第壱章 足跡を踏んで

弾丸-01:12

#01 主役は遅れて

「うん、行ってくるね、お母さん」

「行ってきます」


 列車の窓の外と内。向き合う僕たちは、外にいるお母さんに別れを告げていた。

 内には僕と僕の妹が座っていた。2人で遠出をするのなんて何年ぶりだろうか。

 というか、今回は遠出ではなく引越しなのだから、【2回目】だ。


 やがて、列車は少しの振動を伴いながら、駅から脱出をした。

 こうして僕たちはこの田舎を後にして、親と子の物理的の関係は引き裂かれた。

 ……【実子】じゃないけど。なんでかって?そんなことは良いじゃないか。


「あーくん、うち眠いから、着いたら起こしてくれる?」


 目の前に座っている、妹がそう言ってきた。まだ出発してから一分も経っていない。なんて野郎だ。


「…また夜通しゲームやってただけでしょ」

「うぐっ…その通りです…」

「まぁ、起こしてはあげるから。」

「やったー嬉しい、じゃ、おやすみー…」


 と、隣の妹は寝てしまった。


「…すんごく早く寝ることで…」


 おやすみ宣言から約4秒。彼女はもう寝息を立てている。

 彼女は、橘花茜。

 僕と誕生日が【数日違う】双子だ。

 そして僕たちは現在、【千秋街】に向かっている。この土地は現在トップの組織、MSAの管轄でありここに住めば将来も今も生涯安定だと言われており、ここに住むことになっていた。

 住む場所は、あっちに住んでいる知り合いに全てお願いしてある。なんとも使える【幼馴染腐れ縁】である。

 引っ越す理由もいたってシンプル。高校への進学である。


「……僕も寝ようかな」


 目の前ですやすや眠られるとこっちまで眠くなる。それじゃおやすみ、世界。


 *


【夢】

 眠っている間に種々の物事を見聞きすると感じる現象。

 現実が持つ確かさがないこと。

 現実のあり方とは別に心に描くもの。

 また、今後起きるかもしれないことや今まで起きたことの再現。


 *

「うっさい!!黙れって言ってるだろ!?」


 そんな怒号で起きる。

 僕は…


「え!?」

「うっさい!」


 理解するより先に、声が出てしまった。だって、手を縛られて、どこだかわからない席に座らされている。

 この列車は、【ゴールドクロード号】のような豪華列車ではないため、料理などが出たり、睡眠場所があったりしない。

 なのにこの場所は、生活拠点のようになっている。

 まさか…


「おら、着いてこい」


 僕は頭を掴まれて、屈強な男の目の前に置かれた。


「…ボス、この子を人質にして、占拠をするってまじですか」

「…ま、上からの通達だ。特にできなくても文句は言わねぇだろ」


 占拠?人質?上??聞きたいことなんて星ほどあったが、聞いてる暇はなさそうだ。

 近づいてきたボスという人は、僕の耳元に口を近づけ、こう。


『抵抗したら息の根を止めてやる』


 そうして僕は【まじない】をかけられて、前の客席に連れられて行った。


「お前らぁ!!ありったけの金を出せ!!!」


 僕の頭に拳銃を突きつけたボスは、そう列車の客に叫ぶ。

 列車の電光掲示板に書かれてある駅に着くには約二時間かかる。

 外からの助けは来ないだろう。

 列車の客は全員怯えて動けない。

 僕を助けにきてくれるような人はいない。


「早く出せって言ってるだろ!!」


 1発。


 たった一つの鉄の塊は、二人の脳を貫いた。

 窓は一枚割れて、新鮮な空気が列車の中に勢いよく入ってくる。ついでに勢いに任せて2人の【死の香】も循環している。客席が悲鳴に溺れ始めた。


 ああ。ここで死ぬんだろうな。


『…私の代わりに生きてね』


 そんな懐かしい響きを思い出した。あぁ、走馬灯ってやつだろうか。誰だっけ……?

