猜疑に満ちた仮面舞踏会 1
ヘルメスさんから『アクセサリ完成』の知らせを受けたのは、それから2日後だった。2日で完成って……ヘルメスさん、どれだけ無理したんだろう。
帰宅した私は早速アネファンにログインし、ヘルメスさんに会いに行ったのだった。
「お待たせ、ヘルメスさん!」
「あぁ、お疲れ、カローナ。出来てるぞ」
「本当ありがとう! ヘルメスさん、無理したでしょ?」
「心配する必要はないぞ。ほぼ趣味みたいなものだからな、好きでやっているだけだ」
「わー、気遣いできるイケメン……ヘルメスさん、結構モテるでしょ」
「そうでもないぞ。プロゲーマーをやっていれば出会いもない」
「またまたぁ……もし現実の方もそのルックスだったらモテモテよ?」
「…………」
「えっ、もしかしてマジでトレースアバター?」
「ずっとプロやってるから、別に顔を隠す必要もないしな」
「普通にイケメンじゃん……イケメンだし身長も高いし、長くプロを続けられる実力もあって……無敵じゃん。女の子紹介しよっか?」
「いらん。……で、注文の品だ。確認してくれ」
「あっ、そうだった」
ヘルメスさんがインベントリから取り出したそれを受け取り、少し光に透かすようにして見てみる。
「『アモル・ノワール』……“
それは、黒く美しいクリスタルでできた、バラのイヤリングであった。一枚一枚削りだしたであろうバラの花弁は小さくも非常に精巧で、そのバラの下に繋がっている水色の雫状のクリスタルも主張しすぎず、美しい。
何より、色合いとか雰囲気がとても『仮面舞踏会』っぽい。
「【
「完璧よ、ヘルメスさん!」
「あえて目立たないもの作ったが……お気に召したか?」
「むしろこういうのが一番良いのよ! あぁ……現実でもこういうの欲しいなぁ……」
「女性的には、やっぱりこういうのに興味があるのか?」
「もちろん好きってのもあるけど、乙女的にはこう……『誰かに贈ってほしい』みたいな———」
———あっ、ダメだ。
前のデートのせいで、プレゼントを携えたクウの姿が脳内で再生される……。なんだか変に意識しちゃってるなぁ、私。
「どうした?」
「んーん、なんでもない。ありがとねヘルメスさん、これで準備が整ったわ!」
「それは良かった。……天下のカローナ様に言う必要もないとは思うが、気を付けて行ってこいよ」
「ふふ、ありがと♪ お土産買ってくるからね!」
「旅行じゃないんだから……」
もぅ、ヘルメスさんのツンデレさんめ!
……冗談はさておき、このお返しはちゃんと考えておかないとね。
♢♢♢♢
翌日……ついに来た『仮面舞踏会』当日だ。
あらかじめ王宮で着付けを行った私は、ティターニアちゃんと最後の打ち合わせを進めていく。
「改めて確認じゃが……最終目標は、ウェルブラート辺境伯に自白剤を飲ませ、可能な限りの情報を引き出すことじゃ」
「禁止事項は、戦闘行為全般ね?」
「そうじゃな。攻撃はもちろんの事、薬を飲ませるのも見られるでないぞ」
「めちゃくちゃ難しいわね……」
武器の持ち込み禁止、インベントリ使用禁止、攻撃アビリティ使用禁止の制限があって、わざわざ戦おうなんて気にはならないけどね。
「まぁ……無理に推し進めずとも、『
「オッケー! じゃあそろそろ行った方がいいかしら?」
「うむ。では、魔法陣を起動するぞ」
ティターニアちゃんがそう断り手を横に薙ぐと、足元に発生した魔法陣が私を包み込む。
これは【
『
それほど強固なセキュリティが敷かれているということだ。
「行ってくるのじゃ、カローナよ。健闘を祈る」
私が仮面で顔を隠すのと同時、魔法陣は徐々に光を増し、一瞬の浮遊感の後———私は宵闇の中、静かに佇む洋館の前に現れた。
♢♢♢♢
暗闇の中に
不審な動きをするわけにもいかないので、何食わぬ顔で入口の方へ。そこには、小太りで背が小さい、見るからに胡散臭そうな男が立っていた。当然この人も、仮面で顔を隠している。
「招待状を拝見します」
「えぇ」
「……確かに。ではこの扉を潜り、中で次の検査をお受けください」
男性に案内されるままにドアを潜って中へと足を進める。
次に現れたのは、侍女らしき女性だ。もちろん、この人も仮面着用。
「失礼致します」
服の上から軽く身体に触れられ、ボディチェックを受ける。
……なるほど、ここで怪しいものを持ち込まれないようにチェックしているわけか。これは確かに厳しいセキュリティだ。
「そのイヤリング……」
「……何かしら?」
「……すみません、あまりにも高価な物でしたのでつい気になってしまって……とてもお似合いです」
「ありがとう」
「はい、結構です。どうぞ、お通りください」
さらに奥に足を進める。
見上げるほどに大きく、豪華な扉の前、やり手の執事らしい出で立ちの男性が立っている。ピシッとしていて、とても姿勢が良い。
「失礼します、お嬢様」
執事らしき男性は、
ドレスはめちゃくちゃ綺麗だけど、特に効果もないものだから問題ない。唯一心配なのはイヤリングだけど……ヘルメスさんの自信作だから大丈夫でしょ。
「ドレスもアクセサリも一級品……お美しいですよ、お嬢様」
「あら、ありがとう」
執事らしき男性が優雅に一礼すると、荘厳な音を立ててドアがゆっくりと開いていく。
これで招待状も、ボディチェックも、鑑定検査もパス。
いよいよ、『仮面舞踏会』の会場に足を踏み入れる時が来たのだ。
「ではお嬢様……ようこそ、『
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