霊を吐き続ける。


『臨界を解除したらラッカンのところに戻る』

「『爆ぜろ』」


 その瞬間、外側から潰された風船みたいに、衝撃を喰らった。そして、地面から衝撃を喰らった時。


『衝撃を受けるとその衝撃がもう一度あたる』


 落下の衝撃をもう一度受け、意識を失った。


「紗…凪……」


 僕は、また、救えなかった、のか?

 ………………え?またって、なんだ?

 誰を、救えなかったんだっけ??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る