相変わらずヘルメスさんの負担がヤバくない?

「ヘルメスさーん!」


「カローナか。……相変わらず騒々しいな……どうした?」


「ヘルメスさんってしれっとディスってくるよね……」



 翌日、私は『猜疑に満ちた仮面舞踏会ラ・クンパルシータ』攻略の準備を進めるため、ヘルメスさんの元を訪れた。


 ……なんかさ、新しいクエストに行こうとする度にヘルメスさんに頼ってるよね……。


 仕方がないんだよ!

 必要な装備を揃えようとしたら、ヘルメスさん以上に適任が居ないんだもん!



 ヘルメスさんは『ディー・コンセンテス』以外のプレイヤーからの依頼も受けてたりしてるから、かなり忙しいんだけどね……ごめん……。



「えっと……新しいユニーククエストを発生したから、攻略に必要なアクセサリを作って貰おうと思って……」


「また新しいクエストを持ってきたのか……後ろにいるNPCも、その関係か?」


「そういうこと!」


「お初お目にかかります、ヘルメス様。私はラ・ティターニア様公認の宮廷薬師・・・・、ケラスと申します。以後、お見知りおきを」



 そう、今回ヘルメスさんのもとを訪れたのは、私だけじゃない。薬を作るスペシャリスト、『宮廷薬師』のジョブを持つNPCも連れてきたのだ。


 "恋人ザ・ラバーズ"の毒を元にケラスさんが自白剤を作り、それをヘルメスさんが【変転コンバージョン】付与のアクセサリに落とし込む計画だ。



 という説明をヘルメスさんにすると、しばらく思考を巡らせたヘルメスさんが口を開いた。



「一つ、問題がある」


「問題?」


「あぁ、お前から受け取った『恋人ザ・ラバーズ』の素材は、全身装備と『ネペンテス・シナプス』を作るのに全て使いきった。薬の現物さえあればそれを生成する【変転コンバージョン】を付与するのは可能だが、装備を作るための素材が無い」


「あー、なるほど……どうしよう?」


「……カローナ、また素材になってくれ」


「えっ」



        ♢♢♢♢



 クラン拠点を持たない私達は、『アーカイブ』の拠点を訪れて部屋を借りることに。これからのことは、他の人の目に付くところでやりたくないしね。



「失敗しないでよ? ヘルメスさん」


「任せろ、素材は大切に扱う」


「私を大切に扱ってって言ってるのよ!」


「冗談だ」


Mr.Qクウならともかく、ヘルメスさんが言うと冗談に聞こえないんだってば!」



 まったく……ヘルメスさんは、普段あんまりそういう冗談を言わないタイプなんだから……。



「はぁ……そろそろ準備はいいかしら?」


「いいぞ、やってくれ」


「じゃあ……【進化の因子エボリューションコード──"恋人ザ・ラバーズ"】、発動」



 ズッ───と、アナザーモンスター特有のプレッシャーが溢れ、私の姿が変化していく。


 髪に緑色が混ざり、身体から蔦や根が延び始め、頭の上に赤い花が咲いて芳香を帯びる。


 【進化の因子エボリューションコード──"恋人ザ・ラバーズ"】を発動したこの3分間、私は『ネペンテス・アグロー』となり、同じ力を使えるのだ。



 別に今から何かと戦おうというわけではないけど……重要なのは、種族・・が変化するということ。


 プレイヤーであれば、切り落とされた腕や身体の一部はすぐにポリゴンとなって消えてしまう。



 しかし、今の私は『ネペンテス・アグロー』だ。つまり、この3分間だけは、私の身体から『ネペンテス・アグロー』の素材が採れるということである。


 さすがにこれを他のプレイヤーに知られるわけにはいかない。じゃないとアナザースキル持ちのプレイヤーは、素材を得るために他のプレイヤーに狙われることになる。


 ……『ネペンテス・シナプス』を作る時もこうしたんだよね……。自身が素材として見られるのは、ちょっと怖かった。



「毒から薬を作るというのであれば、その成分を多く含む花弁の部分を採取するしかない」


「マジで気を付けてね? そこ、普通にダメージ受けるから」



 アナザーモンスターの"恋人ザ・ラバーズ"がそうだったように、今の私の弱点は、頭の上にある薔薇の花だ。


 蔦はいくら斬られてもダメージはほとんど無くすぐに再生するけど、花弁はそうもいかない。



 VITの低い私は普通にダメージを受けるし、下手にHPが0になったら、ヘルメスさんがPKした扱いになってしまうのだ。


 ってことで、椅子に座る私の横にはHPポーションを用意。ハサミを持ったヘルメスさんが私の後ろに立つと、なんだか今から散髪が始まるように見える。



「行くぞ」



 そう一言断って、ヘルメスさんのハサミが私の花弁を切り始めた。


 あぁぁぁぁ、ダメージがすごいんじゃぁ……。本物は花弁を全部落とさないと倒せなかったけど、このHPの減り具合……途中で死ぬな?



「痛っ……! ちょっ、クリティカル入ったんだけど!?」


「すまんすまん……早めにポーションを飲んでおけよ?」


「まったく……」



 クピクピとポーションを飲みながら散髪・・することしばらく。【恋人ザ・ラバーズ】が解ける頃には、必要な量の素材が集まった。


「これだけあれば十分だろう?」


「多分ね。じゃ、次はケラスさんにお願いね」













「これはまた面白……凄まじい素材ですね……」



 採取した素材をケラスさんに渡すと、そんな感想が返ってきた。これを見て『面白い』と言えるとは……この人もまた職人・・なのだろう。



「これで作れそうかしら?」


「問題ありません。かなり強力な薬が作れるでしょう」


「良かった……♪︎」


「その間に俺はアクセサリを作っておけばいいな。いつまでに作ればいいんだ?」


「それが……3日後だったり……?」


「……はっ? おまっ、もっと余裕持って話を持ってこい!」


「これに関しては本当にごめん! 一応舞踏会自体は何度か開催されるから、1回目に間に合わなくても2回目以降で……」


「はぁ……まぁ何とかしてやる。クエスト目前でお預けというのも歯痒いだろう」


「ホント!? すっごい助かる、ありがとうヘルメスさん! やっぱりヘルメスさんしか勝たんのよ」

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