#08 やっぱりそうだった

「葵…!葵!起きて!!」


 霞の声に起きた僕は、冠葉神社の中で意識を取り戻した。


「…霞は大丈夫なのか?」

「もう!起きて第一声がそれ!?ボクは大丈夫!葵は?」

「…僕は…」


 【何をしていた】??


「は?」

「いや。僕は何をしにここにきた?助けにきたことは微かに覚えてるんだけど…」

「記憶が…ないの??」


 あぁ、まただ。まるで【何者かにぐちゃぐちゃに混ぜられた】記憶が増えた。

 こんなふうに短期間で少量の記憶をなくす。


 それが僕の【普通】。


「失礼。」


 突然、男の声が響く。


「…海斗さん?」

「……誰?」


 霞は不安そうな声を漏らす。意外にこいつは肝が据わっているってわけではないのか。


「…わたし、MSAの異能課の人間です。平山海斗と申します。以後お見知りおきを。」

「あぁ、わざわざ…どうも…」


 と、彼は自己紹介を済ませて、僕に向き直った。ちなみに、MSAというのは昔あった警察のような存在らしい。この千秋街の治安を維持するための中心組織であり、支配している中心組織だ。


「さて、学生改め、葵さん」

「は、はい、なんでしょう」

「【指輪】どこで手に入れました??」

「【指輪】って…」


 そんなの…


「“これ”ですか…?」


 右手の薬指につけていた指輪を外す。


「そう。それです。どこでどうやって手に入れました??」

「これは…友人に…」

「もらったんですか?誰?名前は?」


 さっきから圧が強すぎる。


 …僕は全てを話した。

 いや。話したかった。あんなやつとこれからまともに生活をできる気がしない。


「ちょーっと、葵、あとで話ちゃんとしようね???」


 その結果もう一人、圧が強い人が増えたが。


「…ふむふむ。なるほど。その、紗凪さんからの、頂戴品…」


 彼は話を聞きながら熱心にメモをとっている。


「…というか、なんでそんなこと聞くんですか?」

「君はこの【能力】いつからあるか知っているか?」

「いや…知らないですけど」

「そりゃそうだ。今研究中なのだから。」

「へぇ…」

「まぁ少しばかり歴史を語ってあげます」


 能力の出現は、1000から2000年前。人間とは違う、生物が人間を襲うようになった。

 その生物が使っているのが【能力】、【異能】。

 もちろん、人間は対抗するために、そいつの実験、研究を行った。


 その第一弾が、【異臓いぞう】の手術。人間の体に、その生物の能力の核、【異臓】を入れる。その結果、その子孫に能力が受け継がれたり、新しい能力が発現したりしている。


 第二弾が、今回の指輪。

 【能力付与機械】ま、長いから英語に直して、“AAA《トリプルエー》”がよく使うらしい。もしくは、【与能力よのうりょく】。

 その、指輪が、その与能力の一種だ。


 第三弾が最近増えてる事例だ。

 なんだか知らないが、【神】、【女神】、【天使】を騙るものが能力を与える、【天賦てんぷ】。


 そんなふうに、最近の能力者は爆発的に増えてる。組織を使って、国を取ろうとする輩もいたりするから、そいつらを止めているのだが。


「いかんせん、人手が足りない。今日のも、実際の仕事じゃない。」


 ……そんな話に耳を傾けず、僕は列車であったことを思い出していた。


 リンセ…彼女は、神。だった。

 なら僕は、【天賦】である。


 次に、彼女、八咫蔵紗凪だ。

 彼女はどうやって、この指輪を手に入れたのだろう。そしてなんで僕に渡してきたのか。


 最後に、彼女。霞。


「霞、なんであんな奴らに捕まっていたんだ??」

「……。わかんない。電車に乗っていたら、急に襲われて。そいつらから、“舟橋渚”を連れてこいって。」

「渚…」

「…なんで?渚先輩が?」

「聞けなかった。電話をしたあと、すぐに意識を失ったから。」

「…それは危険ですね。きっと、あいつらの【界術】で意識を切られたんでしょう。今日一日は休んでくださいね」

「ありがとうございます。……いい?葵」

「うん。ゆっくり休んでくれ。」


 と、僕たちは、別れた。

 ここが運命の分岐点だと知らずに。


 *


「…行ってきましたよ、四ツ谷さん」

「お疲れ様。どうだった?」

「別組織が、渚を狙っています。理由はわかりません」

「んまぁーいるよね。」

「だから僕としては、渚を殺すより先に、組織の壊滅をさせたほうが…」

「…いや。そのまま進める。いいかい?」

「…はい、承知しました。」

「うん。【裏切り者】は使いやすくていいね」

「やめてくださいよ照れるじゃないですか〜」

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