 思い出せない。僕にとって、大事な記憶のはずなのに。


「いいの?目瞑ってて?拳銃の引き金を引かれたら、死んじゃうんだよ?」


 いきなり、目の前の方からの声がする。

 すぐそこにいるように聞こえる。

 走馬灯ってやつはこんなに現実味があるのか。

 …いや。違うな。

 走馬灯を見るために瞑っていた目を、現実を見るために開く。

 嫌な現実を。


【覚醒】


 そこには。

 嫌な現実なんかじゃなくて。

 綺麗な金髪を持って、銀色の虹彩を持った瞳。

 特徴的な頭の上にある光るリング。

 小さな羽が背中に生えて。

 それは歴史書に見た、【天使】と同じ風貌で。僕の瞳には、焼きついたようにはっきり記憶できた。


「…んじゃ、自己紹介しようか♪ 私、リンセ=アンドリューワ。あなたの【専属神】です。」

「【専属神】??」

「そう。葵くんに能力をあげる。そのためにここにきて、今助けてあげてるの。」

「今、助けに…?」


 周りを見てみると全ての【物体】が止まり、僕とリンセ以外動いていない。


「そ。こんなふうに、【時を止めて】君を助けたの。」

「なんで…」

「なんでかなんて関係ない。あなたはもう【こっち側】にきてしまった。」

「え…」

「君に考えてる暇なんかないよ。さぁ、戦う準備はいい??」

「戦う準備!?!?そんな物…」

「あるでしょ。」


 つい数年前に捨てた感覚を思い出す。


「…【そっか】。うん。いける」

「それじゃ、時を動かすから。もう、震えと青ざめた顔は治った??」

「あぁ」


 彼女のことは知らないはずなのに、少し懐かしい気がする。【リンセ=アンドリューワ】。

 彼女は僕の【専属神】。

 そして、能力をくれた…??


 【なんの能力】を??


 この世界に能力者がいるのは知っている。

 でも、能力というのは総称である。

 どんなものがあるのか…それはたくさんだ。

 詳しいことは知らない。


「なぁ、リンセ、能力って…」


 その瞬間、時は進み始めた。


「ちょ、待っ」


 その瞬間、僕の頭には拳銃の先端があった。


「あ、やば」


 僕はその瞬間、【微細な力】をもって空間を支配した。拳銃の引き金をそいつが引く前に。乗客が1人立つ前に。僕は、拳銃を持っていたそいつの手を、壁に叩きつけることができた。


「…すげ」

「ふざけんなぁ!はなせぇ!!!」


 目の前のやつはすごい形相で、抵抗をしてきた。

 だがその刹那、後ろから飛んできた【真っ白】なナイフが彼の顔の真横に刺さった。


「…あぁ、ごめんなさい。少々煩かったもので。少し静かにできますか??」

「…」

「そうです。次の駅まで静かに…」

『抵抗したら息の根を止めてやる』

「なら。」


 彼は。

 能力を使って、彼を【溺死】させた。


 わかるというより、理解しなければ、状況次第で【俺】も同じことになりかねないんだ。

 でも、一応仲間っぽい。


「息の根を止めるのはあなたじゃないです」


 それを合図に、後ろのドアから、仲間が数人出てきた。


「…NEAの残党か…??いや…」

「ちょ!後ろぉ!?」


 彼が何か言ってた時、後ろから刀を持った敵が彼を襲っていた。

 それを僕は危険を伝え、叫ぶことしかできなかったが。


 敵の刀は彼の体の手前で止まり、金属音が鳴り響いた。

 何が起きた…!?


「おい、学生!やれるか??」

「学生って僕のことですか?」

「あぁ。できるだろう?お前も異能持ちだろ」

「はい!いけます!」


 そうして、【内側】の世界にしっかりと迷い込んだ僕は、懐かしい気持ちと共に、列車での乱闘に参戦した。

 でも、その後これより酷い目に遭うとは思ってもいなかった。この時の僕は。


 *


「海斗さん!敵の拘束終わりました!」


 あの、協力をしてくれた人は平山海斗。MEAの人らしく、重大な【事件なにか】を解決させるためにこの列車に乗っているらしいが…


 彼は今電話中だ。きっと連絡でもとっているんだろう。


 ……僕は能力者になってしまった。


『君は時間を操ってるらしい。しかも遅行ゆっくりと方向にだ。なのに君はいつも通りに動ける。俺よりもよっぽど見栄えがいいね』


 というのが海斗さんの見解らしい。

 だが。僕は違うと思っている。もっとなんか……

 順応する……みたいな。


「葵くん」

「はい?なんでしょう」

「君は今から次の駅で、この列車の乗客全てを出してもらう。」

「え!?なんでですか!?」

「凶悪事件の発生地の予定が次の駅だからだ。」

「だったら僕も…」

「ダメだ」

「え」

「お前はさっさと引っ越しを済ませろ」

「……了解しました」


 *


 僕は、運転手がいる先頭へと走っている。ついでに妹がいるはずの車両へと行った。

 なのに、元々僕たちが座っていた場所に引っ越しの荷物以外は何もなかった。

 何が起きているのか全くわからないけど、先頭には行かなきゃいけない。


 ……結局、列車の放送により、次の駅で乗客全てが降り、その列車はテロ犯を陥れるための罠として、無人で発進して行った。


 ……茜はまだ見つかっていない。


 *


「それで?今回の収穫ですか?そいつが?」

「あぁ。こいつは使えると思ってな。」

「おい、そこの【赤髪】、名前は?」

「……【赤髪】…じゃ、【アカネ】でいいよ」


 目の前には王座のようなものに一人の男が鎮座している。


「ようこそ、NEAへ。君はここがどんな組織かわかっているのかね?」

「……わかってるよ。“能力者は殺せ”」

「ふふ、君の働きに期待しているよ、【アカネ】?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る