やっぱりダンスって楽しいなぁ!

 ダンスパーティの開幕である。


 このパーティは、あくまでも交流会がメインだ。空にひしめく無数の堕龍おろちへの対策会議は別でやっていて、このパーティは仲を深めるための催し物に過ぎない。


 当然マナーはあるものの、さほど畏まった空気ではないようだ。



 ティターニアちゃんもそのつもりなようで、挨拶もそこそこに、食事やダンスを楽しんでほしいとのことだった。


 ……残念ながら、ダンスボールは主賓がトップバッター。ティターニアちゃんのピンチは、いきなりやってきた。



「……頼むのじゃ、カローナ……」


「お任せください、ラ・ティターニア様。お手を……」


「うむ」



 ティターニアちゃんの前に跪いて手を差し出し、ティターニアちゃんの応答を待つ。そして、ティターニアちゃんの小さな手が私の手に重ねられると、時が止まったように周囲の注目が集まる。


 美しき妖精の女王と、物語の中から飛び出してきたかのような整った出で立ちの王子様。そんな二人が手を取り合う光景は、さながら絵画のようであった。



 そんな光景に目を奪われ、しんと静まり返る大広間に、ゆったりとヴァイオリンの音色が響く。次第に様々な楽器が加わっていき、そしてボールルームは一つになった。



「……ふふっ」



 ついつい笑みが零れる。

 結局私って、ダンスが大好きなんだよね。ジャンルに限らず。

 『本当の自分』を出せるというか、言葉を発しないからこそ本心が出るというか。


 とにかく私はいつも、ダンスをする時にはついつい笑っちゃう。



 滑りだすように静かに、それでいて優雅に、ティターニアちゃんの手を引いてボールルームの中央へ。


 ティターニアちゃんの少し驚いた表情が見えるけど、全然心配ない。コンディションもテンションも上がりまくってる今の私は、ダンスなら全てを完璧にこなせると自信がある。



 周囲の人達全員が、息を飲むのが分かった。

 NPCだけではない。セレスさんもお非~リアさんも、私のダンスに魅入っている。


 それほどまでに、彼女のダンスは段違い・・・であった。



 ふふふ、よくその目に焼き付けろ。

 これが現代ダンスの技術だ。

 心を奪われるが良い!



 なんて、どこぞの魔王みたいな考えをしながらも、ダンスは完璧だ。もちろんティターニアちゃんのリードも忘れない。


 新しく、美しく、そして踊りやすいリードに、ティターニアちゃんも驚いていた様子だったけど、しばらくしたら大丈夫だと安心したのだろう。


 僅かに頬を緩めたティターニアちゃんは、それはそれは美しかった。



 何分経っただろうか。

 目を奪われ、呆然としていた周りの貴族達も、ハッと我に返ってボールルームへと歩み出た。一組、また一組と参戦していき、ようやくダンスパーティらしくなったようだ。








「ティターニア様も動けるようになってきたんじゃない?」


「おかげ様での……お主に任せて正解だったようじゃ」


「それは良かった♪ 言ったでしょ? ダンスは完璧だって」


「周りを見てみるがよい。観衆も演奏者も、他に踊っている者すら、目の前の相手ではなくお主に視線を向けておる。これはとんでもないことじゃぞ」



 ティターニアちゃんの言う通り、私に注目する視線を感じる。なんだかんだで、こうやって注目を集めるのは結構好きなんだよね。まぁ、自己顕示欲とか、承認欲求が強いってことでもあるんだけど……。


 そういう意味では、配信者を選んだのは正解だったかも。



「こんなに注目されてるなら、それに応えないとね!」


「……私がついていける程度で頼むのじゃ」



        ♢♢♢♢



(あればっかりは、さすがに僕も真似できないなぁ)



 ボールルームの中央で、妖精女王の手を引いて優雅に踊るの姿を見て、演奏者としてヴァイオリンを弾くのハヤト……もとい『ファルコン』はそんなことを考えていた。


 いくら変装していても、プレイヤーは頭上にプレイヤー名が表示されるから誰かは分かる。それに、あのレベルのダンスを踊れるのは、姉であるカナコぐらいしかいないのだから。



 ミスがないとか、難しい技巧が多いとかはもちろんそうなんだけど、それだけじゃない。なんというか……直感的に美しいと感じるようなものだ。


 『黄金比』を万人が美しいと感じるように、ことダンスに関しては、カナコは自身の身体のどこをどう動かせば、見ている者が美しい・・・と感じるかを熟知しているようだ。


 だからこそ、魅了される。

 ただ、理論的に分かっていても、それができるかと言われれば別の話だ。


 それはもう才能に類する領域で、それに関しては、カナコは天賦の才を持って生まれてきたのだろう。身内贔屓を無しにしても、これが僕の本音だ。



(そんな才能を持って生まれてきた上に、人一倍努力するんだもんな……その結果がこれ・・なんだから、納得はするか)



 せめて姉のダンスを引き立てるようにと、フゥッと息を吐いたファルコンは演奏に集中する。



 そんなファルコンも、楽器の才能を認められてあっという間にのし上がり、ミンストレル系隠しユニーク職業ジョブ『妖精女王星楽団コンサートマスター』を取得するような、天賦の才の持ち主だったりする。


 カナコがダンスで発揮する才能を、ハヤトは楽器演奏で発揮しているのだ。


 ハヤトがカナコに対して『真似できない』と感じるように、カナコもハヤトに対して同じ感想を持っているとは、彼は気づいていなかった。

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